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歴史に残る大事件は、繰り返しテレビで放送され、いつの間にか「世紀の瞬間」として、多くの人々が同じ映像を脳裏に焼き付けることとなる。阪神大震災であれば、横倒しになった高速道路、アメリカ同時多発テロであれば、飛行機がワールド・トレード・センターに突っ込む瞬間、そして、東日本大震災であれば、押し寄せる津波と、原子力発電所の爆発……といった具合に。
しかし、そんな大事件の中で、渦中にいた人々は、いったいどのような感情でその様子を見守っていたのだろうか? そんな疑問をもとに立ち上げられた番組がNHK-BSプレミアムで放送されている『アナザーストーリーズ 運命の分岐点』だ。そして、この番組で特に人気が高かった放送回を書籍としてまとめた『今だから、話す 6つの事件、その真相』 が日経BPより刊行された。プロデューサーを務める川瀬大作の視点から、この番組で取り上げられた6つの事件が記録されている。
86年の「チェルノブイリ原発事故」、89年の「ベルリンの壁崩壊」97年の「ダイアナ妃事故死」など、同時代を生きてきた人間にとって忘れることのできない大事件を紹介する本書を紐解くと、そこには意外な真実に満ち溢れていた。
85年に起こった日航機墜落事件は、乗員乗客520人が死亡する日本の航空史に刻まれる大惨事となった。今から31年前の事件でありながら、墜落現場となった御巣鷹山に、破片となって散らばった航空機の姿を覚えている人は多いだろう。『アナザーストーリーズ』では、これまで様々に語られてきたこの事故を、様々な人々の視点から再び語り直している。
当時、上毛新聞のカメラマンを務めていた伊藤幸雄は、休暇中に事故の発生を知り、取るものも取りあえず、墜落現場に近いとされた群馬県上野村に向かった。軽装だったものの、捜索隊の後を追って山道に分け入っていった伊藤。5時間もの間、道なき道を飲まず食わずで歩き、墜落現場にたどり着いたその目に飛び込んできたのが、生存者を救助するヘリの姿だった。そんな大スクープを写真に捉えた彼は、4時間かけて山を降り、翌日の朝刊に間に合わせるために車を飛ばした。
一方、遺体の身元確認現場では、そのほとんどが損傷が激しい部分遺体だった。遺族が衝撃を受けないように、本赤十字社群馬県支部の春山典子らは、三角巾や包帯を使って傷を隠しながら遺体と遺族とを対面させた。歯型だけの遺体、頭皮だけの遺体などから、次々と肉親を確認していく遺族たち。ある男性は腹部の帝王切開の傷跡から、それが妻の遺体であることを見抜いた。「凄いんだな、家族って」と、春山は家族の深いつながりを実感したという。
彼らが語る言葉は、これまで多くの人が「知って」いたはずの、日航機墜落事故とはまた異なった「真実」だった。
戦後生まれ初のアメリカ大統領となったビル・クリントンに不倫騒動が勃発したのは98年。大統領の不倫スクープは、その相手・モニカ・ルインスキーの名前とともに世界中を駆け巡った。この発端を作った人物が、出版エージェントを務めていたルシアン・ゴールドバーグだ。熱心な共和党支持者である彼女は、クリントンが「とにかく彼が大嫌い」で��り、「汚いネズミ」とまで罵っている。政治信条ではなく、生理的に彼のことを受け付けなかったようだ。そんな彼女のもとに、同じくクリントンを毛嫌いするホワイトハウス職員のリンダ・トリップから暴露本出版の話が舞い込んできた。カーペットにコーヒーのシミを付け、ピザの空き箱を放置し、実習生と浮気をする……。そんな、大統領の醜聞は、その権威を失墜させるに十分と判断したルシアンは、その情報をニューズウィークにリークする。当初、クリントンはこの疑惑を否定し、別の裁判で、ルインスキーとの不倫を問われながらも、その関係を否定していた。宣誓の上で証言台に立ちながら、虚偽の証言をしたのであれば、偽証罪にも問われかねないのに……。
しかし、ニューズウィークのみならず、ワシントン・ポストやその他の報道機関に疑惑を追求されたクリントンは、ついに観念して「不適切な関係」を認め、大統領としては131年ぶりとなる弾劾裁判にかけられることとなった。経済政策を評価されたクリントンは、「お咎めなし」という結果を勝ち取ったが、次の大統領選挙では共和党のジョージ・ブッシュに大統領の座を明け渡すこととなってしまった……。アメリカを揺るがした大スキャンダルは、蛇蝎のごとくにクリントンを嫌う女性が、執念によって勝ち得たものだったのだ。
歴史に残る事件の周囲には、それに立ち会った人々が多数存在している。世間に広まった「決定的瞬間」だけではなく、その現場に居合わせた人々それぞれに真実があり、それぞれの思いを抱えながら暮らしている。そんな彼らの視点を、著者の河瀬は「マルチアングル」と表現し、別の角度から歴史を検証することの重要性をこう語る。
「正義は常に正義ではありません。視点が変われば、見える風景はがらりと変わります。こうした視点を持つことで、他人の痛みを知ることができ、無用な諍いを回避できるかもしれません」
「マルチアングル」を持つことで、歴史は多様な姿を浮かび上がらせる。河瀬を始め、『アナザーストーリーズ』の取材班は、丹念な取材によって、歴史の別の側面に光を当てているのだ。
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アナザーストーリーズ マルチアングル
日航機墜落事故 過失の競合状態 ザラッととした手触り
チャレンジャー号爆発事故
チェルノブイリ原発事故 秘密都市プリピャチ メンツ 人間の弱さ 隠蔽 スウェーデン 個人の保身 集団の保身 ぬるりと結びつく
ベルリンの壁崩壊 正義は一つではない
ダイアナ妃、事故死 恋愛 嫉妬 パパラッチ
大統領のスキャンダル クリントン ルインスキー ゴールドバーグ トリップ ルシコフ ヒラリー
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誰もが知る事件に新たなアングルから迫り、知られざるストーリーを紡ぐNHK-BSプレミアム「アナザーストーリーズ運命の分岐点」。「日航機墜落事故」「ダイアナ妃事故死」など6事件を取り上げ、新たな一面に光を当てる。
マルチアングル,さらっとね。
あっという間に読み終えたよ。
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世界的に知られている、大きな事件も、小さなヒューマンエラー、功名心、自己保身、感情が引き起こしている。自分への戒めとします。