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【191冊目】情報の網羅性や内容からすると教科書・資料集的な位置付けにある本。しかし、通して読んでも耐えられるほどの物語性もある。北朝鮮の内政・外交・社会・対韓国・対米国・対日本の入門書として素晴らしいと思う。
以下、読了直後で印象に残っていることを備忘的に。
・北朝鮮が核開発乗り出した要因として、同盟国であった中国及びソ連からの援助と安全保障の提供を期待できなくなったことが大きい。文化大革命時に金日成批判が中国で巻き起こったときはソ連に接近し、しかし、その後も米中国交正常化、米ソのデタント、ソ連崩壊、中韓国交正常化などなど。結局中国もソ連も頼れないと気付いたとき、米国に対抗にするため、核開発に走ったと見たら理解できそう。
・苦難の行軍と呼ばれた1990年代後半の経済危機を乗り切るため、北朝鮮は日本にも接近。拉致問題を認めたのも、この時期に日本からの援助を引き出すためという文脈に位置付けられる。
・韓国国民にとって、北朝鮮は恐ろしい敵であった。これは長年の反共教育の賜物でもある。しかし、金大中の太陽政策を経て、多くの情報と実情に触れることとなり、北朝鮮は援助と哀れみの対象ともなった。経済的な負担を回避したい多くの韓国国民にとって、現実的な望みは「半島統一」よりも「現状維持」である。
・イデオロギーが両国の紐帯の重要な部分を担っていた時代は終わり、中国が北朝鮮の完全な庇護者であった時代も終わった。中国は北朝鮮を対民主主義陣営の緩衝地帯とみなしており、より実利重視で現実的な目で見つつある。
あと、金正恩が強硬な姿勢を強めつつあり、トランプ大統領が誕生した今、北朝鮮とそれをめぐる国際情勢は新たな局面に入ったと言わざるを得ないだろう。