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フランス革命の擾乱の中で運命を翻弄された男女の話。
時間を止めて過去に囚われ続ける彼らの憎悪や羨望が痛々しい。
平等を謳った革命で自由を奪われ殺されることが無ければ狂わずに生きられたのだろうか…。
ロレンスとコレットは死ぬことを望みながらも必死に生きようとしていたんだと思う。
物語の最後に僅かな光を残して再出発した彼らの開拓地が希望になることを祈る。
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2巻は英国編。
明るい内容ではないが、面白かった。久しぶりに没頭して読んだ気がする。
どんよりと重苦しいロンドンの様子が、まるで登場人物の心象風景のようだった。比較的明るい子供のキャラクターが対比となって浮かび上がる。
『鰐』のずっしりした存在感がいいなぁ……。
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フランス革命によって運命を狂わされる人々の物語が、視点を入れ替えながら展開していく。
上巻は貿易都市ナントを舞台にしたフランス編。争乱の中、必死に生きようとする登場人物たちの苦悩が、混乱する都市を背景にビビッドに描かれる。相変わらずキャラ造形は巧くて、ステキ。そんな彼らが生き抜くために新たな人生の舞台として辿り着いたのがロンドン。下巻は産業革命期のロンドンを駆け巡るイギリス篇。
上巻は動きが多くて読み応えも抜群。下巻は動きとしては落ち着くが、その分心理描写で読ませるストーリーが印象的。革命によって受けた傷は大きすぎた、特に無垢な少年少女の彼らには。 先が気になる展開ではあるけれど、全体にスローペースで進んでいくので、中盤でややだれる。視点も目まぐるしく変わり、若干混乱したような。
タイトルである鰐がキーワードになっているが、鰐に魅入られ、やがて囚われて徐々に執着していく心理的な側面がイマイチ理解できず。他にも作中との距離感があるなと感じた箇所もあり、皆川ワールドにどっぷり浸かれなかったのが心残り。
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18世紀末革命期のフランスの都市ナント、19世紀初頭のイギリスのロンドンを舞台に、時代の波に翻弄される若者たちの姿を2冊に渡って描いた長編小説。
フランス革命と言うと、富を貪った挙げ句ギロチンにかけられる王族と、勝利を得た市民で完結するイメージが強いが、ここではその後の恐怖政治や虐殺など、革命の負の影響にスポットを当てている。かつて『ベルばら』に夢中になってフランス革命を知っているつもりになっていたが、革命後の残酷な歴史には疎く、闇の側面に衝撃を受けた。
貴族の嫡男とその従者は戦で極限状態を経験し、富豪の孫は目の前で家族を惨殺され、平民の兄妹は極貧で住む家もないというように、それぞれが死と紙一重の過酷で絶望的な状況におかれる。
人の命が虫けらのように踏みにじられていく時代に、心の支えを失い精神の均衡を失っていく若者たち。狂暴なワニの口腔の底知れぬ空洞に虚無を見出だし、同化していく姿は象徴的だ。
ヨーロッパを舞台とする力作が光る作者ならではの作品だったが、登場人物が多いうえにカタカナ名で、状況を把握するのに苦労した。また、語り手が目まぐるしく変わるため、せっかくの重厚な世界がややぼやけてしまった感もある。
クロコダイルの模様を型どった遊び紙や装丁、雰囲気のある装画はとても魅力的。
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「竪琴の全音階を奏でるような秋であった」
フランス革命前夜、富裕な商人の息子が貴族の御曹司とともに田舎で馬を駆けさせているこの出だしで、心は瞬時に作品世界にトリップ。上下二巻の分厚さがまったく気にならなず(それどころか、もっと読んでいたいくらい)、著者ならではの華麗で端正で、同時にグロテスクな世界を堪能した。
これはどういうジャンルに分類したらいいのか。歴史小説であり、妖美な幻想ものであり、ミステリ的要素もある。途中で「語り手」の存在が明かされて、読者を揺さぶったりもする。あちらから、こちらから、幾重にも声が響いて重なり合うようなストーリーだが、にもかかわらず非常に読みやすい。練達の筆とはこういうことかと思う。
教科書では、旧特権階級に対する民衆の戦いの勝利として描かれる、フランス革命。その内実を、大きな歴史に翻弄される個人の側から描いて、圧巻の迫力だ。世の中の枠組み自体がうねりながら変わっていくとき、人間の弱さや醜さが否応なくさらけ出される。己というものを保つためにもがく人たちの姿が胸に突き刺さるようだ。著者の作品ではいつもそうだが、絶望が描かれているのに、なぜかすがすがしい。この清潔感はどこから来るのだろう。
ここ数年、新作(それも大作ばかり)が出るたびに、失礼ながら心のどこかで「これが最後の作品かも…」と思ってきた(ほんと、失礼)。いやしかし、この力強く繊細な世界はどうだろう。その知力・精神力に敬服するばかり。著者の人間観はずっと一貫していて、より深いところに達しているように思った。
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手記という形態をとりながら,語り手が変わることで過去が現在になり,未来が今となって立ち現れるという複雑な構造.目には目をの復讐と非道なことのはびこり,罪もないものへの救いのなさ,それらが神の不在を示唆して物語は進む.そして最後,ピエールがオーストラリアへ行く船の中で突然掴んだ感覚,「神」と呼ぶしかない感覚にこの物語が収斂しているような気がした.
