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サンリオSF文庫から刊行されていたものの新訳版。
『自選傑作集』と銘打たれているだけあって、ブラッドベリの書いた様々なジャンルの短編がバランス良く収録されている。
各短編は概ねホラー、SF、ファンタジーのどれかに分類されると思うのだが、ジャンルとしてはホラーに含まれるものが一番好みだった。
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・レイ・ブラッドベリ「万華鏡」(創元SF文庫)に は「ブラッドベリ自選傑作集」とある。書名通り、表題作を初めとして、作者自選の「草原」「メランコリイの妙薬」「刺青の男」「霧笛」等々の26編を収め る。この中には「たんぽぽのお酒」や「火星年代記」のエピソードも含む。本当に作者選りすぐりの短編集である。特定のジャンルに偏ることもないので、ブ ラッドベリのさまざまな面を知ることができる。おもしろい。本書扉に、「天才作家の幅広い創作活動を俯瞰できる、最大にして最適の一冊。」とある。この先 にも、これだけの内容のブラッドベリの短編集は出ないだらう。たぶんこの一文は正しい。
・巻頭第一作「アンリ・マチスのポーカー・チップの目」は個人的にあまり好きではない。なぜかういふ作品を巻頭に持つてきたのかと私としては疑問に思つて しまふのだが、こんなことを考へる私は「世界はなんと想像力に欠けているのだろう」(29頁)といふ、その「世界」の住人だからなのかもしれない。次の 「草原」、子供の豊かな創造力が大人を食ひ殺す物語である。子供達の両親もまたこの「世界」の住人であつたがゆゑに、子供達の想像力を恐れ、それに食ひ殺 されたのである。子供達の名前がピーターとウェンディであるのは十分に考へられた結果なのであらう。ピーターは永遠の少年といふつながりで次に「歓迎と別離」が置かれてゐるのであらうと思ふのだが……この物語の主人公ウィリーは「十二歳の小柄な少年。ただし、スーツケースには四十三年前に生まれたことを示す出生証明書がはいっている。」(63頁)見かけは少年、「身長四フィート、ひげを剃る必要はな」(64頁)い。肉体的に永遠の少年である。精神的には、 しかし、「ぼくにも仕事があるんだ。孤独な人々をしあわせにする仕事。(中略)ぼくがやらなければならないのは、母親のいいつけを守る息子、父親の自慢の種になることだけ。」(72頁)と考へる立派な大人なのである。それゆゑにその永遠の少年が発覚しさうになると、ウィリーは新たな居場所を求めて旅に出 る。その繰り返しである。私達の「世界」の住人はこの永遠の少年を認めない。人は老いて死ぬ。老いて死なぬこと、いや老いることのないことを認めない。 ウィリーはそこを出るしかない。これは例の萩尾望都「ポーの一族」と同じ設定ではないか。こちらが1953年発表であるからには、この二つに何らかの関係 があるとすれば、こちらが本家なのであらう。ピーターパンのやうにこの「世界」と孤絶して生きてゐなければ、永遠の少年の運命はかくの如きものであらう。 その意味ではいささか平凡と思はれる物語だが、ブラッドベリの嗜好がよく分かる作品である。実は私はこれが最もうれしかつたと書く一方で、「たんぽぽのお酒」がその一部しかないのは残念だと思ふ。と言つても本書が自選短篇集であるからには、さうせざるをえなかつたのは分かる。本人もそのあたりを悩んだのか もしれない。それでも、私はやはり永遠の少年たるブラッドベリの物語が好きである。ただ、表題作の「万華鏡」や最後の「やさしく雨ぞ降りしきる」のやうな終末の如き物語も好きである。「やさしく」は2026年の物語である。「火星年代記」��一部だが、地球の終末を描く。現在からすると近い将来だが、発表された1950年からすれば十分に遠い未来であつた。未来はかくも機械化されてゐるといふわけで、それが人間がゐなくても動き続ける世界である。「万華鏡」の登場人物が何もない宇宙に放り出されて消えるしかない運命にあるのと対になる。幅広い作品の中で、私にはやはりかういふのがブラッドベリだと思ふ。
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ブラッドベリ自選傑作選。
宇宙空間へ放り出された飛行士、灯台にやってくる巨大生物、暗殺者の赤子、白人が少数者となった世界など発想が面白い短編が多い。
コメディ要素の「すばらしき白服」が好み。ニートたちが金を出し合って、一つの白いスーツを購入し、みんなで使うという展開が好き。SF要素全くないけどね…
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レイ・ブラッドベリの自選傑作集。
