紙の本
モンス・カッレントフトの新作
2018/05/22 17:45
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:tolk - この投稿者のレビュー一覧を見る
モーリン・フォシュ シリーズからモンス・カッレントフトのミステリを読んでいますが、
今作は映画を見ているようでした。
ザックが問題を抱えていること、スウェーデン社会の影の部分が描かれている。
スウェーデンの社会情勢がわかることは、とても興味深いです。
投稿元:
レビューを見る
読みながら、コージーミステリを思い出していた。
30前後の女性が、
(コージーのお約束の年齢だ。)
色々あったけれど、
(なるほど、色々あったんだ。でもその過去、ちょっと盛ってない?)
今は、こんな素敵なお店をやっています♡
(素敵なのは認めるけれど、その店は規模が大きすぎない?)
優秀で個性あふれるスタッフに恵まれて、
(優秀と個性は認めるけど、人件費は大丈夫?)
友達にもお客にも近所の人にも恵まれて、
(さあ、そろそろ名前が覚えられなくなってきたぞ。)
家族とはちょっとありつつも仲良くやっています。
(降参、覚えられない。)
そんな中、殺人事件がおこっちゃって、もうたいへん! (やっと! と言うべき? この上さらに! と言うべき? )
シリーズの1巻目というは、どうしても人物の紹介、設定の説明をしなければならない。
それを自然に面白くというのは簡単ではない。手練れの技がいる。
それがわかっているから、私は少々苦しいなと思っていても、1巻目を読んでみる。
上記のようなぎこちなさがあっても、それ以上に人物や話に魅力があればいいのだ。
ならば、私はその作品を読んでよかったと思うし、2巻目からも読んでいく。
この『刑事ザック』は、どうだろう?
主人公は27歳、破滅型の美形だ。
(見た目のよい主役はお約束だ。)
辛い幼少期成長期をおくってきたせいか、
(親に問題を抱え、経済的に苦しく、友人にも問題がetc.etc.etc...って、ありすぎないか?)
やっかみが多く、情緒不安定で、健康管理もできない。
(不健康なのは北欧の刑事のお約束だが、そろそろ不穏になってきた。)
優秀で人並みはずれた仕事をするという設定らしいが、その片鱗さえ覗えない。
(なんだそりゃ!)
仕事に集中できず、しょっちゅうトラウマや思い出や悪友のことに思いをはせている。
(仕事しろよ!)
立派だと認められるのは、一つ、欲情だ。
(わーお!)
主役は無敵でモテて、
恋人はやたらエロく、
親友はやけにワルい。
青少年の夢のようだ。
悪役は金持ちで傲慢。
あるいは金持ちでチャラい。
やたらマッチョで人相が悪い。
テンプレートどおりで、不出来なマンガを思わせる。
個性豊かすぎる脇役を集めているが、
もはや特殊能力の域の人物も居て、
無駄にヒーローを集合させた映画のようだ。
主人公に協調性というものがないので、チームワークの妙もない。
たまにのぞく、登場人物の(あるいは作者の)社会的政治的な意見は、薄っぺらくて青臭い。
青臭くて、愚かで、行動がてんでばらばらの、下半身だけは達者な主人公に、私はさっぱり魅力を感じない。
脇役のほうがよほど魅力があるので、この誰かを主役にして、ザックなしで描いたほうが格段に面白くなりそうだ。
とはいうものの、まったくつまらないわけではなかった。
それこそ脇役それぞれのエピソードには、心惹かれるものもあった。
スウェーデンに数多いる「移民」の、ひとくくりに語れないそれぞれの背景に興味深いものがある。
まるで若書きのような、こなれない印象の理由は、作者二人のパートナーシップがぎこちないからか、あるいはなどと考えつつ読んでいく時間は楽しかった。
では、このシリーズの続刊が出たらどうするかと問われれば・・・・・・
いちおうチェックはする。
まずは立ち読みかなあと答えよう。
投稿元:
レビューを見る
