投稿元:
レビューを見る
イギリスの作家マーク・ホダーのスチームパンクSF「大英帝国蒸気奇譚」3部作の最終巻。2011年発表。
歴史上の著名人を実際とは異なった歴史の中に驚くようなキャラクターに仕立てて登場させるこのシリーズ、1~2巻では主人公の無頼の探検家にして国王の密偵リチャード・バートンと相棒の放蕩詩人アルジャーノン・スウィンバーンの二人のキャラのアクの強さが少々鼻に付くような感もありましたが、この3巻目では落ち着いたと言うか、控えめな描写になっていて私は好ましく思いました。また物語りも、1~2巻が主にロンドンを舞台にしたドタバタ冒険活劇であったのが、3巻目は主にアフリカを舞台に、1863年のバートン一行の苦難の東アフリカ探険行と、1914~18年の何故か記憶喪失で登場するバートンが巻き込まれる悲惨で悲劇的なイギリスとドイツの戦争を交互に重厚に描いていくものになっていて、格段に深みのある、読み応えのある作品になっています。
植物や動物、昆虫を兵器へと改変し、飽くなき殺戮を続け自滅して行く「文明人」の救いようの無い愚かさを描いて見事。
残念なのはラスト、タイムトラベルものに良くある因果律を超越したオチでかなり突き放した救いの無い幕切れ、悪くはないけれど、この物語りをハッピーエンドに持って行くのは困難とは思うけれど、何か力技の意外な展開が見られるのではないかと密かに期待していたので少々がっかりしました。
唯一の救いとしてのスウィンバーンの未来は良かったですが。