紙の本
八甲田山消された真実
2019/11/22 18:36
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映画とは異なり、一軍人の感情から端を発した行軍であることが記されている。行軍が本筋から脱線し自分の身の保身を確保するために練られ、そのために学科卒の将校が犠牲になったことは初耳である。生き延びた軍人の証言が事細かに記されており、当時の状況が頭に浮かぶ。ただ、強いていえば挿絵が少ないこと、著者の感情移入があるのが評価を下げる。
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映画「八甲田山死の彷徨」を見た人なら、徳島大尉に憧れたことだろう。高倉健演じる徳島は冷静沈着、用意周到で、寡黙ながら思いやりを感じさせた。ところがどっこい資料を丹念に調べると全く正反対だったりする。この企画そのものが福島氏(映画では徳島)の出世欲と虚栄によって成立した側面もあるようだ。ただ確かに冷静沈着で用意周到ではある。案内に立った地元の村人への扱いが苛烈極まることが映画との決定的な相違で、村人たちは後遺症に苦しめられ、悲惨な余生を送った者もいたという。もう一方の神成大尉たちのダメさは言うに及ばず。著者は現役自衛官時代に八甲田山の雪中行軍を実体験しているのでその経験も活かした叙述には信頼を置けるように思う。資料も丹念に読み込み、映画や新田次郎の小説との相違を次々指摘する。幻滅すること請け合いだが、興味持った人は読むべき。それいにしても現在も青森第5連隊や弘前31連隊が競うように雪中行軍をしているとは面白い。
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こういう解釈もあるというところが、妥当かと。
映画「八甲田山」やその原作小説が史実のように思われるのに憤慨するのはわかりますが、キレてどうすると。
5連隊長の捜索の遅れですが、二次遭難を考えたのかもしれません。ただ、200人遭難して、1人の救助に13人と仮定すると、連隊規模を越えるので、さっさと師団案件にするべきではありました。
凍傷対策における情報の共有がなされていないのは、組織としてどうなのかと。
証言、当時の新聞、公式資料を基にしていますが、それらの信頼性は低いと思います。
助かった人の証言も、低体温症で空腹の状態で日時、場所、誰が何を言ったなんかを憶えていられるものでしょうか。
文中に"大本営発表"とあったのですが、事件当時に大本営は無かったので、慣用表現として使ったと思われますが、紛らわしいです。
地図無しで行軍したとのことですが、露営場所をプロットした地図の出典はどこなのでしょう。
専門用語に説明が不足しています。
5連隊とか31連隊の連隊番号は通番なので、陸軍では一意に決まります。つまり、第1師団とか他の師団には5連隊という連隊は無いのです。
小銃の残置にこだわるのは、30年式は知りませんが、38年式だと菊の紋が刻印されていて、要は天皇から預かった体の扱いなのかと。それだけ重要なものなのです。
衛戍病院と陸軍病院(旧衛戍病院)を混在させるのは紛らわしいし、衛戍病院なんて普通は知らないかと。
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事故報告の隠蔽や捏造は現在でもよくあること…。
また第五聯隊が遭難中に関わらず、転出将校の送別会を優先というのも、問題が起きてもゴルフや会食を継続する現政府に通じるものがあります。助かった第五聯隊の殆どが下士官であり、一般兵卒でなかったところもまた、今も昔も犠牲になるのは下の者なのだな、という印象です。
計画は師団長からの命令ではなく、福島大尉の考えであったこと、それに対抗した津川聯隊長が第五聯隊第二大隊に命じたこと、というのが「八甲田山死の彷徨」と大きく解釈の異なる点と思います。小説では第三十一聯隊の徳島大尉(福島大尉)が人格者であり、計画に際しても少数精鋭を選び抜いた印象でしたが、実際には見習士官と下士官による教育隊であり、単に人数がそれだけしかいなかった、と。
「八甲田山死の彷徨」は小説としてとてもよく出来ているので、ついそちらを真実のように思い込んでしまいがちですが、こういった当時の新聞や、資料を元にしたノンフィクションを一緒に読むのも面白いなと思いました。まあ作者は元自衛官で青森第五普通科連隊勤務だったとのことなので、こちらはこちらで第三十一聯隊を非難しすぎな向きもありますが…。
