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勉強のため購入。
医師による薬物治療が中心の精神科治療にあつて、かういつた立ち位置から治療関係といふものを見直すことは大切であると感じる。
薬は決して万能ではない。また、決して薬が効果をもたないといふことも同じくらいない。しかし、精神科が出会ふのは、ひとりの人格であり、またひとつのシステムを営む組織なり家族である。人格も家族も、決して目に見えない、触れることのできない歴史や文化、習慣といふ文脈の中で形成された存在だ。薬がそのすべてに効くといふのは困難を極める。人格といふものを捉へることもまた同じだ。
この障害と呼ばれるものを考へる上で大切なことは、どうやら対人関係においてかなり敏感であり、その敏感さを何とかしやうと試みる時の強さであると思ふ。
集団で生きていくことが前提の人間の生活は、誰かと寄り添い、歩んでいくことは避けられない。人間と全く接しない生活といふことはできない。それこそ、自分以外の人間がすべていなくなるよりほかない。この特徴を抱へるひとたちの大変さは、誰かとともにゐることだと感じた。
この敏感さといふものは親から子へと受け継がれる。それが遺伝子か、さういつた敏感さを培ふ環境かはともかくも、ある程度連続性がみられる。いずれにしても、時間の中でできあがつてしまふ、安定した特徴のやうだ。
安定した特徴である以上、薬ができることは限られてくる。いかにこの特徴を知りながら、本人が抱へ、そして周囲のほかの人間と折り合いをつけていくかが時間の中で大切だ。たどる経過を知ることは、かうした特徴をもつひとと接する考えの始まりとなる。
また、ハンドブックではあるが、ただの情報の提供ではなく、ケース記録を通じて、どのやうな判断を行ふかといふ著者の接する上での思考に触れることができる。それは、ケース記録の途中で立ち止まり、この時どう考へるかといふ、生きたケース検討である。心理学や精神を取り扱ふ学術書のかうした書き方は、学ぶ上で大変貴重であると同時に知恵として生きる。
本書は治療ガイドブックと訳されているが、これはこの特徴を治療するものとしてしまつてゐる。原題は「psychiatric management」だ。著者の立ち位置は、医師であるかもしれないが、あくまで治療ではなく、マネジメントである。裏返せば、治る-治らないの軸の中でこの特徴を捉へることそれ自体が、逆効果の関係性になり得ると思ふ。