ザックがまだ五歳のころ、刑事だった母が何者かに殺害された。心に深い傷を負ったザックは誓う。刑事になって、いつか母を殺した犯人を捕えると…二十七歳になったザックは腕利き刑事となり、ストックホルム警察の特捜班に抜擢された。だが、難事件を追う日々の裏で、彼の苦悩は続いていた。そんなある夜、タイ人の売春婦が四人、自分たちの住む部屋で無残にも射殺される。それは稀に見る残忍な事件の発端に過ぎなかった。
ノルウェーの次はスウェーデンの刑事小説。下巻に続く。
投稿元:
レビューを見る
日本の刑事小説やアクション小説は、ハードボイルドからバイオレンスにいつしか変ってきたようにうっすら思っている。ハードボイルドの流れは断ち切れてしまい、小説が劇画的傾向を強めているような小説読者としての危機感を感じている。
海外小説はどうなのか。世界にも、日本と同様の傾向はもともとなかったわけではない。むしろ銃器を合法化している国や兵隊上がりの作家などは、装弾した銃を身に着けて歩く文化が当たり前のことのようで、それらを非合法に用いる主人公像だって特に珍しいことではなかったように思う。それでも劇画化したように、空白の多いページ、行替えの多いパラグラフが近年目立ってきて、とても読みやすいアクション劇画小説のような傾向にすら翻訳小説界も変容し始めていることを感じざるを得ない。
本書は、そうした行替えを多用する散文詩的傾向の強い小説である。最近、北欧小説の若手作家たちの間で、この傾向が強まったように思える。アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリの『熊と踊れ』はそうした、いわゆる読みやすくテンポの良いリズムに終始していた。
ドン・ウィンズロウの『野蛮な奴ら』などにも見られるこのスピーディでテンポの良い、まさしく音楽的なとでも言いたくなるほどに早読みしやすい小説は、その行間の多さゆえに、実は行間で語るべき主題の質がより問われる高難度作品であるように思う。
本書は、そうした高難度な技術に挑んでいるネオ・ミステリの流れなのかな、と第一に感じた。ザックという若手の刑事の個性に焦点を当て、この刑事の未熟で不完全な部分を前面に出しつつ捜査面での刑事的執念や野生的な勘については一目置いている。刑事としての劇画のようなラディカルさ、斬新さを表に出しながら、今までにない若手刑事としての才能により事件を断ち割ってみせてゆく。その視点、断面、切り口とそれらの語り口、すべてにおいて器用な文体による魔法を見せてゆく。
何度の高い表現される内容については、粗削りだが硬派なテーマを固めてきたという印象も強い。国際的背景まで含めた移民問題については深い。今まさにTVニュースを席巻しているクルド族問題や、東ヨーロッパのグルジア、ラトビア、リトアニアのソ連時代からの迫害の歴史と、彼らが移民として脱出した先(ここではまさにスウェーデン国内)での差別とヘイト犯罪、人身売買組織、麻薬組織などなど、日本ではあまりお目にかからない規模や浸透度での硬派でリアルタイムな社会問題の数々。若い刑事ザックが目の前にして、今まさに戦わねばならない犯罪の暗黒性は本シリーズの今後も焦点となってゆくだろう。
ザックを固めるチームの個性も強く、それぞれに出自や障害、民族的理由等々により差別に曝される側に属する捜査官たち、そうでない捜査官たち、ザックの隣人、友人、過去の関係者たち、そしてザックの過去そのもの。どれをとっても、これからザックが挑もうとするヘラクレスの12の難業の残り11に向けて予め決められた駒の配置であるように思える。そう、本シリーズは12作を予定して書き始められた新シリーズである。
バイオレンス度が強いのと、ザックの無鉄砲ぶりなどに非現実的肌触りを覚えはするものの、浮上してくるスウェーデンと国際情勢へのアンテナを高く張り巡らせた貪欲な作家たちの姿勢に注目してみたい新シリーズの、これは狼煙のように目立って見える第一作である。
投稿元:
レビューを見る
スウェーデンの作品にしては展開が早く派手。ザックが大暴れ!特捜班の同僚たちのキャラもバラエティに富んでいてオモシロイ。