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<上下巻併せての評です>
とにかく再読すること。一度目は語り手の語るまま素直に読めばいい。二度目は、事件の真相を知った上で、語り手がいかにフェアに叙述していたかに驚嘆しつつ読む。ある意味で詐術的な書き方ではあるのだが、両義性を帯びた書き方で書かれているため、初読時はミスディレクションが効果的に働き、よほどひねくれた心根の持ち主でなければ、正解にはたどり着けないように仕組まてれいる。しかし再読すれば、いくつもの目配せがあり、伏線が敷かれていて、読もうと思えば正しく読めたことをことごとく確認できる。ここまで、フェアに読者を欺く書き手にあったことがない。
ウェルメイド・ミステリという呼び名があったら是非進呈したい。最初から最後までしっかり考え抜かれ、最後にあっと驚かせるしかけが凝らされている。上下二巻という長丁場だが、二つの大戦をはさむ1930年代と2003年、ロンドンとコーンウォールという二つの時間と空間に魅力的な人物を配置し、失意の恋もあれば道ならぬ恋もあって、最後まで飽きさせない。特に上巻末尾には、絶対に下巻を読まさずにおくものかという気迫に満ちた告白の予告が待ち受けており、これを読まずにすますことのできる読者はいないだろう。
主たる舞台となるのは、コーンウォールの谷間に広がる森に囲まれた土地に建つ、土地の方言で「湖の家」という意味の<ローアンネス>と呼ばれる館。もとはジェントリーが所有する広壮なマナーハウスの一部であったが、本館が火事に遭い、残った庭師頭の住居を修復して子孫が住むようになったものだ。1933年当時そこに住んでいたのは、アンソニーとエリナ夫妻に、デボラ、アリス、クレメンタインの三人姉妹、末っ子のセオドア、エリナの母であるコンスタンスというエダヴェイン一族。夏の間は祖父の旧友でルウェリンという物語作家が滞在している。
ミッド・サマー・パーティーの夜、皆に愛されていた弟のセオがいなくなる。まだ歩きはじめたばかりの赤ん坊が一人でいなくなるはずがない。事故か誘拐か、地元警察はもとより、スコットランド・ヤードの刑事も加わって捜査されたにもかかわらず、セオは見つからずじまい。以後悲劇の舞台となった<ローアンネス>は封印され、一家はロンドンに引っ越す。もともと森の中にあった敷地は訪れる者とてないまま、繁り放題の樹々に囲まれて静かに眠り込んでいた。
その眠りを妨げたのがロンドンから来た女性刑事セイディ。個人的事情から担当中の事件に感情的移入してルールを犯し、ほとぼりがさめるまで祖父バーティの住むコーンウォールに長期休暇中だった。日課となった犬とのランニングの途中、敷地内に残る古い桟橋に足を取られて身動きとれなくなった犬を助け出した時、館を見つけた。敏腕刑事であるセイディには、当時のまま時を止めたかのように息をひそめた館には何か隠された秘密のあることが感じとれた。調べてみると過去の事件が明らかになる。
館を相続しているのは次女のアリス。今ではA・C・エダヴェインという有名なミステリー作家だ。未解決事件の捜査のため家を調べる許可を求める手紙を書いたセイディに許可が与えられたのはしばらくして���らだった。アリスは、この年になって姉のデボラからとんでもない事実を知らされ、長年自分が思い込んでいたのとは全く異なる家族の秘密を知り、あらためて事件の真相を知りたくなったのだ。助手のピーターの勧めもあり、自身もコーンウォールに足を運んだアリスを待ち受けていたのは、思いもよらぬ結末だった。
冒頭、ケンブリッジ出の学者肌の父、てきぱきと家事を取り仕切る美しい母、結婚が決まり社交界デビューも近い長女、物語作者を目指す次女、飛行機に夢中なお転婆の三女、愛らしい弟で構成される裕福な家族が、自然に囲まれた美しい湖畔の家で楽しく暮らす様子が英国風俗小説そのままにたっぷりと描かれる。十五歳になったアリスは、庭師募集の広告に応じて現れたジプシー風の若者ベンに夢中。完成したばかりの処女作をベンに捧げ、愛を告白する予定だった。ふだんは余人を避け、ひっそりと暮らす夫妻が年に一度、三百人の客を招いて行う夏至の前夜祭のパーティーの夜、事件は起きた。
ミステリの要素は濃いが、読後感じるのはむしろ普遍的な主題である。これは母と子の物語であり、戦争の災禍の物語である。主人公の女性は十代で娘を産み、養子に出した過去を持つ。それについての罪悪感が災いして、幼児遺棄の事件に関して過度に反応し失職の危機に遭う。意志に反して子どもと別れなければならなくなった母親のあり方について深い考察がめぐらされている。また、人類が初めて遭遇した大量殺戮である第一次世界大戦時における兵士のPTSD、当時はシェルショックと呼ばれた戦争後遺症についても、その非人間性が静かに告発されている。
