紙の本
国、という概念を揺さぶる
2023/11/13 21:33
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投稿者:じゅんべぇ - この投稿者のレビュー一覧を見る
地域が違えば文化は違う・・・・くらいは、旅行の経験から知っていたものの、そもそも「国」という枠が緩い、というのは想像外。かつての日本もこんなものだったのかなぁ。。。
ただ、これを読むと西洋中心の民主主義、がいかに万能な制度ではないことに気づかされる。とはいえ、今の日本はよくやっていると思うので、変える必要はないと思いますが。
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ノンフィクション作家の高野秀行氏によるソマリア紀行。
自分がソマリアと聞いて想像するのは、タンカーを襲う海賊が棲んでいるとか、部族同士の争いが絶えない地域とかなのだが、なんとソマリアの一部には民主主義国家が存在しているらしい。
一言でソマリアと言っても大まかには、南部ソマリア、プントランド、ソマリランド、という3つの地域に分かれている。その中でも紛争が絶えないのは南部ソマリア、海賊が頻発しているのはプントランド、そして欧米にも勝る緻密な民主主義を実践しているのがソマリランドなのだ。
まずソマリアという地域を理解するには、「氏族」の複雑な関係を理解することが不可欠なのである。高野氏はこの難題の解説を日本の氏族や武将へ置き換えるという、非常に大胆で画期的ではあるが少々乱暴な手法で行っている。しかしこの手法で無ければ、次々に登場するアフリカ独特の固有名詞を覚え、氏族同士の相関関係を理解するのは不可能だったと思う。
高野氏は世界中のどこへ行っても、人の懐に入るのが非常に上手く、本作でもその才能を十分に発揮している。今回はカートと呼ばれる幻覚植物を地元の人々と食べて盛り上がるという、ある意味想像通りの手段で思わず笑ってしまった。続編の『恋するソマリア』もぜひ読んでみたい。
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かなりぶっ飛んだ面白さ。
興味深いのは氏族と部族は違うと言うところ。日本のマスコミは混同して伝えているという。なるほど。ソマリランドは戦国時代の源平のように「氏」でつながり、また氏のパワーバランスで争ってきた歴史がある。今も氏単位の社会構成だけども、お隣のソマリアとは違い内戦の後平和を取り戻したという。
その理由はソマリランド人いわく「ソマリ人は戦争が好きだから、戦争の鎮め方を知っている」とのこと。族長同士が会談して争いをやめたという。隣のソマリアもソマリ人だけど、イタリアが入植して氏単位の文化がなくなり、争いを鎮める役割を果たす人物がいなくなってしまったと。目から鱗。
ソマリ人のせっかちぶりや、非常識ぶりは戸惑いを越えて、かなり痛快。常識や規則に忠実な日本人が行ったら、発狂するんじゃないだろうか。
〈以下、メモ〉
・ソマリ人のいる国家は「ソマリランド」「ソマリア」(イタリアが入植していたからソマリア)、「プントランド」に分かれている。そこにディアスポラし、西洋文化をたしなんだ教養人ソマリ人が作った都市モガディショがある。ソマリランドのソマリは遊牧民気質だが、南部は農民気質。
・ソマリランドの人間は戦争が好き。だから戦争の辞め方がわかる。南部の人間(ソマリ)は元々温厚だったが、戦争が好きじゃなかったからやめ方がわからない。
・ソマリは日本の戦国時代のように「氏族」社会。※部族とは違う。同じ人種だが、北条氏、平氏源氏のように氏で派閥争いをしている。しかしソマリランドはスーパー民主主義を手に入れた。日本のように上から押し付けられた民主主義ではなく、下からの民主主義。
・水道もガスも電気も氏族が管理している。氏族の族長の主権が強い。
・氏族の掟「へ―ル」がある。精算は「へサーブ」、賠償金は「ディヤ」という。別の氏族を殺害(過失致死)・死亡させた場合は男性ラクダ50頭、女性20頭。現在は現金、それを氏族全員で分担して支払う(だれそれの井戸に落ちて亡くなった場合、井戸の持ち主が賠償金を支払う)。
・へ―ルは女性・子供・疾病人・老人などを戦時中も殺害してはならないとしている。
・カートという大麻のような効果のある葉っぱが大好き、カート宴会がある。宴会ではすぐに離席するのは失礼にあたる。
・ソマリ人は超せっかち・仕事が速い・人の話を聞かない・人の話は2秒でさえぎる・人の話は2秒しか聞けない
・南部のモガディショは超豊かで洗練されているが武装勢力がいる。現地人いわく「ボディガードをつければ危険な街じゃない」
・ソマリの海賊は投資。海外からソマリ人の海賊を雇って船を襲わせ、人質の身代金をとればビジネスになる。だから一手に海賊を取り仕切る「黒幕」はいない。本人は外国にいて逮捕されることもなく濡れ手に粟の商売。
