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母親によって森の一軒家に監禁されて育つ3姉弟。死んだ末娘が忘れられない母親はこれ以上子どもを失わないようにと願い、監禁という手段で実行にうつす。
その暮らしは牧歌的なようでもあり、鋭利な氷の上で暮らしているようでもあり、優しさと切なさに満ちている。
幼さゆえか悲壮感はなく、けれども成長にともない、この穏やかな日々の歪みに気づいていく。
閉ざされた空間においても、わずかな楽しみや明るさを見つけて増幅させる子ども達の姿が、アンネ・フランクを連想させた。
消えたオパールとジョーの物語が読みたい。二人の間に密やかに交わされたものは何だったのだろう。
時間に守られていた化石や、ひんやりした鉱物が文中のどこかに埋め込まれているような読み心地だった。
表紙の写真も好み!
2016.9再読。
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ひっそりとしたとても哀しいお話。閉じられた世界にずっと居たいと思う物、出ていきたいと願う者、知らない内に出て行ってしまった者。それでも、幸せだったときもあったのだなあ。
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作者が紡ぎ出す世界はいつも透明感に満ちている、静謐さが漂っている、というまるで鉱石のような凛とした存在であるようにたとえられているように思います。
そしてこの作品は、いままで作者が紡いできた世界の要素で満ち満ちた、希少で尊い物語、のように感じられたのでした。
ユニークで豊かなイメージを想起させるさまざまな小道具たち、図鑑や小石、ミモザ、ツルハシ、王冠に羽根、といったエッセンスがちりばめられ、人間というよりは人形めいた気高さを保つキャクラタたちがそのエッセンスをきらきらと、輝かせる。そうして図鑑の余白の少女の所作ように魅惑的な世界が生まれ、読んでいるあいだ、うっとりと浸れるのです。
視点を変えれば残酷な半生をたどらざるを得なかった子供たちの物語です。けれど、その壁の中の時間において彼らは幸せを得られていたという事実もまた揺るがないものです。その危うい幸福のかたちがとても蠱惑的にすら感じられました。
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館の敷地内という小さな世界で暮らす3人の子供たち。童話の中の様な、不思議で奇妙な暮らし。そんな環境で育った子供たちの発想が素敵だなあと思う反面、怖さもある。とても透明感のある物語だなあ。外から見れば子供を長い間監禁していた母親と子供たちのお話。ホラーとも言える?2015.11.16読了
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【ネタバレ】ストーリーを煎じ詰めれば「頭のおかしな母親に幽閉されて歪んでしまった三姉兄弟のお話」で、その陰鬱とした展開にただただ疲れました。「博士の愛した・・・」のように、わかりやすくてストレートなお話はもう書かないのかなぁ。
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子どもが亡くなったことを「魔犬のせい」だと言って、外界から隔離することで残りの子どもたちを守ろうとする母親。幼少期から、世間から遮断されて過ごす3人の姉兄弟の姿を描いている。
家族以外との交流を禁止された子どもたちは、シングルマザーである母親の狂った愛情に疑問を持つことはない。
作者はインタビューで、閉じ込められた空間のなかで心の自由をどう得るかを描きたかった、と言っていた。確かに、子どもたちは特殊な状況のなかでも悲惨さはなく、楽しく過ごすための独自の遊びを考えて、想像力豊かに育っていく。その様子を、作者はいつもの静かで清らかな世界として、淡々と描く。
しかし、子どもたちの異様な世界が美しく幸せそうに見えれば見えるほど、私は背筋が寒くなった。戸籍上の名前を名乗ることを禁止され、図鑑で偶然指差した鉱物の名前を名乗る子どもたち。
本来の名前を奪うことは、当人のアイデンティティーを奪うことでもある。
何かが欠け歪んだ人間を、不気味さと美しさとの微妙な均衡を保って描く、従来の作品は魅力的だ。でも、今回は虐待される子どもたちを美化するようにも見えて、読みながらずっと抵抗があった。
しかも、子どもたちが救出されると、母親は自殺している。明らかに、自分のしていることの意味を理解しているわけで、彼女に弁解の余地はない。もちろん、事件そのものを取り上げたミステリーではないことはわかっているのだが…。
私自身が子を持つ母であるから、余計に母としてのあり方が気になり厳しくなってしまうのかな。
というわけで、もやもやした気持ちを引きずってしまい、好きな作家の新作とあって期待が膨らんでいただけに余計にすっきりしない読後だった。
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う~ん、どうしたらこういう発想が生まれてくるのでしょう・・・小川洋子さん。
小川さんの作品はこれで3冊めか4冊目ですが今のところどれも外れはないですね。
今まで読んだ本はみんな、えっと驚くような内容ですが、実際あり得なくもない、こういう事が世間にはあるかもしれない、と思えるような出来事が題材になっています。
言葉も丁寧に丁寧に選び抜かれて綴られていて、作品に没頭するとすっとそのお話の中に入っていけます。
まるで自分もその場所にいて登場人物達の息づかいが聞こえるほどです。特にこの話は「音」がひとつのキーワードになっているので、読んでいる間は静寂の世界にいるような錯覚を憶えるほどです。
そして今回発見したこと、小川さんの描く家族は完全ではないということ。何かが欠けている、誰かが欠けているのです。
何か意味があるのでしょうか、知りたいです。
