投稿元:
レビューを見る
第一次世界大戦の戦地から、恋人、妻、子ども、両親などに宛てた手紙の数々。
それぞれの手紙の前に、差出人である兵士の略歴と、その宛先人についての短い文章がある。
手紙の差出人の多くは若者で、戦争がなければ、ごく普通の生活を送っていたはずの人ばかりというのがわかる。
(もちろん、生活が苦しくて、やむにやまれず志願した者もいる)
教師、農夫、裁判所書記官、学生…、など、ごく普通の民間人ばかりである。中には著名な演奏家もいる(生きていれば、どんな音色を響かせただろう)。
「戦争でいちばん大きな問題は、若者たちがまず先に犠牲になること」とある手紙にあるように、20代の若者だけでなく、10代の若者の手紙も多くある。
本書を読んでいて、やはり胸が詰まされるのは、「この手紙が最後になるかもしれない」という言葉が並ぶことだ。
そして、悲しいことに多くの兵士はそうなってしまう。
手紙を出した数週間後、あるいは、翌日…。
家族だからこそ打ち明けられた、嘘偽りのない感情で綴られた言葉がある。
あるいは、死の恐怖から少しでも遠ざかるように綴られた言葉かもしれない。
「僕が死んだら、君のなすべきことを書いておく。」と始まる短い手紙がある。
この兵士は、いったいどのような気持ちで書いたのだろうか。終戦間際、しかし、本人にとっていつ終わるかわからない戦争という極限状態にあって、相手のことをここまで気遣うことができるだろうか。
ありきたりな言葉だけれど、兵士である前に、一人の人間としての感情がそれぞれの手紙に込められている。
本書に収録された手紙の差出人である兵士の一人ひとりに、家族があり、人生があり、受け取った人にも、それぞれの人生があった(そして、「あったかもしれない人生」がある)。
本書に収録されていない、数え切れない人々の手紙にも思いを馳せる。
一人ひとりに、それぞれの個人としての人生があったのだと。