マネーロンダリングの必要もない。また、人質は「人間」ではなく「積み荷」。ソマリ人のパートナーがいればどんな外国人も参入できる。その外国人は船の運航ルートと時間を入手しやすい自国の船を襲わせている可能性が高い。
〈プントランドのモガディショについて〉
・イスラム過激派の「アル・シャバーブ」はサウジのワッハーブ派の教えを信仰している。ソマリ人も毛嫌いしている。
・アメリカが氏族制度をよく理解しないままキリスト教エチオピアを利用しエチオピア軍と国連の混成軍隊を派遣し、モガディショを制圧しようとし、さらに混乱を極めた。
・イスラム法廷が機能していたが、アル・シャバーブにより解体、無機能化した。
・ソマリランドは国連という「高級会員制クラブ」に認められたいという意識が根底にあり、ハイパー民主主義を構築した。政府が無くても平和は構築できる。
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内乱や海賊といったワードとセットで海外ニュースで取り上げられることが多いソマリア。その国内に存在するという独立した平和国家「ソマリランド」。
その国を訪れた著者が、なぜ内乱の続くアフリカ諸国の中で、ソマリランドだけが独立国家として、平和を維持できているのか、について実際に見たり聞いたりした体験を通して分析していく。
もう、タイトルだけで面白いことが保証されているような本書だが、実際に講談社ノンフィクション賞も受賞していて、世間からの評価も高いようだ。
500ページ以上ある分厚い本ではあるが、最終章以外は、一気に読めてしまった。最終章についてはソマリランドの謎の解明という点では必要な章であることはわかるのだが、突然理屈っぽくなってしまったのが気になった。
とはいえ、著者の貴重な体験記録も併せて、最近読んだドキュメンタリー物としては、突出した出来の作品だと思う。
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国際的には独立していると認められていない独立国家で平和なソマリランド、海賊で有名なプントランド、内戦中の南部ソマリアで成り立っているソマリア。氏族を日本の武将に例えて説明してあるので、判りやすかった。というか、カタカナの氏族名だけだときっと挫折していました。カート宴会でカート中毒になったり、籠の中のカモネギ状態になりながらも現地の人の懐に飛び込み、やがてお友達まで作ってしまう高野さんの人間力に脱帽です。
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単行本の頃から気にはなってて、文庫化に当たりいち早くゲット。自分の予備知識としては、ソマリアがアフリカにあるってことくらい。だから正直、細かいことを書かれてもチンプンカンプンだし、思ったより凄いボリュームに、読む前からちょっと不安な気持ちが… でもそれは全くの杞憂でした。氏族の関係とかを詳しく知りたい人でも、分かりやすいように日本史に準えられているし、それ抜きで、”氏族とは”って部分だけでも十分楽しめる。周りからの干渉を受けず、独力でここまでの民主主義国家形成を成し遂げたのは、圧巻の一言。作者も書いてるけど、今の日本にこそ、ここから学ぶべきことが数多あると思える。形だけの二院制とか、一瞬で喝破されてるけど、国民個人が自分の所属する国家に対してよく考えているからこそ、見えてくることなんでしょうね。考えさせられることも多かったです。良書。
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お盆で読み切ったーーーー!!!!!!
文庫化したら絶対読もうって決めてました、分厚さに怯んだけど高野さんなら読めると確信して読み終えました。
高野さんはすごいよね、どこへ行ったってどこにいたってぜったいにぶれない、自分の目で見たことが事実。だから絶対的に面白い。説教臭さなんて欠片もなく、ただただ高野さんが見たこと感じたことを面白おかしく時に真剣な言葉で伝えてくれている、何より高野さんという人柄にほだされてしまう。
高野さんに連れられて私たちもあっという間にソマリランドに夢中になる、ソマリ人が近くに感じられる、こんなノンフィクション作家いないよ。ソマリランドの人たちは自分たちの国のことを真剣に考え議論し行動して幾度も戦闘を乗り越えソマリランドを作った。私たち日本人なんて彼らの足元にも及ばない。この国では誰も自分の国のことについて真剣に語ったり怒ったりしない。それって異常なことだし、何ていうか、国としてけっこう絶望的なことなんだよね。
だからこそソマリの人たちが生き生きと見えるんだろうし、高野さんがソマリ人化していくのだって頷ける。いそいそと大黒屋からワイヤッブに送金する姿だって最高にいい。高野さんがソマリのみんなに愛されていく姿を想像して嬉しくなる。ほんと、こんな人いないよ。
恋するソマリアも絶対に読みます!
