紙の本
読み応えのある力作
2015/11/17 20:31
1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:Chocolat - この投稿者のレビュー一覧を見る
「特捜部Q」シリーズの続編を楽しみに待っていたけど、全く新しいこの作品にも非常に満足。簡単に言えば、戦争を背景に、真の友情とは?が描かれている作品ですが、何年も構想を練っていたというだけあって、しっかり調査されていて、歴史としても読みごたえのある出来映え。特捜部シリーズもユーモアの中にもシリアスな人生観が味わい深く、今回の、より重厚な作品への下準備にもなっていたかと。
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1997年刊行のデビュー作。
著者の代表作といえば『特捜部Q』シリーズで間違いないだろうが、本作は第二次大戦〜戦後を舞台にしたサスペンス。
ドイツに墜落した英国軍のパイロット2人が、追っ手から逃げるうちにどんどん逃げ場を失って行く冒頭にワクワクした。病院列車に逃げ込んで、最初の追っ手は振り切ったものの、重体の親衛隊将校に化けるしかなかったばっかりに……。
また、精神病院に収容されてからの、緊張感あふれる人間関係も面白い。この2人以外にも偽患者が何人かおり、どうも彼らは何か良からぬことを考えているようだ……。
さて、後半の第2部、戦後に入ってからは、脱走に成功し、今は医師としてそれなりの地位を築いたブライアンが主人公になる。精神病院に取り残された相棒のジェイムズの行方は未だに解らない……。
若書きというのか、第2部に関しては勢いを感じるものの、ややご都合主義に振れているきらいがあって、一部の登場人物の言動にわざとらしさが拭えないところがあるのは残念だった。
反対に迫力があって引き込まれるのはアクションシーン。これは後の『特捜部Q』にも通じるところが感じられた。また、『特捜部Q』は一種のキャラクター小説としても読めるのだが、本作でも登場人物の造形は高い水準にあると思う。
本邦では『特捜部Qの〜』という枕詞がつくユッシ・エーズラ・オールスンだが、未邦訳のノンシリーズ作品が3作あるようなので、こちらも邦訳されることを祈りたい。
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第1部は汚いし残酷だし、読むのが辛かった。裏表紙のあらすじがなかったら、読み切れなかったかも。
第2部からも、ひどい暴力でどうなるのか先が気になるから、読み続けたけど苦痛だった。
恐怖にさらされて生きていくことが、心に いかに悪く作用するのか分かった。
ジェイムズとペトラが今後幸せになればいいけど。
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がっつり読み応えのあるスリラー。
個人的な好みの問題で読み進むのに難渋。
100頁ぐらいカットしてもらえれば文句なかったんですけれど。
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戦争に赴く若き兵士たちと、戦地での悪夢のような体験。戦争を挟んで、30年後出会った幼な馴染みは、地獄のような体験により狂気という犠牲を払って待っていた。
ひどく簡単に本書の概要を記すとこうなるが、こうしてみると1970年代に劇場で観た強烈なベトナム映画『ディア・ハンター』を思い出す。主役のロバート・デ・ニーロとその周りを固める同郷の戦友たちの物語であって、ベトナムという地獄がもたらした人間性破壊の悲劇でもあった故に、若かった魂を心底揺すぶられた作品である。
本書は、あのディア・ハンターが持つ細密で長大な描写に近いディテール力を持つ。映画『ディア・ハンター』は、徴兵前夜の若者たちの一日を執拗なまでに描き、それに代わる唐突な戦場の描写は中盤にエピソードのように挟まり、しかし強いインパクトを観客に与える。映画は、戦争によって変わってしまった人間模様の戦後・後半部へと様相をがらりと変えてゆく。そこで友情や男女の愛を溶鉱炉のように変化させてしまった戦争の影響が陰影深く辿られ最大の悲劇に向かってゆく。
本書は、戦前部分よりも戦時部分のある特殊な悪夢体験を執拗に描くことでスタートする。第二次大戦末期、出撃した爆撃機の墜落により、パラシュートで脱出した二人の英国軍兵士が、ドイツの奥深くに逃げ延びる。追い詰められた彼らは病院列車に飛び乗り、死んでゆく親衛隊将校らに成り代わって生き延びるが、彼らはそのまま精神を病んだ者として、<アルファベット・ハウス>と呼ばれる過酷な施設での日々を余儀なくされる。さらに命を狙う四人組、脱走、死闘、空爆による施設の壊滅……と、これだけで第一部は終了する。
