紙の本
冥府へと引きずり込む魔性の女。
2017/12/25 23:16
2人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:たけぞう - この投稿者のレビュー一覧を見る
> 冥きより 冥き道にぞ 入りぬべき
> 遥かに照らせ 山の端の月
あまたの男をもてあそび、恋の歌で翻弄します。
贈答歌、返歌、相聞歌。
才能あふれる和歌を武器に、この小説にあるだけでも二人の夫と
四人の愛人を掴んだ恋多き女です。身分は決して高くないのに、
尋常ではないモテ具合です。
自分の身に不幸が起こるたびに嘆き悲しみ、その姿を見た男たちが
そっと寄り添うという、無限の恋ループに人生のすべてをささげた
和泉式部。
>あたしなんて あたしなんて
>あの人が去ってしまって
>もう誰もあたしのことなんか
冷静に考えると、どぐされビッチです。
一条天皇の妻となった彰子に仕えましたが、同じ立場にいた
紫式部がディスったのは周知の事実とのこと。
かたや夫に先立たれて隠遁生活に入り、妄想の恋におぼれて
源氏物語を記します。人気が出るのはお話ばかり、当の作者に
浮いた話がないとなれば水と油になるのは必然でしょう。
しかも和泉式部に関わった人たちは、高い確率で早死しています。
それでも誘い歌が毎日のように押し寄せるのです。
よほどの美人だったのでしょう。
早死の中には毒を盛られたっぽい人もいて、きな臭いのです。
妖艶で甘え上手、いつも瞳をうるうるさせている姿を想像して
しまいます。知りませんでした。
和泉式部はこんなにも危険な女だったのですね。
冒頭の代表歌が真実をうたっています。冥き道を行く女なのです。
惜しむらくは、この小説が短歌を引用しすぎていることと、
登場人物が多すぎるということです。
調べた生涯を全部書いてしまったのでしょう。とても理解しきれません。
消化不良になりますので、小説の出来はいまいちなのですが、
逆に題材の大きさと妖しい光を充分に感じることができました。
三分割ぐらいにして、それぞれ独立して完結した物語にできるくらい、
濃い生涯を送ったといえるでしょう。
書き直してくれたら、ぜひ読んでみたいです。
それくらい魅力を感じる題材でした。
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背景の物語が提示されると、和歌の味わいも深くなる。恋愛小説と思って読んでいたら、藤原道長の治世で政治に翻弄された女性をめぐるミステリー小説の要素もあった。
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初出 2016年の「小説すばる」
さすが諸田玲子の書く平安もの。最後はミステリーになっていて、一気に読まされた。歴史好きでない人にはやや取っつきにくいかも知れないが。
恋多き恋の歌詠み和泉式部の、実は平安貴族世界のしがらみ、権謀術数に翻弄されていた人生と心情を丁寧にすくい取っていて、藤原道長の権力欲よって恋や夫婦関係まで翻弄される人々を描こうとした作者の意図が読み取れる。
久しぶりに学生時代に注記を書き込んだ影印本の「和泉式部日記」を引っ張り出してながめたが、本書中では「和泉式部物語」とされていて新しいイメージになっている。
赤染衛門の娘で和泉式部を慕っていた江侍従が、和泉式部の死後思い出をたどるストーリーのあいだに、リアルタイムの和泉式部のストーリーが挟まれる構成になっていて、どういう展開になるのかと思っていたら、最後に死の謎に迫る意外な展開になった。お見事。
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和泉式部が亡くなったことを知った彼女に縁のある人々が恋多き和泉式部が本当は誰を一番愛していたのかと語り合う導入から始まり、和泉式部自身が語る半生と赤染衛門の娘江侍従が和泉式部の人生をより知ろうと縁の人々から情報を集める物語が交互に描かれ、やがて和泉式部の死におけるミステリーとなるという展開は面白かったが、和泉式部の恋多き部分に酔いしれるとしたら、まだ瀬戸内寂聴さんが出家される前に書かれた「煩悩夢幻」の方が好き。
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和泉式部は歌詠みの職人、「天皇」と同じ。いとも容易く歌を詠みます。ただその権力の側におさまりきらないところがあって、はみ出します。そこが面白い。諸田さんにしては珍しく、少し凝った構成のサスペンス仕立て、最後は哀しい結末だけれど読後は満足。馴染みの名前が次から次にあらわれて、これも楽しい。
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3.5ぐらい。
恋多き歌人・和泉式部の半生。
意外なラスト。
ミステリーとしては読ませるけれど、女が男とすぐに寝るというお話なので、あまり感慨深いものはない。
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恋多き和泉式部が一番に想いを寄せていたのは果たして誰だったのかという雅なミステリーなのかと思っていたら、衝撃的な結末。
読み終えてまた、ページをめくってしまいました。
和泉式部の歌が散りばめられ歴史に基づいた宮廷の方々の生死にも触れ、贅沢極まりない一冊でした。
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第10回 親鸞賞 受賞作
比類なき和歌の才能で王朝の宮廷に名を馳せながら、藤原道長からは「浮かれ女」、紫式部からは「けしからぬかたこそあれ」などと揶揄され、派手好みの恋多き女性というイメージが強い和泉式部。彼女の素顔はいかなるものだったのか。和泉式部の養父である大江匡衡と赤染衛門の娘・江侍従は式部に魅せられ、「和泉式部物語」からあえて省かれてしまった真実を探ろうと奔走するが…。
※親鸞聖人の遺徳をしのび顕彰するために、またこれからの日本の文化と文学の振興に寄与するために、本願寺維持財団(当時:現一般財団法人本願寺文化興隆財団)が2000年に創設。日本の宗教風土とそこに根差した精神文化に基づく、人間の深い希求の心を感じ取ることの出来る優れた作品に贈呈している。
同財団では、親鸞賞(フィクション対象)と蓮如賞(ノンフィクション対象)を隔年で開催している。
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時代小説あまり読まないのですが、何かで紹介されていて。諸田玲子さんの著書も読んでみたくて。
恋多き女性というイメージがあった和泉式部ですが、そうせざるを得なかった状況に追い込まれてという感じ。でもその度に情熱的に思い合っていて、女性として幸せな事だと思う。
久しぶりに平安時代にひたった。むかしあさきゆめみし読んだ頃を思い出した。
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和泉式部、百人一首の和歌を知っている程度でした。
この本のお陰で、立体的な和泉式部像を掴むことができました。
平安時代は、平安なのにドス黒い!