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佐藤亜紀さんの小説は読むにあたって、舞台となった国の歴史や文化といった背景へのある程度の基礎知識が必要だから、それで直木賞候補に選ばれなかったんだろうな。お酒も飲みやすいのが一番とされるご時世だから。文体はいい。現代作家で文体で読ませるのはこの方と津原泰水。お二方ともTwitterで荒れてるのも共通。エディは戦後実業でもプロデュースでも成功しそう。金持ちの馬鹿息子なら、せめてレジスタンスでなけりゃね。若者を熱狂させる文化娯楽を潰そうとするような国は早晩滅びる。『カサブランカ』ってプロバガンダ映画だったんだ。これで紙の本で佐藤亜紀さんを読めるのは最後なの?寂しいよ。出版業界、何とかしてよ。
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ドイツってお堅そうだしナチス統治下の時代はゲッベルスが宣伝相としてプロパガンダ活動をしていたから敵性国の音楽であるジャズが流れてたとはまさか思いませんでした。
ハンブルク富裕層の子息たちが戦時下にジャズに明け暮れながらナチスなんかクソ食らえとたくましく生きて行くお話。
戦時下に生きる少年たちのお話なのですが決して常に救いのない、暗いお話ではないです。主人公のエディは友人のマックスたちと女の子とクラブで踊り狂って、BBCを録音した海賊版レコードを売って大儲けして、ナチスを小馬鹿にして…そんな彼らにも容赦なく戦争は忍び寄ります。
マックスの祖母が自殺するシーン、エリーとダニーの両親がユダヤ人として迫害されていく様子、ハンブルク空襲で両親が正装したまま死んだところを発見するエディ…物語を通して、主人公たちの周囲で起こる死はそれぞれ悲しいのですが、戦争の中の一コマとして過ぎ去ってしまいます。
そんな中、物語前半で強制収容所に送られたアディから電話がかかってくるラストはこれから訪れるであろう戦後の困難も容易く乗り越えられそうな希望に溢れていてスッとしました。
バルタザールの遍歴と同じくらい、大好きな一冊です。
今年の私的ベストです。
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ジャズ小説ではないです。戦争&ギャング小説。ジャズ演奏の描写もありますが踊るための音楽だった時代のお話。ほろ苦い青春小説でした。
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「おれギター買おうかな」
「買えば」
「そんな簡単な話じゃないんだよ。もっと根本的な問題なんだ」
「ギターが」
「おれがギター買って弾く、ってのは、ユーゲント抜ける、って話だ。ユーゲント抜ける、ってのは、人生投げる、って話だ」
『獣の、というのは簡単だが、たぶん獣だってそれでは生き延びられないような自由で、それは結局のところ、ぼくたちみんなの密かな渇望だった。』
「でも一番大事なのは、やりたいことやるのに邪魔が入らないこと。そうでしょ?」
『これがまたすさまじく馬鹿な話だ。我慢して聞いてほしい。誰がユダヤ人か、という難問を突き付けられて、法律家たちは博士たちの素晴らしく馬鹿げた主張をなんとか法律の形に収めようとした。もとが馬鹿話だったので、出てきた法律もまた馬鹿げていた。』
『問題なのは血ではなくて、血が担う精神だ。幽霊、と言ってもいい。ユダヤ教徒はユダヤ教の幽霊に憑かれている。ある日当然改宗したアーリア人も、同じ幽霊に憑かれている。そしてこの幽霊は遺伝する。改宗しても追い払えない。
なんて馬鹿な。』
『婆さんの言う「悪い結婚」は「結果的にはそれほど悪くなかった結婚」を目前に、「極めて悪い結婚」に転げ落ちた訳だ。』
「親父って不都合なら取り替えが利くのか」
「書類の上じゃね」
「実際にやった奴もいるよ。兵隊に行くの前提なら簡単に通してくれる」
「ただ、親父がなあ」
「無茶苦茶怒ったからなあ。書類の上だけの話だからいいじゃん」
「なあ」
『「その提案、って何」
「離婚」
ああ、とぼくは言った。それは。
「書類の上だけの話なのに。それでマルタおばさんも、もしかするとあの二人もあそこから出られるのに」』
「今更法なんて気にしてもしょうがないだろ、法で身ぐるみ剥がされたのに。おれたちのことなんか法は守らないよ」
「法は社会の基礎だ。その外に出るということは、社会の外に出るということだ。お前たちにはそれがわかってない」
「お前たちはどうしようもないろくでなしだ ー ろくでなしだけが生き残る」
「太腿すげえけど」
「腿んとこぱんぱんだもんな。おっぱいも」
「おっぱい!」
「こんなんだもんな」
「見たのかよ」
「みんな見るだろ。短パンにランニングだぞ」
「おっぱい!」
「勃起可能なだけで誰でも改悛の見込みのない性犯罪者にできるって。だから身を慎め、って」
「それ言われると辛いんだよ、事実だから」
「事実だよなあ。つい、ってあるもんなあ。実地検証したら一発だって言われた。確かに自信ないわ」
『血統だの純血だの民族の一員としての自覚だのは、やりたい奴が趣味でやればいい。どこかの離れ小島でも買い取って。で、ひたすらアーリア人にアーリア人を掛け合わせてジャズとか一切聴かせずに愛国作文でも書かせて朝から晩まで運動させて歌わせて行進させていれば理想のアーリア人が作れる、というなら、どの程度のものが仕上がるか喜んで見せて貰うけど、ぼくにや���とか言わないでくれよ。もううんざりだ。』
「政治の快感はヘロインより強烈だ、と叔父は言ってますし」
「非合法活動の快感は、と言うべきだな。若い人間には毒だ」
「一人残らず気でも触れたみたいに踊り狂って、両手を突き上げるわ頭は振るわ女どもはぐっしょり汗まみれで笑い狂うわで、止めようにも壁に追い詰められて身動きもできねえ ー おれは確信したよ。正しいのはこっちだ。ホールいっぱいの客が望む音楽を、国は邪魔できない。だからおれは決めた。正しさの方が、国より上だ。」