作者はしかし、「これは戦争小説ではない」と書いている。その通り、第二部は、生き別れた友のことを人生の十字架として感じている兵士が30年後のドイツへ赴くことで展開する新たなストーリーである。日々、死を意識させられて心まで病んでいたアルファベット・ハウスの記憶を軸に、あの四人組の残党と、置き去りにしてきた友との罪と贖いと許しの物語である。
人間の心を弄ぶ病院施設というと映画『カッコーの巣の上で』を思い出す。何と、作者は父が精神科医だったため幼少の10年間を精神病院で育ったそうである。そこでは患者が本当に精神を病んでいるのではなく、ふりをしているかもしれないという疑惑を常に感じていたそうである。それゆえ仮病が可能な病気としての精神病院という施設、そこでしか起こりえない陰謀、恐怖などがスリラーのモチーフとしてこの物語を構成しているようである。
精神への打撃を受けた友と、彼を救い出しに来た幼な馴染みは、少年時代の痛烈な思い出を共有しつつ、もう再生があり得ないような悲劇と犠牲を交感する。ナチというなんとも重たい歴史的題材に、人間を心身ともに支配するという最大の悪を表現してみせた力作である。これがデビュー作とは、そしてこの本の完成に8年を費やしたとは。作家としての活躍が光る『特捜部Q』シリーズ以前にこれほどの傑作をものにしていた作者、やはり只者ではなかったのである。
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ヨーロッパの作家にとってナチスドイツものは一度は取り組まなければいけないテーマなのかも知れない。どれだけのナチス党員が戦後前身を隠して安穏と暮らしていたのだろうか。
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割と関係にもえつつも、
もし友人を置いてくることがあったら、至急且つ速やかに助けにいくべし、と思いました。
深夜プラスワンを読みたくなる雰囲気。
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第二次大戦中、ドイツに墜落した2人のイギリス人パイロットは、精神を病んだ振りをしてドイツ軍の高級将校専用の精神病院に収容される。
だがそこには同じように精神病の振りをしている悪だくみをしている4人のドイツ軍将校がいた――。
からくも1人で逃げ切ったイギリス人パイロットは戦後、心ならずも置き去りにしてしまった友人を探しにドイツに向かう――。
ってなストーリーなので、読了後は『ディアハンター』と『カッコーの巣の上で』が見たくなってしまう。
膨大な資料を元に、戦中のドイツの精神病院がしっかり書き込まれているので痛々しさ倍増。
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書き出しから緊迫感に満ちた筆致で、テンポよく作中にどんどん惹き込まれていく。
我々が知り得ない、戦争という異常な状況の中で、とにかく自らの命を守るという本能に突き従って決死の努力を続ける2人の主人公に同調、没頭する序盤。
物語はそこからさらに展開を見せ、30年近い時を経た第二部で繰り広げられるドラマに至るまで、飽きずに読者を掴み続ける。
とても2時間では描き切れないだろうが、アクション性にも富んだこの壮大な流れはいかにも映像化向きのようでもあり、つまり視覚的なヴィジョンも明確に頭に浮かんでくる類の小説だ。
個人的には、終盤の活劇がほんの少しだけ好みでない部分があるかな、という感じもしたが、文句なく面白く、極めて完成度の高い作品であることは間違いない。
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「特捜部Q」シリーズが人気のデンマークの作家、オールスン。
じつはこれがデビュー作とは。
重厚でスリルあふれる作品です。
第二次大戦中。
英国軍パイロットのブライアンとジェイムズは、ドイツに不時着。
必死で逃げ延びて列車に飛び乗り、重症のナチス将校になりすますことに。
搬送先は「アルファベット・ハウス」と呼ばれる精神病院で、戦争神経症の患者が集まっていた。
そこに実は悪徳将校の4人組も病気のふりをして紛れ込んでいて、互いに見張り疑う息詰まるような生活が始まる。
やがてブライアンだけが命がけで脱走しましたが‥
ブライアンはジェイムズを捜しますが、行方は知れないまま。
医師として成功し、オリンピックでドイツに行くことになったブライアンは、かっての悪徳将校が町の名士になっていることを知って驚く。
病院の看護婦で献身的なペトラや、ブライアンの妻も、すれ違いつつ果敢に役割を果たします。
戦争物というよりは冒険物、それよりも特殊な状況下での友情物というべきか。
切ない幕切れ。
これほど長い間‥
と思うと胸が詰まるものがありますが、苦いようでも、先に希望はないでもない終わり方。
