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19才のとき、奇跡的に2日続けて村上春樹朗読会のチケットを手に入れたという芥川賞作家の川上未映子による4回のインタビュー。さすがの春樹ファン、質問も深く鋭い。
ただ、それに対する春樹さんの答えっぷりがまた良い。「そんな事言ったっけ?」「それは全くない」「へぇ、そうなんだ」
そうは言っても語り出せば最新作『騎士団長殺し』の話や過去の作品について内容は濃く、感心したり驚いたりとても楽しめた。二人のやりとりを読んで改めて読み返したいタイトルが続出。困った。
○どこの出版社に原稿を渡すかは、書き終えてから決める。これにはちょっとびっくり!
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必要な記憶の抽斗がぽっと勝手に開いてくれるというのが、
すごく大事なんです。
「騎士団長殺し」
ふと思い浮かんだタイトルと、
書き留めておいた最初の一文
上田秋成「二世の縁」が、モチーフ。
1Q84の三人称から一人称に戻った。
僕でなく「私」に。
一般の小説は人々の暮らす1階や2階ではなく、地下1階の(論理的な)話だが、
村上小説は地下2階の話。
リアリズムの文体を使って、非リアリズムな物語。
二つのコツ。
ハッとするような比喩と会話のやり取り。
文体が大切。
僕よりうまく書ける人は少ない。
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これ今までのインタビューで1番面白いんじゃないか?
そう思う理由を、3つ挙げます。
1インタビュアーの川上さんが、よく下調べしてきていること(当たり前のことですが)。村上さん本人よりも作品の前後関係や内容について詳しくて笑える。
2川上さんが、同じ作家ということもあってか、かなりつっこんだ内容を、粘り強く質問すること。インタビュー集『夢を見るために〜』を読むと村上さんは同じ回答の繰り返しが多くて肩すかしを食らうことになるんだけど、川上さんはそうならないように工夫している。
「発行部数が落ちたりすると…」みたいな下世話な役回りをしてくれて面白いし、また、村上作品での巫女的な女性の役割についてもフェミニズムの観点から追及しているのも初めて見た。
3新作『騎士団長殺し』の直後にインタビューしているため、村上さんが作品の細部を覚えていること。とにかく過去の作品は忘れてしまうようです。
短めの長篇(国境の南、スプートニク、アフターダーク、多崎つくる)は実験的なことをやっているなど、初めて聞く情報が引き出せていると思う。
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これは面白い本です、今年の10作の一つでしょう(残り9つは聞かないように)。
まぁ色んな言葉を川上が村上より引き出していて、刺激的な内容ですが、何はともあれ「僕よりうまく書ける作家は少ない」という自信。仮に思い込みであっても、確たる自己への信頼がなければやっていけませんわね、作家たるもの。村上春樹ほどの毀誉褒貶の荒波に揉まれるのであれば猶更のこと。
あと川上未映子の戦闘性も見物です(聞き手としての積極性ではなく、作家としての意識・目線という意味)。この人もアウトロー的立ち位置なんですなぁ。
それにしても村上春樹って何でそんなに皆惹きつけられるんでしょうか?上記のアウトローじゃないけど、この作家、そんなに万人受けするタイプじゃなく、絶対にカルト的な支持を受けるタイプと思うんだけれども。未だ当方の腹に落ちてこない不思議の一つです。
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リンカーンが言っているように、ものすごくたくさんの人間を一時的に欺くことはできるし、少ない数の人間を長く欺くこともできる。しかしたくさんの人間を長く欺くことはできない。それが物語の基本原則だと僕は信じています。(中略)善なるものというのは多くの場合、理解したり嚙み砕いたりするのに時間がかかるし、面倒で退屈な場合が多いんです。でも、「悪しき物語」というのはおおむね単純化されているし、人の心の表面的な層に直接的に訴えかけてきます。(p.101)
頭で解釈できるようなものは書いたってしょうがないじゃないですか。物語というのは、解釈できないからこそ物語になるんであって、これはこういう意味があると思う、って作者がいちいちパッケージをほどいていたら、そんなの面白くも何ともない。(p.116)
僕は思うんだけど、人が人生の中で本当に心から信頼できる、あるいは感銘を受ける小説というのは、ある程度数が限られています。多くの人はそれを何度もなんども読み直しては、じっくり反芻します。(中略)そして結局そういった少数の書物が、僕らの精神性のバックボーンになっています。(p.188)
チャンドラーの比喩で、「私にとって眠れない夜は、太った郵便配達人と同じくらい珍しい」というのがある。これは何度も言っていることだけど、もし「私にとって眠れない夜は稀である」だと、読者はとくに何も感じないですよね。普通にすっと読み飛ばしてしまう。でも「私にとって眠れない夜は太った郵便配達人と同じくらい珍しい」というと、「へぇ!」って思うじゃないですか。「そういえば太った郵便配達人って見かけたことないよな」みたいに。それが生きた文章なんです。そこに反応が生まれる。動きが生まれる。(pp.217-218)
完全に囲われた場所に人を誘い込んで、その中で徹底的に洗脳して、その挙句に不特定多数の人を殺させる。あそこで機能しているのは、最悪の形を取った邪悪な物語です。そういう回路が閉鎖された悪意の物語ではなく、もっと広い開放的な物語をつくっていかなくちゃいけない。囲い込んで何か搾り取るようなものじゃなくても、お互いを受け入れ、与え合うような状況を世界に向けて掲示し、提案していかなくちゃいけない。僕は『アンダーグラウンド』の主催をしていて、とても強くそう思いました。肌身に染みてそう思った。これはあまりにも酷すぎると。(p.336)
