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妖怪なのかUMAなのか、つかみどころがなくてよくわからないオーストラリアのバニヤップ(本当はバニップだが、なぜか日本ではバニヤップという表記が定着)について、さまざまな角度から調査してまとめられた好著。
学術的なスタイルながら、柔らかく、誰でも読めるような書き方をしてある。
バニヤップという言葉がオーストラリアの入植者たちに最初に知れ渡るのは1845年。地元紙がコロングラグ湖(メルボルンの西120km)岸で、膝の関節部の骨が見つかったと報じたことから。この骨は巨大で横幅が25cm。「黒人たちはこの地域に棲む巨大な動物について言い伝えているが、その証言はまったく信用ならない」ため、骨はメルボルンに
に運ばれて専門家の意見を求めることになった。
見つかった骨を知性ある黒人の一人に見せると、言下にそれをバニヤップのものだと答えた。
黒人たちによれば、白人がこれまでこの生き物を見なかったのは、それが水陸両生で、警戒心が強いからだと言う。
姿は、エミューに似た頭を持ち、長いくちばしがある。くちばしの端は両側に飛び出しており、その縁はノコギリ状。胴体と脚はワニのようで、後ろ脚は驚くほど太くて強く、前脚は遥かに長い。普通は獲物を抱えて絞め殺すらしい。水中ではカエルのように泳ぎ、陸上では頭を立てて後ろ脚で直立し、その場合の背丈は4mぐらい。
黒人たちは、卵を産み、その大きさはエミューの卵の2倍ぐらいだと言っている。
バニヤップは先住民の神話には登場せず、せいぜい数百年前に生まれたものということで、日本の妖怪と似た存在とも言える。オーストラリア社会が出来上がっていく過程で、その存在のメディア上での取扱は、UMAだったり妖怪だったり、さまざまに揺れ動いた。この本ではそうした社会的受容の仕方を丹念に追っていっている。
未知の生き物を社会に取り込む過程で、日豪で特に違うのが以下のような点
・近年までフロンティアが残っていたこと
・特に他の大陸にはまったく見られないファンタジックで奇妙な動物の発見が次々と続いていたこと。
・欧州人が動物扱いしていた(狩りの対象にもされた)ほど原始的だった先住民社会に、欧州人があとから近代社会を作ったこと(結果として、同時代、同じ場所でありながら、別の情報空間が並立した)
こうした妖怪と社会の関わりの違いを具体的に見せてくれるのが本書の一番面白いところ。