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本書のもとになったのは,著者が所属校で担当している「社会学」および「社会変動論」の講義ノート。著者の前著『共に生きる:多民族・多文化社会における対話』も講義ノートをもとに執筆したらしく,その意味では,本書は前著の続編と位置づけられていた。
前著は社会学的な多文化主義・多文化共生論の学部生向けの入門書として書かれ,本書はより裾野を広げ,グローバル社会論を中心とした社会変動論のテキストとして読まれることを想定して執筆されたらしい。
書評(津田, 2018)では本書を,グローバリゼーションと人々の分断とが同時並行的に生じる現代社会を理解する上での入門書と位置づけていたが,個人的には入門書にしては難しいと思った。
ある程度,社会学的な社会変動論や多文化共生論の話を知っていないと本書の読解は困難であろう。その意味では,前著の続編と位置づけられているのも納得である。
また,本書は他者への想像力を養うための一冊として構想されていた。ここでいう他者への想像力とは「個人が知識を活用しながら自らの共感の限界や制限を押し広げて,他者を理解しようとする努力」(p.12)である。
しかし,本書を読解しようとする人はそもそも他者を理解しようとする努力を備えている人のように思え,そのような想像力を有していない人をどのように本書との対話に引き込むのかについては考えなければならない課題なのであろうと思った。
意欲的な試みであり,知的欲求を刺激される書物であったことは間違いないものの,今の自分でなかったら(分断について考えたいと思っていなかったら),おそらく読めなかったのではないかとも思う。