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一行読むだけで小川さんの世界が一気に広がります。登場人物の名前が出てくる度に、西洋な雰囲気がふんわりと漂ってきます。夫と離婚をし娘を亡くし、閉鎖された家に母と子供たちが誰にも気がつかれないよう、息をひそめて暮らす。子供たちはまるで図鑑の中のおとぎの国の小人のような生活。心を許せる人物がごく僅かであり、その人物が訪ねてくる時が唯一、外の世界を感じる。子供が目の病気になって視力が失われつつあっても、病院にも行かない。いや、行けなかった。ラストはチャイムの音で現実に引き戻され衝撃的でした。子供たちが素直で無垢な気持ちで成長している事が何とも言えない。母親の方針で子供たちは世間の事を何も知らないで過ごす、その人生は果たして幸せだったのだろうか。
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小川洋子の描く世界は閉じられてひっそりと物音の余りしない極めて非日常的な世界だと思う。「密やかな結晶」も「猫を抱いて象と泳ぐ」も「人質の朗読会」も。そこに描かれるのはどこかしら日常生活から隔絶した感のある登場人物たち。ピーターパンや星の王子様のような。しかしメルヘンの主人公たちとは違い小川洋子の登場人物たちは年齢を重ねる。隔絶された筈の世界に永遠に留まる訳ではない。守られ続けることは出来ない。温かな胎内からいつかは出てこなければならない。当たり前のことなのにそのことが絶望的な悲しさを引き出す。結局のところ人は常に一つ処に留まりたがる生物なのかも知れない、と思いがあらぬ方向へと流れ出す。
「博士の愛した数式」では、いつまでも同じ時を生き続けるものと成長してしまうものとの間に広がってしまう距離が印象的だった。常々、小川洋子は記憶に拘りのある作家であると感じてきたけれど、記憶は過去に押し遣られれば押し遣られるだけ現在とのコントラストが強くなり鮮やかさを増す。そして記憶している過去は既に失われてしまったことを否が応でも思い出させる。その喪失感に小川洋子は特別の感情を抱いているのか。
鉱物の名を偶然に与えられた姉弟たち。いびつな現実を強要されても、しなやかに適応するその様に病的な歪みを感じながら、その現実を無視した世界観に密かな憧憬の念が湧くのを禁じ得ない。誰かにとっての理想郷とはどこまでも薄っぺらでいびつな紛い物に過ぎないのかも知れないけれど。その理想郷を夢見るしかない現実が過酷であることもまた事実。ここに世間を震撼させた宗教団体の影を見るのは穿ち過ぎだろうか。
異形のものたちの巣食う別世界への入り口は、誰の傍らにも大きく口を開けて転がり込んで来るのを待っている。
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なんのおすすめだったか…?図書館で大分待って貸借。
一文読み進めるのが…重い。
ただでさえ産後で物語を読むのがキツイのに、ちょっと無理で
1/5ほどしかすすまずドロップアウト。
最後だけちょろ読みしたら
母親は自殺してるし
長女は殺された?次男だけ里子に?
母親の6年間の監禁の上、とか… 気分じゃない。重い。
子どもたちは、狭い空間にいるとき独特の
独創性をもった遊びをしているようで
やっぱりそうなるよね…と思った。
一人っ子とかそうだもんね。遊びが上手。
ひとまず、ちゃんと読めなくて残念、と。
待ってるひとは多いのでさっさと返す
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仕事帰りで疲れた電車のなかでも、お昼時のファストフードのカウンターでも、ページをめくれば本の世界へ連れていかれる。その吸引力はいつもどおり。ただその世界がときにつらすぎてせつなすぎて、すこし、つかれた。
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限られた空間の中にも永遠の世界が有って
その中で永遠に生きることができる。
だけどその空間がおさまりきれなくなって
飛び出す日もやがてやって来る。
それが成長?
美しい表現にその世界で部外者も遊ばせてもらう。
小川洋子の頭の中を見てみたい!
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儚く美しい小川ワールドがいっぱいです。「事情ごっこ」のストーリーは、うなります。でも、けっこう重い題材ですね。
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壁の外に出ることを母親から、禁じられた3人の姉弟の生活を描いた作品。小川ワールドの中で繰り広げられる独特な世界にどっぷり浸る日々でした。
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ああもう…分かりましたよ、何度でも言いますよ…好きです小川先生愛してますもうどうにでもして…←←
のっけから気持ち悪い告白すみません。
でも毎回、小川作品のレビューではだいたい気持ち悪い愛の告白ばっかりしてるんでね、いつも通りですねハイ←
この作品に出てくる母親の行為は、もちろん許されるものではありません。だけど、外から見ただけでは恐ろしく見える「事件」が、小川先生の手にかかると、こうも美しいフェアリー・テールになってしまうんだなあと思うと、冷たいものが背筋を走るようでした。何が怖いって、この話を「美しい」って感じてしまう自分の感性よね…。他の皆さんのレビュー見てたら、そんな同志が結構多いので、私大変ホッとしております…。
人の幸せを定義することなんて誰にもできないんじゃないか。
「彼ら」は彼らの世界にいたままでも幸せでいられたんじゃないか。
母親の行為をフォローしたくない倫理観と、美しい世界に魅せられてしまった背徳感が、矛盾なく私の中に併存してしまう恐怖に、最後には恍惚としていました。何それ怖い←
久しぶりに自分で内容紹介まとめφ(^o^;)む…むず…
屋敷の外に出てはいけません。外には、貴方達の妹を食い殺した魔犬がいて危険なのです―――。母親の言いつけを守り、父親が残した別荘に移り住んでから、鉱物の名前を持つ三人の子ども達は完全に外の世界との交流を絶った。世間と隔絶されて暮らす家族の、密やかで矮小な世界。そしていつしか瑪瑙の名を持つ少年の目には、幼い姿を留めたままの「あの子」の姿が映し出されるようになる。