そして頭が足りなくて分からないこともあったけど、高野さんの本、引き続き読み続けるよ!!
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内戦の末に国内が大混乱に陥った失敗国家ソマリア。
という先入観があったのだが、この国はいったい何なんだ。
自治政府を名乗る民主主義国家ソマリランド。
独自の通貨を発行(しかも印刷はイギリス)し、通貨は周辺国よりも強い。
長老会と政党政治による民主主義は、どこかの国の衆愚制よりも優れている。
エチオピアと港湾都市からの関税以外に産業は全くないのに、首都ハルゲイサは活気がある。
そして東に位置するのが海賊国家を称するプントランド。
海賊行為による収入が莫大なんだから取り締まる人間がいるわけがない。
その海賊行為はスマートで、全ては金で動く。
海賊はONE PIECE的なロマンではなく、ビジネスである。
そして首都モガディショを含む南部ソマリアは北斗の拳状態の戦乱が続いているのに、人はなぜか笑顔で落ち着いている。
ホテルの外から銃声が聞こえてきても「ソマリアン・ミュージック」だと気にしない。
昨日また死体が転がってたよ、は挨拶代わりの日常生活の一部だ。
さらに南部ではイスラム主義の過激派組織アル・シャバーブが跋扈している。
この混乱の中で生まれた民主主義は何なのか。
ブラックホーク・ダウン。大国が関わるとろくなことが無い。
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内容(「BOOK」データベースより)
“崩壊国家ソマリア”の中で奇跡的に平和を達成しているという謎の独立国ソマリランド。そこは“北斗の拳”か“ONE PIECE”か。それとも地上の“ラピュタ”なのか。真相を確かめるべく著者は世界で最も危険なエリアに飛び込んだ。覚醒植物に興奮し、海賊の見積りをとり、イスラム過激派に狙われながら、現代の秘境を探る衝撃のルポルタージュ。第35回講談社ノンフィクション賞、梅棹忠夫・山と探検文学賞受賞作。
高野秀行というジャンルが確立して、他の冒険ものやエッセイ物では替りが効かない存在感が日増しに増大しています。とにかく突撃して行く姿勢は年齢を重ねてもさほど変わらないようで安心。
ソマリランドは、ソマリアの北部で絶賛立国中の国なのですが、なんと国際社会では非公認の国で公式にはソマリアの一部にカウントされている不思議な国です。しかも内戦でとんでもない事になっていると思われているソマリア、海賊の本場ソマリアの北に有るに関わらず、平和な国で夜でも女の子が町にフラフラ遊びに行っても大丈夫なくらいに治安が安定している。何故なのか??
という疑問を高野氏が身を持って解明していく熱い本です。一番熱いのはあまりに現地と融和してソマリ人化した高野氏が、次第に堅い友情を築いていくくだりでしょうか。
とにかくボリューム満点で、ドスンとした物が心に残る名作です。
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ソマリランドという国の存在を初めてこの本で知った。ソマリランドとは、ソマリアの中で独自に平和を築いた国である。なぜこのような平和な国を築くことが出来たのか、という疑問を深堀していくことも面白かったが、それよりも高野氏のカート(覚醒植物)漬けの日々がなによりも面白かった。期待を裏切らない!!