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これはすごい。本人以上に知識量はすごく、多様な観点からぶつけてみたり、一つのことを違う切り口で粘り強くぶつけてみたり、聞きにくい下世話なことも切り込んだり、と川上未映子のインタビュアーとしての腕がずば抜けている。村上春樹の逃げはどこまで本気なのか… あと、彼女の小説も読んでみようか。
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「退屈でつまらない答えで申し訳ないけど、退屈でつまらない質問にはそういう答えしか返ってこない」と文豪アーネスト・ヘミングウェイは仰ったそうな。
礼儀正しい村上さんは、もちろんこんなことは口にしたことがない。(が、そう言いたくなる局面は何度か経験したらしい)
この対談はちがう。川上未映子さんは村上春樹ファン、書店員、小説家として、絶妙なタイミングでミーハーと本のプロの間を行き来しながらインタビューする。それが良いんだなぁ。
思わぬ方向に転がる会話の端々から、作家の普段の創作過程が想像できるようで本当にわくわくした。
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物語とは、マテリアルをくぐらせる作業。牡蠣フライを油にくぐらせるみたいに。
古代の洞窟スタイルの語り口。
文章の生成の中にしか自己は存在しない。
「つんぼじゃねえや」と、太った郵便配達人。
などなど。面白かったです。
「世界はメタファーだ」という自分自身好きだった言葉が用いられた時に、村上さんがそんなこと書いたのを全く覚えていなかったのには笑ってしまった。
川上さんの本も読んでみたいと思いました。
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川上さんの問いがすべからくスカっているところが、村上さんの特異性を炙り出すことになっていて面白かった。
「作者も物語がどうしてこうなったか、サッパリわからん」とハッキリと言い切ってくれて、何かスッキリした。
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長年の愛読者である作家 川上未映子が村上春樹にアレヤコレヤを延べ4日間10数時間にわたり、切っ先鋭く執拗に斬り込んだ25万字にも上るインタビュー集。
何と言っても川上未映子の綿密かつ丹念な準備。鮮明かつ仔細な記憶力。巧みで執拗な問いかけにたじろい、はぐらかし、時に饒舌に語る村上春樹。また、過去の様々な村上春樹のインタビュー記事にも目を通し、「あの時こう言ってましたよね?」と証拠物件を提示するかのような念の入れよう。入念な準備が余裕を生み、奔放なアドリブも醸し、「生き生きとした、限りなく素に近いであろう村上春樹」が紙面から立ち昇る、読み応えのある一冊。
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どこが良かったではなく、一冊のインタビューとして、本当に良かった。最後まで読んで、胸が熱くなったし、深いところで、影響を受ける内容だった確信があるw。
物語のちから。妙な切実感。
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さすが川上未映子、見事に村上春樹の懐に飛び込んでしまいには村上邸にまでお呼ばれ?されてありとあらゆることを、
率直に真摯に訊いて、他のインタヴュアーじゃ、こうはならなかったと思う。
春樹氏が書きたいことがなくなった晩年にはジャズクラブをやりたいって、絶対ものすごくファンたちが殺到して大変なことになるよ。あっ、会員制か…ものすごいセレブしか入れないような…?
川上未映子が絶賛する”TVピープル”の中に収録されている
”眠り”読みたくなる。
そこに出てくる女性が今までの概念を覆す”新しい女性”で
とにかく素晴らしい体験でした。とある。
相変わらず頭の中が活字で溢れていてその並外れた記憶力にも驚かされる。
村上春樹ファン、必読の一冊。
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川上さんが想定以上に村上さんに突っ込んだ質問をしていた。村上作品を深くよんでいるなあ。楽しくふむふむ読んだ。
非リアリズムと地下二階、地下一階はクヨクヨ室で、そこは目を伏せて通ること
村上作品を内面的に読書すること
太った郵便配達人
プラトンの話(おかしかった)
しかし村上さんも鋭い問いをうまくかわしているようなとこもあったのが惜しかった(登場する女性についてなど)ような気がするが、それが村上さんなのかも。
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初読。図書館。川上さんを1冊も読んだことがなかったが、とにかく面白かった。インタビュアーとしての川上さんは膨大な予習を背負って村上さんに迫っていくし、村上さんはそれを誠実に面白そうに受け止めて丁寧に返していく。読者と作家の両方の視点から放たれた問いは、過去に何度も語られた答えも新しい答えも取り混ぜて引き出される。p154からの「イデア」の件は、川上さんのひるまない突っ込みに感心すると同時に大笑いできる。p243からのフェミニズム的質問は川上さんの勇猛さに驚愕。川上さん、ぜひ村上さん専属インタビュアーに。
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物創りをする人の話を読んだり観たりするのが好きで、さらに今回は訊き手も常に注目している川上さんだったので、訊く側の視点もかなりおもしろかったし、なんだか小説の中にいるように読み進みました。時間を味方につける、キャビネットと抽斗、女の子に手を引かれたことのある記憶。村上氏の人となりももちろん興味深かったですが、やはり「職業としての」やり方、自然なことのようでやはりきちんと自分の中で何かを決めて考えて創り出し、創り終えている過程などが、覚書のように心に残りました。