デンマークの作家だけど~ドイツでも大人気とか。
ルメートルの「天国でまた会おう」はやはりフランス的だったかな‥と。
戦後へと続く友情物という共通項がありつつ、何となくですが~お国振りの違いを思いました。
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苦手な翻訳ものなので、覚悟しながら読み始めたのですが、割と読みやすかったです。
あらすじを読んで想像していた感じと、だいぶ違いましたが……。
ブライアンとジェイムズがアルファベット・ハウスに行くまではドキドキでしたが、その後はちょっと盛上がりに欠けたかな~。
単調なような気がしました。
なんかもっと、ブライアンが八面六臂の大活躍!みたいな感じかと思ってましたけど、意外とそうでもなかったような。
第二部のジェイムズの状況には、「え、うそ~ん」ってなっちゃいました。
最後の方の、悪者と対決する場面は、少々長すぎたような気がします。
おもしろかったような気がするけど、あちこち長くて、ちょっと飽きちゃいました。
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2016.09 拷問、監禁と相変わらず?のオールスンさん。途中は面白かったが最初と最後のパートはちと長かったかな。
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第2次大戦中、ドイツ国内で偵察活動中に、自軍領土内へ帰還することが叶わなくなった幼なじみのイギリス軍パイロット2人。彼らは、敵国ドイツで生き延びるために、狂人になった振りをしてナチ将校を収容する精神病院に潜り込む。
ところが、そこは仮病がバレると即銃殺、治療と称して、各種薬品の人体実験、電撃療法が日常的に行われる環境だった。しかも、彼らの他にも狂人を装って入院している者たちがいて、彼らとの陰湿な神経戦に、一時も心が休まる暇もない。
次第に嫌がらせがエスカレートして来る中、パイロットの片方(ブライアン)が、なんとか病院から脱出に成功。さらに、そのまま連合国軍に合流、無事に本国に帰還。一方で、取り残されたもう一人(ジェイムズ)の運命は...。
28年後、医者になっていたブライアンは、ミュンヘンオリンピックの付添ドクターとして、ドイツを訪れる機会を得る。その時、ずっと気にかかっていた友のことを調べ始め、オリンピックをほっぽり出してフライブルクを訪れる。そこで、調査中に偶然、かつての病院の看護師に出会い、友が既に亡くなっていることを聞かされる。失意のブライアン。
ところが、同時にかつて仮病を使って、入院していたSSの将校たちがフライブルクの名士となって生きていることを知る。そこに、一抹の胡散臭さを感じ、ブライアンは彼らと接触を図ることにする。その一方、ブライアンの妻は、夫が何か自分に隠し事をしているのではないかと、内緒でドイツに訪れ、夫の行動を追い始める。
・・・
オールスン氏は、父親が精神科医だったために、子供の頃から精神病患者と接する機会があったそうです。その際、子供心に感じたのは、患者の何人かは、正常なのに狂人のフリをして入院しているのではないか、ということ。で、そのことを小説のテーマとして深く掘り下げ、もともとご自身の興味のあった第2次大戦の事柄と組み合わせて、構想から8年をかけて執筆した小説が本作品、ということだそうです。
北欧ミステリらしく、元SS将校の残虐性は容赦のない描写!それを耐え抜いた2人のイギリス人の友情の行方が見ものです。さらに、奥さんが途中から絡んできて、あぁ...余計なことしなきゃいいのに・・・っていうお約束の展開にもw 後半は、ハラハラしっぱなしで、読みたいのに続きを知るのが怖くて読めないというジレンマでした。
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人気シリーズを抱える著者のデビュー作と云う事と、
面白そうなあらすじにまんまと乗せられてしまいました…
そう、フィクションのエンタメ小説と云うのを
楽しめば良かったんですよね…
ちょっと期待しすぎてしまいました。
自分の好みから云うと星2.5位なんですが…すみません。
読み進めつつ「それちょっとどうなの」とか
冷めてしまう点多々ありまして。
後半も、女性の愛情&友情と云えば綺麗なのでしょうが…
うーん(苦笑)
病院に偽患者として潜り込む辺りまでは
すんなり楽しめました。
終わり方も印象的で良かったです。
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人気シリーズ「特捜部Q」で知られる北欧ミステリの雄、ユッシ・エーズラ・オールスンの初期の作品。嗜虐的な人物による陰湿で執拗ないじめと長い時間をおいて反撃可能になった被害者の苛烈な復讐という人気シリーズに繰り返し現れる主題は、作家活動初期段階から顕著であった。
