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いつか、そう遠くはない未来に起こるかもしれない世界的な戦争。その時、招集され前線で誰かを殺すために銃を撃つのはいつも平凡な暮らしの中で毎日を過ごしてきた若者たち。
なぜ彼らは戦いに行くのか。誰のために戦いなのか。その戦いの後に、自分の大切な人は幸せな暮らしが送れるのか。
何一つ答えが出せないまま、淡々とその日を迎える。
大声で叫ぶことも、誰かに怒りをぶつけることも、その恐怖から逃げ出すこともせず、彼らはその日を迎える。
淡々とつづられるその大切な一日を、私たちもいつか同じように迎えるのだろうか。
愛する人を残して、同じように愛する人を残して向かい合う誰かに銃を向けるための、その日。
この静かで悲しい物語は、静かだからこそ、大きな怒りをはらんでいる。
間違えてはいけない。間違える前に気づかねばならない。平凡な毎日を過ごす若者に、悲しい笑顔で別れを告げさせないために。
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何が素晴らしいって、タイトルだ。
内容と合わさって、「反戦」になるという仕掛け。
だから、内容としては、声高に反戦を謳うものではない。
静かに、戦争が忍び寄る平凡な人々の別れを描く。
もし今、世界大戦が起こったら、こうなるのだろう。
短編なのに、全くそうは思えない。一つ一つが、十分な読み応え。そういえば、時代物では短編が多かった。その雰囲気が出ている。
どれも良いけれど、特に「万年筆と学友」「偉大なホセ」が印象深かった。
「反戦小説」と銘打っていることには驚いた。
こういう政治主張的なことはしないかと思っていた。
今、これを書かなければならなかった、そういう世の中だということなのだろうか。
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アメリカ、スペイン、フィリピン、インド、フランス、中国・・・と様々な国の市井の人々の生活を描いた12の物語は、表紙に小さく"twelve antiwar stories"とあるように、反戦小説集である。
世界のどこかで暮らしている普通の人々生活が静かに描かれる。ある者は移民として成功し、ある者は貧困のなかで、またある者は生きる目的を見いだせないうちに、それでも日々を平穏にささやかな優しさや愛のうちに過ごしている。その生活を静かに覆う戦争の影。
その戦争は近未来の大量殺戮兵器が使用される戦争。どこかで誰かが始めた、勝者でさえ何も得るもののない戦争。
出征命令を受け戦場に赴く主人公達には、無論戦う目的もない。
ーー戦う目的がないなら、この街を彼らをボス(飼い猫)を守るために戦おうと彼は思った。他に人殺しになる自分を許せるような理由はなかったーー
昨日と同じ日が続くと思っていた日常が、ある日突然奪われ、失われる恐怖が背筋をヒンヤリとさせる。
戦争に行く者、残される者誰もが再会が叶わないことを思いながら別れを告げるラストシーンが切なくてやるせない。
全てを読み終わった後、「ある日失わずにすむもの」というタイトルがしみじみと胸にこたえる。
どんな激しい過去の戦争を描いた小説より、身近に怖さを感じる作品でした。
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初読み作家さん。
夫に薦められて読んだ作品。
戦争も災害も、普通の暮らしをしている日常にある日突然やってくる。
災害は避けようもないが戦争だけは避けなければならない。
平成の終わりに読むにふさわしい本だった。
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反戦の短編が12編。みんなこれから戦地に赴く話で、帰って来る者が描かれることのない話ばかりだった。
ポルトガル、日本、アメリカ、フランス、そして最後は中国なのかな。多分この国が戦争を始めたように描かれているのだけれど、頼むからこんな世界にならないでくれと痛切に思う。
最後の二編が特に、胸がジーンとなった。十三分という話、最後に飼っている猫に別れを告げる話なのだが、何でかな、これが一番泣きそうになった。