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2010年台北国際ブックフェア小説部門大賞 受賞作品
みんなの評価4.5
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評価内訳
2017/04/03 19:04
投稿元:
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日本人の鬼中佐の養子となったタイヤル族で無敵の主人公と台湾への日本の侵略を象徴する鉄道が駆け巡る関牛窩(グアンニュボー)という架空の村の物語。 もう想像の範囲を超えてしまっているのだが、ところどころでとても美しい場面があって読み進めてしまう。不思議な魅力がある。 実際の台湾史を題材として、マジックリアリズムの手法を駆使した作品、とのこと。
2017/11/07 01:58
怪力無双の青年が力業で強引に問題を解決する。台湾の客家族の青年、劉興帕は神に愛された怪力を持つ。 祖父、劉金福の反対を聞かずに大日本帝国陸軍の鬼中佐、鹿野の養子となり日本名、鹿野千抜を名乗るようになる。 かつては何もなかった客家族の村、関牛窩には鉄道が敷かれ、だんだんと軍事要塞化していき台湾全土から学徒兵が集まるようになる。帕は皇軍軍曹となり、彼らをまとめて突撃訓練を繰り返す。 村は次第に変容し、ついには米軍の空襲が関牛窩を襲う。 徹底して滑稽でコミカルな表現だ。飛行機もどきの円盤で爆撃機を迎撃したり、夜な夜な墓場では死体が鬼となり跋扈する。 その表現が空襲のシーンでは逆に狂気が強調される。 「上流から流れてきた死体の茹でて膨らんだ内臓から絶えずスースーと空気が抜けて、まるでこんなに腹いっぱい食べたのだ、死んでも損はなかったと感極まってため息をついているようだった」 「ある八人家族は戦火をもろともせずにご飯を食べていた。子供はおかずを争って食べ、大人はスープを飲み、スープの汁が口の隅に付いていた。ただすべてがもう動かなかった。焼夷弾が彼らを瞬時に炭化したのだ。風が吹いてきて最後の晩餐は一陣の黒い風に変わり、楽し気に消えて行った」 これほどコミカルに一般市民に対する空襲を描ける日本の小説を見たことが無い。 辮髪の祖父は日本に歯向かい懲罰牢へと放り込まれ、 徴兵される父を離すまいとする娘は父を挟んで汽車と同化する。 帕の従兄は神風特攻隊に志願し空に散った。 戦争が何をもたらしたのか。それを戦地はどう受け止めたのか。日本の小説だけではなく、海外の小説を読むことは、今までとは違う側面を知ることになる。 終戦後、大日本帝国軍が撤退した後の台湾は、客家族の村はどう変貌していくのか。下巻に続く。
2020/04/19 13:52
大日本帝国統治下の台湾、山合いの小さな僻村に巨大な鉄の怪物がやってくる。それに立ちはだかるのは、小学生にして既に身の丈180センチの怪力の少年であった。往々にして、新しい世界の到来は、怪物然としている。しかし、少年は臆しなかった。それは、豪華客船にも見紛う、壮観にして精悍な汽車であり、やってきたのは日本陸軍の中佐であった。少年はその勇猛を買われ、中佐の養子となる。さて、少年の育ての親である祖父は、大陸から台湾に渡ってきた客家の子孫であった。また、かつて日本の台湾領有に抵抗した志士でもあった。ここに、長きにわたる孫と祖父の、愛憎の軌跡が始まる。皇民化運動、国家総動員、米軍の空襲、上陸、そして、国民党の台頭、二・二八事件。日本人になろうとした孫と、中国人であろうとした祖父の紆余曲折は、そのどちらをも承服しない台湾を浮かび上がらせる。 遡れば、1661年までスペイン、オランダの植民支配を受け、鄭氏政権の統治、清朝の支配、そして、日本の植民支配を経て、中華民国国民党政権下に入った台湾。現在、その人口の98パーセントを漢民族が占めるが、そのルーツはけして一様ではない。古くから中国南方より渡ってきた闘南語(台湾語)を話すホーロー人、清朝の時代にやってきた客家語を話す客家人、そして、国共内戦で追われてきた北京語(中国語)を話す外省人。忘れてならないのは、アミ、パイワン、タイヤル、サイシャットなどの先住民(政府から認定されたものだけで、16ある)の存在である。人口にして2パーセントに満たないが、先の漢民族の85パーセントが、すでに先住民との混血という調査結果もある。本書が詳らかにするのは、そんな複雑多岐で、多言語多民族の島としての台湾である。 筆者は1972年生まれ、父が客家人、母がホーロー人で、自身のアイデンティディは客家だという。幼少時は、北京語を標準とする政府の言語政策(日本語を駆逐するためでもある)で、方言を話すと罰せられるため、学校では北京語、家庭では客家後と闘南語を使い分けて育った。本書は構想から5年、筆者37歳で上梓されたが、途中、執筆に行き詰まり、当初の客家語主体で書く試みも断念せざるをえなくなったとされる。しかし、本書は一貫して「台湾という郷土に生きる多様な人々の言葉を取り戻す」ことが徹底されている。言葉を取り戻すとは、その言葉でしか表せない意味世界を取り戻すことでもある。その圧倒的な語彙力、描写力には感嘆させられるばかりだ。驚天動地、疾風怒濤の傑作。翻訳も素晴らしい。 「マジックリアリズムを駆使した、全華文小説における最高傑作だ。この鬼を満載した、創作の極致を窮めた小説は、まるであり得ない速さで走る鬼列車のようで、私は、その大型の高圧ボイラーのような創造力に、『自分なら限度オーバーでとっくに爆発してバラバラになっていたにちがいない』と、恐怖に身ぶるいするほどの感動を覚えた」駱以軍 「殺人は容易だが鬼殺しは難しい、これをやってのけたその文才には驚嘆するばかりだ。民国六○年代(一九七〇年代)生まれの昔日の青年が、今まばゆいばかりの文学の花を咲かせた」莫言 「繁茂する言葉が、霊魂=「鬼」たちを慰める呪文であるとしたら、この過剰さは台湾の受けた痛みの深さを示すものだ。怪力の帕はあらゆるものを背負い続ける。汽車、家、寝台、石碑・・・。しかし、彼がずっと背負っているものがあるとしたら、それは台湾の歴史そのものである。」小野正嗣 「甘耀明は二〇一四年九月に来日した際の講演の中で「鬼殺し』について「日本統治時期に生きた人々を、これまでの作品に見られるステレオタイプな台湾人像、日本人像ではなく、人間本来の姿に戻して捉え直したかった」と語っている。従来の「台湾と日本」という対立構図に、「人と鬼」の図式でゆさぶりをかけ、新たな座標軸を打ち立てようとする壮大な構想があったことがわかる。「鬼殺し」は、関牛奮という小さな山村に生きた人々の歴史記憶の再構築をとおして、台湾の主体性を回復する道を模索した台湾のポストコロニアル文学であり、台湾現代文学を代表する作品と言ってよいだろう。」白水紀子(訳者)