二部構成。第一部は第二次世界大戦末期の1944年。第二部は1972年。場所はドイツ、フライブルク近辺。主人公は、イギリス空軍パイロット、ブライアン・ヤング。ブライアンとその親友のジェイムズ・ティ-ズデイルは、アメリカ軍から協力要請を受け、ドイツにあるV1飛行爆弾基地を撮影する任務を受けた。クリスマス休暇中でもあり、ブライアンは渋ったが、ジェイムズは否やを言わなかった。
複座のP51Dムスタングに搭乗した二人は、予想通りドイツ軍の反撃に遭い、パラシュートで降下。追撃する兵と犬から逃げようと運良く来かかった列車に辛くも乗り込んだ。それは傷病兵を帰郷させる列車だった。二人は、高級将校に成り代わることに。だが、連れていかれた先は何と精神病院だった。ジェイムズはドイツ語が分かるが、ブライアンは分からない。連合軍の進撃が迫る中、終戦まで偽患者に成り果せることができるのか。
Rhマイナスのジェイムズが、同じA型でもプラスの血液を輸血されてアレルギー・ショックを起こしかけたり、電撃治療や服薬で意識が朦朧となったりするのも危険だったが、それより怖ろしいのは、患者の中に敗色濃厚なのを知り、隠匿した美術品を山分けすることを目論む四人の偽患者が紛れ込んでいたことだ。彼らは、ジェイムズを疑い、食事に糞便を混ぜるなどをして、正気かどうかを試す。彼がためらいを見せると、密告を恐れて夜ごと暴行を加え、瀕死状態に追い込む。
逃亡を企てるブライアンは、ジェイムズの様子を窺うが、とても同行できる状態ではなく、一人で逃げる。それを知って追いかけて殺すために偽患者たちも逃亡。厳寒の北ドイツ、闇の中、水中での格闘劇。口に突っ込まれた木切れが頬を突き破ったり、眼球に突き刺さったり、とハードなアクションを描かせるとこの作家は巧い。痛みの感覚を刺戟する筆致に、作家自身に嗜虐性があるのではないかと疑いたくなるほどだ。
第二部。平和になったドイツではミュンヘン・オリンピックが開催中。アメリカ軍によって救出されたブライアンは、その後医師の資格を取り結婚。今ではいくつもの特許を持つ製薬会社の社長だ。帰国後手を尽くして探したもののジェイムズは消息不明のまま現在に至っている。戦後ドイツを訪れることを避けてきたブライアンだったが、思わぬことが相次いで起きたのをきっかけに、かっての地を訪れることになる。
第一部では、戦争当時の精神病院における人体実験の様子や、ナチスが戦利品として収奪した美術品その他の物資の隠匿、といったエピソードで興味をそそりながら、様々な悪を体現する偽患者たちが消灯後の病室でひそひそ話す、殺人や拷問の自慢話が披露される。隣のベッドで耳を澄ませて聞き入るジェイムズがあまりの残酷さに反応を悟られてはならないと必死で息を殺す様が凄絶だ。
戦後、偽患者た��は隠匿物資を元手に財を成し、過去の身分を隠して一般人として暮らしている。そこへ、ジェイムズの安否を尋ね、過去からブライアンが現れる。悪人たちは、ブライアンの目的を知らないが、危険を察知し始末しようと行動を起こす。魔の悪いことに、夫の行動に不信を感じたブライアンの妻ポーリーンがドイツに飛んでくる。第二部は、ジェイムズの消息を探るブライアンの探索行と悪人たちの知恵比べ、というミステリ仕立てになっている。
少年時代、ジェイムズとブライアンは熱気球でドーヴァー海峡を飛ぶという冒険を試みる。空気が漏れだした気球から飛び降りたブライアンは崖の上に着地できたが、最後まで降りなかったジェイムズは、突風にあおられて崖に激突。気球は木の枝に引っかかって、崖の途中で宙吊りになりながら、ジェイムズは、ブライアンをなじり罵倒する。危機の最中に親友を見捨てて逃げるという本作の主題の、これが伏線になっている。
小さい頃からの遊び友だちで、そのまま戦友となった二人だが、性格はちがう。すべてにおいて、決定権を握るのはジェイムズの方だ。ブライアンは、いつもジェイムズの「だいじょうぶだよ。うまくいくさ」という言葉を信じて一緒に行動してきた。熱気球が膨らみきっていないのに飛ぼうとした時も、偶然通りかかった列車に乗りむ時も、ジェイムズが仕切ったのだ。ブライアンが自分で離脱を決めた時、ジェイムズはそれをなじる。
三十年近く、ブライアンはそれを恥じてきた。どうすればよかったのか。著者あとがきのなかで、作者は「これは戦争小説ではない。『アルファベット・ハウス』は人間関係の亀裂についての物語である」と述べている。絶え間ない暴力に見舞われる精神病院からの脱走、葬ったはずの過去からの反撃、とスリルとサスペンス溢れるストーリー展開に魅せられながらも、やはりこれは作者の言う通り、亀裂した人間関係の回復とその難しさを描いた物語なのだ、と思う。余韻の残るラスト・シーンに胸打たれた。