紙の本
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2016/05/01 05:47
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投稿者:聖 - この投稿者のレビュー一覧を見る
蘭学事始でもよく知られた「解体新書」が復刻された。270ページのこの本が、日本の医学・医療を変えたことに感動を覚える。オランダ語に堪能な人材の少ない時代に、よく倦むことなく翻訳作業を続け、近代医学の基礎ができた。西村書店の英断に感謝したい。
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現代語訳の「解体新書」を紐解いた時に、図があまりにも小さくて、文字が潰れていた。果たして、実際の解体新書は、ホントに用を足していたのか?確かめたくて、最近廉価版で復刻版が出ていたので本書を紐解いた。安永3年(1774年)発刊に1番近い版木が使われた安永版を基に復刻しているので、図もかなり鮮明。複雑な解剖図を正確に写し取った小野田直武の技術に感嘆する。竹ペンだろうか。細く迷いなく、線のぶれがない。
冒頭の1部分を少しだけ読み下しに写してみる。
其の解体之法・六つ有り。
其一 骨節を審するに在り
其ニ 機里爾(キリイル)之所を審する在り。 漢人未だ説く所者在らず。大小一之有り不。
其三 神経を審するに在り 漢人未だ説く所者あらず 視ー聴ー言動を主る(82p)
最初から、当時の医者並びに医学生の「驚き」が察せられる。人体解剖は、単に「五臓六腑」を調べるだけではダメなのだ。骨や関節は、まだいい。キリイルとは何か。現代語訳では「腺」となって、玄白たちはとうとう訳語を充てることができなかった。一方、「神経」という絶妙な訳語も作る。これらが身体に満遍なく配置されて、役割を持っているとは、なんと言う不思議なのだろう。
現代から観てビックリするのは、彼らは一生懸命「注」を書いている。本文から少し字を小さくして書いているので注であることは直ぐに分かる仕組み。金属印刷ではなく木版なのでできる技でもある。「視聴覚言語をつかさどる」という説明に出会って、私が医学生だったならば「人間とは何か」まで考えたかもしれない。この書が、西洋医学のみならず、西洋文明までの窓をも開き、明治維新を準備したと言うのも宜なるかな。
玄白の「注」は、時に長文になる。特に眼球の水晶体について述べているのは、この当時の眼の働きを非常に詳しく研究した結果なのだろう(154p)。二段階に分けている。一段下げて、「翼(玄白のこと)、諸説を按ずるに」と書いて一般的な働きを述べる。それから更に半字で中国の倒立の一般学説を紹介して眼球のそれに関連すると考察する。思うに、見事である。
2018年2月読了