怪奇小説、SF、心温まるようなものまで。たんぽぽのお酒は、選り抜きとはいえ文庫で読めるのはこれくらいなんじゃないでしょうか。
レイ・ブラッドベリの入門に最適な一冊です。
私は今まで二冊程しか読んだことがないので、メキシコものを読んだのは初めてです。
特に気に入ったのは表題作の「万華鏡」です。宇宙船が砕けて、宇宙に放り出された乗員たち。推進器具もないので、全員がどんどん離れて、無線電話で届かなくなるまで会話します。極限の状態で人間としての差を見てしまい、一人っきりで悩みます。自分に何ができるだろう?そんな言葉と、最後のおちの文章でなんともいえない気分になります。
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短編集。SF。ファンタジー。ミステリ。ホラー。幻想。
多様なジャンルの作品を詰め込んだ一冊。
『火星年代記』収録の「イラ」「夜の邂逅」「やさしく雨ぞ降りしきる」は再読。初読のときより楽しめた。
好きな作品も嫌いな作品もあり。やはりSFが好き。ホラーもなかなか。
全体的な満足度は☆3くらいだが、「万華鏡」「霧笛」「やさしく雨ぞ降りしきる」が傑作だと思うので、気持ち甘めに☆4に。
「草原」ヴァーチャルリアリティ。オチが良い。
「歓迎と別離」切ないファンタジー。永遠の少年。
「メランコリイの妙薬」不思議な話。ちょっとイカれてる。
「イラ」火星。とある火星人のファーストコンタクト。
「小ねずみ夫婦」奇妙な隣人。よく分からない。
「夜の邂逅」幻想小説in火星with火星人。
「骨」ホラー。自分の骨を恐れる男。微妙。
「万華鏡」宇宙漂流SF。人間の醜さと宇宙の美しさ。宇宙で死ぬときに、何か良いことができるのか。15ページと短いながらも感動的。
「日と影」ユーモア?イカれた男。
「刺青の男」ホラー。オチは読めたが、奇抜な設定が印象的。
「霧笛」恐竜。センチメンタル。
「熱にうかされて」SFホラー。ジワジワと怖さが迫る感じ。なかなか良い。
「やさしく雨ぞ降りしきる」SF。無人の家と機械。哀愁漂う。
他13作品、全26作品。
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目次
・アンリ・マチスのポーカー・チップの目
・草原
・歓迎と別離
・メランコリイの妙薬
・鉢の底の果物
・イラ
・子ねずみ夫婦
・小さな暗殺者
・国歌演奏短距離走者
・すると岩が叫んだ
・見えない少年
・夜の邂逅
・狐と森
・骨
・たんぽぽのお酒
イルミネーション
たんぽぽのお酒
彫像
夢見るための緑のお酒
・万華鏡
・日と影
・刺青の男
・霧笛
・こびと
・熱にうかされて
・すばらしき白服
・やさしく雨ぞ降りしきる
読んだことのある作品もない作品も、通して読めばすべて懐かしいブラッドベリの作品になるのはなぜなんだろう。
これらの作品が書かれたころは未来はバラ色で、苦しみや不幸なども科学技術の進歩が解決してくれると思われていたはずなのに、どの作品にも喪失の痛みと、二度と戻ることのできない何時かへの哀切があふれているのはなぜなんだろう。
そして。
学生の頃せっせと読んでいたブラッドベリは、私の好きなものの宝庫だったと気づく。
意表をつくどんでん返しなどない。
不穏な予感は不穏のまま幕を閉じる。
けれども、そこにある昏い予感は、決して現実と交わらない作品世界から確かな痛みを私の中に残すのだ。
不思議だな。
死にゆく火星人に会ったこともなければ、2155年の絶望に追いかけられたこともないのに。
そしてやはり『たんぽぽのお酒』は名作だ。
今この時を留めておくために、彫像のように動きを止める。
友との別れの時間が永遠に来ないように。
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収録されている「たんぽぽのお酒」連作だけ読了。
瑞々しいってこういう事を言うのかな、って思える。少年期を切り取った、水彩スケッチのような小説。
たんぽぽのお酒と日本語で言うと可愛らしさがあるけど、原書の英語だとdandelionになるんだろうか?リズムの良さとか勇ましさもある語感なので、原語で読んだらまた違う味わいがありそう。
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SFやファンタジーよりも、文学に近い。訳にもよるかもしれないが、言葉選びや表現にハッとする。たまに難解でハァッ?とする。
起承転結やオチがはっきりしないのもいい意味で文学。鬱展開あり、バカバカしいのあり、全体としてあまり暗くはない。
万華鏡は名作。霧笛も好き。