和平の結び方や加害者と被害者がどのように折り合いをつけるのかという部分も、文化によって考え方は全く異なると改めて思った。とても面白かった。2017.12
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超混乱したある「国」で考える「国家」の意義。
そこは北斗の拳かONE PIECEか、それともラピュタか。そんなアオリだけで、この本の面白さが伝わる。著者は、アフリカ東北部のソマリア連邦共和国内にあるという、ソマリランド共和国に行こうとする。そもそもソマリア自体が「崩壊国家」であり、しかしその一角のソマリランドは、「そこだけ十数年も平和を維持している独立国」だという。ちなみに国際社会には国と認められていない。そこは「リアル北斗の拳」か「リアルONE PIECE」なのか。
そもそも、無政府状態で崩壊しているソマリアにどうやって入国するのか。そこからどうやってソマリランドに行くのか。また、現地での足や通訳、安全保障は。もうそのひとつひとつが興味深い。著者の語るような文章がぐいぐい引っ張ってくれる。ソマリランドで知ったことは、――海賊国家プントランドと戦国南部ソマリア。またどこかの映画のような「国家」が現れる。著者はもちろんそこにも「入国」を試みる。そしてそこで見たものは。
日本に生活する私からすると、信じられないことの連発。ややこしいソマリの氏族関係も、あえて誤解を恐れずに日本の氏族(源氏やら平氏やら清盛やら政宗やら)にたとえてあることで、すんなりと頭に入ってくる。そしてどっぷりつかることで理解していく、どうしてそれが成功しているのかわからないほどの高みにあるハイパー民主主義。利益を重視し、契約を重んじる彼らのやり方。
分厚い本だがどんどん読めて、楽しんだ後にふと考える。とてつもない力のある本。
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ソマリランドという国名からソマリアという内乱で不安定な国を真っ先に思い浮かべた。著者が、日本はもちろん世界でも認知度が低いソマリランドを取材対象として現地へ乗り込むノンフィクションは、以前読んだ『アヘン王国潜入記』を彷彿とさせる素晴らしい仕上がりになっている。遊牧民の血が流れるソマリ人の思考である個人主義と氏族主義が、奇跡の民主的国家の成立に寄与していると感じた。日本では真似の出来ないやり方だ。西洋の真似をして近代化を成し遂げたが、個人主義の根付かない日本人に、独自の民主的国家を運営できるのだろうか?
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ソマリアと聞いてすぐに思い浮かぶは映画「ブラックホークダウン」
と内戦、そして海賊。
知りもしないで物騒な国との認識しかなかった。だって、映画の印象
があまりにも強烈だったのだもの。それに、ソマリア連邦共和国との
正式な(?)国の名前があるのに、崩壊国家に認定されているから。
しかし、そんなソマリアに民主主義を達成して独立国を名乗る地域
があった。それが本書で取り上げられているソマリア北部のソマリ
ランドである。
しかも氏族の長老たちが話し合って内戦を終結し、武装解除も達成
し、十数年も平和を保っているという俄かには信じられない国。
だって、アフリカって大抵の国で紛争が絶えないではないか。そんな
絵に描いた餅のような国があるはずがない。
でも、現実にソマリランドは平和だった。それは著者が現地を訪れた
際に外国人であるにも関わらず護衛もつけずに街中を歩き回れたこと
に象徴されているのではないか。
何故、ソマリランドは平和を達成できたのか。同じく独立国を主張する
お隣のプントランドやモガディシュを首都とする南部ソマリアとの違い
を、それぞれ自身の体験と現地の人たちからの聞き取りで解き明かして
いる。
欧米が押し付けた民主主義ではないから、ソマリランドでは平和が保たれ
ているとの話には説得力があると思うんだ。
アフガニスタンやイラクを見れば分かる。「俺たちがこの国に民主主義を
もたらしてやるぜ」という大国の思惑で、国が壊れてしまっているでは
ないか。
まれに日本で報道されるソマリアの状況だけでは分からない内容が盛り
だくさんだ。本当のソマリアを、ソマリ人を知ろうとしてカート(麻薬
植物)宴会で現地の人たちの中に入り込んで行くのだもの。
著者ならではのユーモアもあり、500ページを超える大作だが中だるみ
せずに読める。続編となる『恋するソマリア』もそのうち読まなくては。
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この、わかんないことはわかんないと書く→自分の考えを述べる→話を聞いたりして間違いに気づく→すんなり認める、って過程を全部書いていくパターン、他で読んだことあると思ったら高橋秀実だ。脱力系で、狙ってんのか素なのかわかんないネタ突っ込んでくる、完全に高橋秀実だ。
それはさておき、ソマリランド。知らんかった。アフリカの角ソマリアがエラいことになってるとかブラックホークダウンは知ってたけど。仮定に仮定が重なってるしどこまでホンマの話なのか、高野秀行の思い込みなのか、わかんないけどわかんないからこそオモシロい。
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アフリカの角部分にあるソマリア(ソマリランド、プントランド他)の話。色々な氏族名が出てきて混乱するが、日本の武家の名前を流用するなどして、わかりやすく説明してある。
たまにニュースで見かけるくらいで、全く知らない国の話。とても興味深く読みました。