ミステリ作家であるアリスの口を通じて、今は懐かしい「ノックスの十戒」が引き合いに出されているのも忘れ難い。犯人は最初から登場していなければならない、とか秘密の通路は一つに限る、とか作家としての自戒が、いちいち本作に用いられているのが律儀と言える。フーダニットからハウダニットに移行したあたりから小説が味わい深くなったとか、自作を語るアリスに作者その人を重ねたくなるのも無理はない。しかも、そのアリスの読みが肝心なところで外れていたのも皮肉と言えば皮肉で、このあたりのシニカルさはアメリカのミステリにはないものだ。
家の相続、良家との縁組といった上流階級ならではの慣行が、母と子の間に確執を生み、物事が単純に進んでいくことを邪魔する。そんな階級にあって、エダヴェインの娘たちは自由奔放に生きようとする。エリナがそうであり、アリスもクレメンタインもまた同じだ。思春期の揺れる心をクレメンタインが、女ざかりの時代を母エリナが、そして独身の老人女性をアリスが代表している。生来奔放な女性が、戦争の時代に翻弄されながら、それでも自分らしく最後まで正直に生き抜いた姿が読後胸に迫る。すべてが明らかにされた場面、ミステリではおよそ覚えたことのない感情に支配される。至福の読書体験である。
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現在と過去が入り混じり70年前のこどもの誘拐事件
をワケ有り休暇中の刑事がたまたま見かけた
荒れ果てた屋敷から興味を覚え、誘拐事件を紐解いていく。その屋敷の三人娘達が謎を握っている様だが
それは下巻を楽しみに読む事にする。
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ミステリというカテゴリに収まらない、とても見事に組み合わされたモザイク模様の大人のためのおとぎ話。
陰惨なプロローグ、猪突猛進、思い込みの激しそうなセイディという女性刑事。
偶然出くわした湖畔荘で過去に起きた傷ましい幼児の失踪事件と、現在自分が抱えるトラブルとが交互に或いは行ったり来たり、時代と視点とを変えて綴られる。いずれが縦糸やら横糸やら、次第に絡めとられ、もう気付いたらこの物語の虜。
しかし一旦物語の織り目の中に絡みついてしまえば、自ずと布目は見えてきて、最後はあっと驚く大団円である。
ケイト・モートンの作品は『リヴァトン館』からずっと読んでいるが、この作品が一番カタルシスを感じさせる。物語の持つエネルギーやポテンシャルは『秘密の花園』の方が上だとおもうが、読後の満足感は『湖畔荘』である。
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ケイト・モートン初読みだが、グイグイ読ませる、うまい。
コニー・ウィリスの作品を読んだときのような上質な満足感。
下巻でどう話が膨らむのか楽しみ。
ノックスの十戒縛りなのか。
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ケイト・モートンの魅力的な作品、4作目。
女刑事が見つけた古いお屋敷には‥?
70年前の事件が紐解かれます。
ロンドン警視庁の刑事セイディは、担当事件でルールを逸脱して謹慎となり、コーンウォールの祖父の元を訪れます。
森の奥を散歩していて、湖の畔に、忘れられて眠っているような美しい家を見つけました。
かってエダヴェイン一家が暮らし、末っ子の乳児が行方不明になって、未解決のままだという。
エダヴェイン家の主アンソニーは学者肌の男性。
1910年代、妻のエリナの娘時代にまで話はさかのぼり、生き生きした少女が現れます。
時代を行き来するように描くのは、モートンの真骨頂、ややこしい展開もうまく繋げています。
1930年代、長じてすっかりレディになったエリナが取り仕切る館には、デボラ、アリス、クレミーという3人の娘と、末っ子の幼い男の子セオがいました。
エリナの口うるさい母親や、亡き父の友人である作家、若い庭師や乳母など。さらに、年に一度だけ大きなパーティーを催すその日には、大勢のお客が集まってきます。
そこで、事件が‥
次女のアリスは多感な文学少女。すべてを見通していたつもりでしたが、高齢になってから、思わぬことを知らされ‥?