「品が良すぎてみんな面食らってたが、凄腕は凄腕だよ。色々学ぶことは多い。学んじゃいけない点も含めて」
「この世はお前よりいつも一枚上手なのさ」
『解放。なんて美しい言葉だ。』
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第二次世界大戦下のドイツ。
敵性音楽とされたジャズに魅せられ、刹那的に、けれどしたたかに逞しく生き抜く少年達の物語。
ゲシュタポの横暴やユダヤ人迫害の過程、そして空襲といった悲惨な戦争描写がありつつも鬱々としないのはエディの飄々としたキャラクターのせいかも。
彼は友人達とつるみ富裕層の御曹司という立場を最大限利用して男女で踊り狂い、兵役を逃れ収容者を匿い、海賊版のレコードを作って売り捌く。
単に甘やかすだけではなく、彼に自分では果たせない夢を内心託していたであろう父親のハンブルグ空襲時の描写が切なかったけれど、戦争を否定しナチス政権の裏をかいて「解放」まで辿り着く彼らの姿は痛快でもあった。
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ナチス政権下のドイツ。
ブルジョア不良たちの、反体制的反抗。それはナチをダサいと笑い、ジャズを聴き続け踊り続けること。
そういう反戦もあるんだ、と。
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第二次大戦前後のドイツ.意外とジャズに人気があったのは本当らしい.荒んだ時代を背景に半ば自暴自棄の若者の成長が描かれる.少しミノタウロスに似た印象を受けた.
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あらゆる誌面で絶賛されてただけある、大傑作!!!!!!
しかし政治思想よりジャズにかけた青春…みたいな書評を読んでたせいか、「そんなの当時のドイツで可能だったの?」と軽い疑問を抱きながら読み始めたら、確かに最初はブルジョワお坊ちゃんの不良ライフではあるけれど、結局収容所で徹底した辛酸を舐めてるし、亡き父親に代わって工場を切り盛りしたり(一人称なので淡々と進んでいくけれど、すごい才覚だわ…)並大抵じゃない苦労を経験している。
戦争はやっぱり誰に非常につらい…一部の有力者以外…と、改めて思わされた小説でもあった。
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ジャズは全然わからないけど、タイトルも章タイトルも、全部曲名とのこと。舞台は1940年代のドイツ・ハンブルク。金持ちのボンボンである僕は、悪友と一緒に女の子たちとスウィングする。未成年、お酒、不適切な音楽。ゲシュタポに補導されても、僕たちはスウィングし続ける。怖いもの知らずで、クールな連中。馬鹿な国のために命を捧げるなんてまっぴらだ。そのうち戦争が現実味を帯び、ナチスが台頭してきて、ユダヤ人たちは家を奪われていく。両親は死に、牢獄のような国でも、僕は生きている。翻訳本みたい。佐藤亜紀さん、すごい。
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前半は青年たちの甘酸っぱさもほろ苦さも兼ね備えた秀逸な青春小説、後半は凄惨な戦争小説、と云うとあっさりしすぎかもしれません。前半部分で「佐藤亜紀さんも年取ったなあ」とか失礼な事が過りましたが、後半でそんな事は全く無いな!これこれ!!みたいな…。
相変わらず、カネも容姿も持ってる賢しい青年(主人公)が物理的に痛い思いをする小説で右に出る人が居ないよなーとか。
個人的にはマックス大好き。
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ナチ政権下のハンブルグ。当時のドイツでこんなにジャズがもてはやされていたとは知らなかった!ジャズレコードの海賊盤を作って儲ける青年たち。
佐藤亜紀だから、グロテスクで残酷な展開を期待していたのに、まあ多少、史実と世情を反映してはいるらしいけど、結局最後までスウィング・ボーイズの青春モノだった。
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久々に読み応えのある本を読んだ。
第二次大戦下のドイツで生きるお金持ちの青年たちの物語。
俯瞰で見た時に、ナチスはユダヤ人や外国人、ナチスの反逆する思想犯を収容所に封じ込めてはいるが、小都市レベルではナチ党員(お金儲けのために入っているだけ)の息子たちの放蕩にはなかなか手を出せない。しかし、戦局が終焉に向かうにつれ状況はどんどん酷くなり。。。
どんな状況で人は楽しみを求め、命の極限状態では背徳感ともあいまってそれが至上の悦楽を生み出すのだなと思った。
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今までにナチスドイツのころの庶民というか
若者、しかもナチに対して白い目でみて
でも表立って反抗することなく、行き過ぎるのを
まっているという所謂一般の人たち、さらに
ある程度中流以上の思想の独立性をもって
裕福な若者を対象にした小説を読んだことが初めてだと
思いました。
なかなか面白く読めました。
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翻訳モノかと思う文章。
ジャズの知識がないため、曲名出てきたらYouTubeで調べ曲をかけながら読みました。ジャズに詳しければもっと面白かったはず…
日常の中に戦争がある描写に、今のウクライナで起きてることを想像させられました。
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スウィング・ユーゲントなるものがいた。文化があったことさえ知らなかった。そこから痛切な皮肉を効かせてナチズムの時代をみる。日本人作家の小説で知ることになるとは、という一冊。