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紙の本

弟であろうとした主人公と求められることを許容したヒロイン達

2017/11/23 20:38

1人中、1人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。

投稿者:DSK - この投稿者のレビュー一覧を見る

家庭環境が複雑である。姉の【摩耶】26歳は前妻の娘。妹の【花蓮】19歳は後妻【弥生】38歳の娘。摩耶から見れば義理の母娘にして義理の姉妹である。これに花蓮と僅かの差で弟となる同年の主人公が養子として加わる。姉妹と言うより長姉と次姉なのだが、訳あって引き取られた主人公は誰とも血縁がない。家族を構成しながら血の繋がりは最小限である。

ここまで血縁なき家族を設定したのは、相姦の禁忌を程良く盛り込みつつ血縁はないことで生じる微妙な距離感を描きたかったものと推測する。血縁なきが故に一層弟であろうと努めた主人公。血縁なきが故に男女の仲も厭わないヒロイン。血縁なき家族が男女の感覚の違いを浮き彫りにしながら、その狭間に潜む誘惑と葛藤を踏まえて描かれた相姦の物語と言える。

最年少の主人公が弟として家族を守ろうとするのは、路頭に迷うところを助けてもらった亡父の遺言である。しかし、美貌の女性陣は気になる存在。異性との意識が働く。これが常につき纏い、苦悩を深めた主人公は大学への入学を機に家を離れ、独り暮らしを始めてしまう。物語は久方振りの帰郷から始まるが、その後は主人公の独り暮らしという選択を基に進んでいく。その理由を、苦悩を、ヒロイン達が徐々に知るからである。

弥生もまた後妻にして義母につき、懸命に母を務めようとしている。だからこそ主人公の苦悩に気づけなかったことが後悔となる。しかし、そこまでの想いならば女として叶えてあげようと考えるのは未亡人の空閨もさることながら、母子と男女の狭間に穿たれた楔でもあったのかもしれない。主人公の長大なムスコに劣情を覚えてしまうのは官能小説のお約束ながら、母の慈愛と女の愉悦を綯い交ぜにした交合が披露されている。主人公の積年の想いが成就する瞬間でもある。

普段は怜悧なキャリアウーマン然としながら家ではラフな姿を見せる摩耶の振る舞いは秀逸な伏線だったが、主人公の長年の苦悩は同時に血縁なき姉の長年の恋慕の蓄積でもあった。その想いが明後日の方向に傾いていたのは何だかちょっぴりこじらせているようにも写ったが、これにより特技を身につけていた摩耶には驚きの秘密が隠されていた。飄々としながらもキャリア持ちらしい上段な態度に秘められていた可憐さはなかなかのギャップである。

長年の恋慕の蓄積は花蓮も同じである。勝気な高校時代から女性らしい装いを身につけた大学時代を経て、最終的には百合方面にも開眼する花蓮は時の変化を最も感じさせる存在である。自分が一番愛していたと自負する主人公がいつの間にか母や姉と関係しており、気がついたら置いてけぼりという憤慨から正直になる可愛らしさへと繋がっている。この頃には経験を積んだ主人公のリードによって破瓜を迎えるのも自然だった。

ヒロインの誰もが主人公を家族と思いながら男として想っている。故に主人公の苦悩を後悔し、贖罪を求め、同時に積年の想いを伝える。家族内に生じた男女の情を炙り出すが故に生々しさが滲み出ている。しかしながら、序盤に敷いた伏線を紆余曲折という形で回収しながら結ばれていく良さもあった。

惜しむらくはヒロインが順番に登場する流れだったので、出番を終えると結末まで存在感が薄れてしまうことか。また、時の流れによっていつしか主従のような関係が形成され、気がついたらご主人様のごとき主人公になっていたのは作者のカラーとして盛り込んでおきたかったところかもしれないが、そのエピローグには唐突感もあったので、本作においては別の幕引きを模索しても良かったかもしれない。

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