事態は動き出します。
上巻の手がかりから予想されることは、どう覆され、どう繋がるのか。
シーンごとの丁寧な描写が美しく、時には夢のよう。
うっとり堪能しつつ、真相はさっぱりわからないまま、下巻に突入ですよ。
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出だしの数十頁こそ、本筋と無関係な自然描写が面倒臭いなと思ったけど、1933年の幼児失踪事件と2003年の訳あり女刑事の詮索という話の骨格が見えてきてからは俄然面白い。特に幼児の姉がオリバー夫人よろしく売れっ子の老ミステリ作家になってるのが効いてる。〈ローアンネス〉のエダヴェイン家の面々に使用人、2003年側の登場人物も一癖アリの人ばかり。
私の予想は、友人を救う金欲しさの庭師ベン・マンローが、乳母を解雇されたローズを抱き込んでの誘拐…。そう簡単には行かないわなあ。まだ半分だし。
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ケイト モートンの他の作品も面白く、これで4作品目。「湖畔荘」も情景や人物の描写が細かくて、引き込まれます。上巻の途中から話が動き出した感で下巻が楽しみです。
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豪邸、庭、裕福な人々、戦争、明かされる過去、と、モートン節満載なのだけれど、ぐいぐい読んでしまう。モートンの本を読むといつも、子どもの頃「外国のおはなし」を夢中で読んだ気持ちを思い出す。
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情景・人物像ともに過剰?と思われるほどしっかり書き込まれています。視点が現在と過去・登場人物間で飛びまくりでどう収拾されるのかちょっと心配な状況で下巻へ突入です。
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一瞬で終わるような場面も、描写がたいへん細かくて、ストップモーション見てるようです。実に濃密な文章で、これこそまさに外国文学の真髄。ミステリーとして読める幸せを実感しました。読み解いていくのにパワーいりますが、物語が動き出しているので、パワー持続し、下巻に突入します。
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登場人物一覧などがないにもかかわらず、登場人物は多いし、時代が行ったり来たりするので、最初は読みにくい。上巻の半分くらいまでは苦労するだろうが、慣れてくると裏に潜む真相が見え隠れして楽しくなってくる。とにかく最初を我慢して丁寧に登場人物を押さえられれば、この作品に勝ったもの同然。ただし、下巻では上巻で読者(私だけ?)が推理した真相を覆す真相になりそうで、どう展開していくか、とにかく心を踊らせながら次に進む。
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70年前の乳幼児失踪事件の真相に迫るミステリー。
モートン節全開で、時間や視点のパッチワークで読者を翻弄しつつ全体像を浮かび上がらせる腕はさすがです。
物語の構成は、1910年代からの乳幼児の母のパート、1930年前半の事件パート、2003年の現代パートからなっており、現代パートは探偵役の女刑事と失踪した乳幼児の次姉の視点で真相究明されていきます。
いつものように、前半は時代感覚や登場人物の関係や事件内容を把握するのに手間取りましたが、後半から一気に盛り上がりました。
しかも、上巻のラストのすべてをひっくり返す長姉のセリフで引きになるとは・・・。
思わず下巻に飛びつきました。
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ものすごくつまらない。
つまらな過ぎて頑張って読み進めたら、上巻最後の3ページで、突然面白くなってきた
それまでは地獄。つまらないなんてもんじゃなかった
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はじめの100ページがなかなか進まず。
1933年と70年後の2003年が実に細かく往還し、もはやお手上げ?と思いながらも読み進めると、もう目が離せません!
下巻が楽しみ。
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1910年代、1930年代、2000年代を行き来する。風光明媚なコーンウォールそしてロンドンの間で物語は進む。70年ほど昔、コーンウォールのエダヴェイン家のミッドサマー・パーティの夜に息子のセオドアが行方不明になって、警察の懸命の捜索にも関わらず迷宮入りとなってしまっていた。この謎を謹慎中でコーンウォールの祖父の家に帰っていたロンドン警視庁の女性刑事のスパロが未解決事件と知って興味を覚える。そしてエダヴェイン家の次女であり、高名なミステリー作家になっていたアリスも謎を解きたいと思っていた。