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擾乱のフランス革命は収束しフランスはナポレオンの時代に.Iで登場した人々は混乱を避け舞台はロンドンに.
最後は皆川さんらしいミステリー仕立てになっている.
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変わらず世界観は重厚かつシリアスなままではあるが、どうも近年の皆川博子氏の著作は比較的とっつきやすくなった。
これまでの彼女の作品が醸し出す空気が肌に合う人ならば、今作もストレスなく読了することができるだろう。
しかしながらトータルの完成度という観点からすると、散らされたままの伏線めいたトピックがあったり、各キャラクターの心情描写が浅いと感じたり、過去の傑作には若干及ばぬといったところか。
"バートンズ"が登場するという、茶目っ気のある演出もあるが、これもそれほど痛烈には効いていないかも。
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いやー、なんだか引き込まれっぱなしだった。
結局フランシスはあの時本当に死んでしまったんだね。残念。
残念と言えば「開かせて~」「アルモニカ~」のエドがあっさり植民地で亡くなってたらしいことだった。クラレンスも亡くなったのかもしれん。
コレットとローランのなんとも言い難い絡まり合ってもつれた感情が悲しくもあり、最後に成就したようでさっぱりしたようでもあり。
最後はなんだか清々しかったのが不思議。
あと、神はいないとか仏は救いにならんって体を取ってた皆川先生が、自然の美しさを描写した後に、神はおわす、と書いたことが、なんかすごいな、と思った。
相変わらず文章が美しくてなー!
すごかった。さすが皆川先生。どうかずっとお元気で。
トゥララン先生がいい人だと思ったのにファニーに手つけててちょっとキモかった。
書き直し。
……新作でエド出てくるらしいじゃん!なんなの!もう!すき(なんだこいつ)!
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3.6。かな〜。前半のうねりじみた勢いが堪らなくイイ感じなんで、トーンダウンして感じちゃうんだなぁ。こういう話しなんだろうけど。あと気に入りの登場人物が変にならんで安心したけど。
……にしても…御大…流石だよなあ(感嘆)。良い意味で迫力の化け物感が半端なくて格好よくて痺れる。(もはや業の域の耽美臭にちょっと苦笑もしちゃうが、ここまでくると流石過ぎてお茶目だ)
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バスチーユ監獄襲撃に始まり、ナポレオンが出てくるまでのロベスピエールの恐怖政治の時代を描かれた1巻目は、歴史小説を読んでいるかのように生々しく鮮烈で、市民革命の陰に隠れた混乱期の闇をまざまざと見せつけられるものであった。
イギリス・ロンドンに舞台が移った2巻目は一転、残酷で、狂気じみた復讐劇。貧民街の子供たちや「開かさせて~」のバートンズが出てきたり、ならではの演出が施されていたのが救いかな。正直、もうちょっとバートンズの活躍が見られるのかと思って読んでたので、ちょっと残念。後始末の仕方は「アルモニカ~」っぽいかな。希望も見えて、嫌いではないけれど。
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イギリス篇。「開かせていただき光栄です」のバートンズが登場するのもファンにとっては嬉しいですねえ。
苛酷で陰惨な時代を生き抜き、少しは平和で落ち着いたはずの生活を得たはずなのに。それでも過去の苦痛や悔恨に囚われ、断ち切ることのできない復讐心に突き動かされる登場人物たち。やがて起こる事件と疑惑。俄然ミステリっぽくなってきて、かなりわくわく感が高まります。
蝋人形やパノラマ館という道具立ても非常に魅力的です。そしてそこで引き起こされた最後の惨事にもあっと驚かされました。これはまったく予想だにしませんでした。とんでもない恐ろしい復讐……だけれど、それくらいの苦痛があったのだとしたら。なんともやり切れません。
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時代や小道具などはとても惹かれるのだが、肝心の動機となるとなぜ8年も…というのが引っかかってもやもや感が残る。ロレンスとピエールの手記に出てくる『鰐』がいい仕事をしているし、タイトルもしっくりと素晴らしい。結末は希望があるのかないのか…
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●この10年以上同じことを言っている気がするんですが、「ええっ、皆川博子ってまだ新作書いてるのおお!!!????Σ(゜Д゜)(敬称略。歴史上の人物に敬称をつけないようなものです。)」
それだけに、後書きで「もう現地取材に行けない…ガクリ(※本文はもっと上品な表現です)」的な文言には涙しました。
●ローラン・テンプル、ピエール・ドゥミ、ジャン=マリ・ルーシェの3人の青年がメイン。前二人のこじらせっぷりが酷い。エルヴェにはもっと活躍してほしかった。貴重な救いはメイちゃん。
ローランのロンドンでの知人がどこかで見た名前だと思ったら、『開かせて~』の登場人物でした。
なお、Ⅰの主な登場人物一覧にサー・パーシー・ブレイクニーの名前がありましたが。…これが釣りか。
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この作家がフランス革命前後を描いて面白くないわけがない。
90歳手前にして、この密度と分量の作品を書いてしまう作者は人間離れしている。
革命は既存社会秩序の破壊だから、影の部分も当然大きい。むしろより大きいだろう影の方に光を当て、当時の英仏の市井も忠実に再現しながら、革命の矛盾やそれに翻弄される人々を描き出している。。
心理描写の軸となっている「鰐」の存在に共感しきれなかったのが唯一残念。