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著者は元自衛官。八甲田山の遭難事故については、新田次郎の本や映画を見たことがあり、多くの人達はそれが真実だとして受け止めているが、様々な資料生存者の証言で検証してみると、多くの点で間違いがあるらしい。著者は、青森の自衛官時代の経験をもとに丁寧に当時の状況を考察しており、大変面白く読めた。映画では、有能だが不遇な神田大尉と統率力がある徳島大尉という架空の人物として主人公が設定され、二人の指揮官の物語とされていた。モデルとなった実際の二人は、著者によると映画とは性格がかなり違っていたようだ。また映画では分かりにくかった装備の問題(ソリ等)、情報収集の問題(目的地の情報が不明、地図が大雑把)、段取り不足、行軍兵士たちのモチベーション、地形天候など状況を詳細に考察しており、雪中行軍の難しさがよく分かる。でも本質としては、結局当時の時代背景(立身出世、隠蔽体質、リスク対応無視)がこの事件の遠因となったことは間違いない。そして日本軍の体質は昭和の大戦まで引き継がれた。
この本で事件の詳細を知ってしまうと、映画の感動が薄れてしまった。徳島大尉役の高倉健の演技に涙するほど感動していたのに、、。八甲田山の悲劇について知りたければ、まず映画を見てから本を読んだ方が良いと思う。(先に読むと、映画の感動が薄れてしまうと思う)
この本は冷静な文章や引用文でまとめられているが、時々著者が感情的になる部分があった。自衛官時代に、似たような体験があったのかもと想像してしまった。
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2019年2月11日読了。
青森県生まれの元陸上自衛官が著者。
青森にも勤務経験があり、史実を調べ直すことに。
八甲田山の遭難は新田次郎の小説が有名だが、史実とは異なるところがある。
文中に、旧字体が多く読みづらい。
賛否はあるが、現代文に直してもらった方が多くの方が、読むことができると感じる。
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小説はあくまでも創作物であり、事実ではない。
小説にはヒーローが付き物だが、現実にはなかなか出現しないものである。
八甲田山の遭難は、冬山に物見遊山感覚で挑み、やるべきことをやらず、やってはいけないことをやった結果の最悪の結果。
そして残念ながら、偉い人が要らぬ口出しをして現場を引っ掻き回すのも、問題が発生した時に隠蔽しようとするのは、今も多くの組織で起こっている。
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新田次郎の映画を小学校の頃映画館で観て子供心に三国連太郎氏の連隊長の身勝手さに腹が立った思い出があったが、実際は連隊どうしの対抗心や三一連隊の福島大尉の功名心、明治陸軍の身分制度等の影響も大きかったのだと思います。大量の資料と陸上自衛隊の経験が反映されて読み応えのあるドキュメンタリーです。
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事件後に陸軍大臣等に出された報告書を検証しつつ、事件の全体像を描いている。
基本的に事前の準備がほとんどできていない。現地踏査もしていない。
露営も非常に安易に考えられている。
事件報告も、聯隊長等が非難されないよう都合良く事実をねつ造している。
ただ、遭難して寒さのため責任行動がとれず、十分に思考されたとは思えない行動を辛辣に非難しているのは酷ではないか。
全体的に聯隊長を初めとした幹部に対しての批判は、やや感情的に過ぎる気もしないでもない。
生存してほぼ無傷の倉石大尉らについて、何故なのかと思っていたが、それは服装に注意が払われていたから。それは装備が自弁の将校だからなせること。さらに日清戦争で極寒の地で戦った経験が影響していたのだろう。
山口少佐は自殺でなく心臓発作なのね。
津川聯隊長への処分は非常に軽すぎるね。
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八甲田山遭難事件を知らない人だと難しいだろう。
しかし、元自衛官としての考察・評価は面白かった。
公表資料の齟齬から組織の責任回避を推測し、また本当はこうあるべきだという評価が良い。