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トランプの精神病理について、米国の専門家(精神病理が主であるがそれに限らない)が各自の視点で執筆した論考をまとめた本書は、そもそもの目的にあった通り、トランプの病理を告発すると同時に「もし米国大統領が精神的に問題を抱えた人物だったら(しかも、その人物は常に核ミサイル発射のボタンに手を掛けている)」という問いに対する、答えだ。専門家は研究分野に籠ってひたすらに学問に没頭していればいいわけではない。政治学が専門の研究者は、社会が危機に陥っている時、それでも椅子から腰を上げず、政治に働きかけもせず、研究を続けることが許されるのか。
登場する執筆者の共通意見は、
・トランプはいかれている。大統領を任せることは、米国(や世界)にとって危険である。
・選出された大統領候補には、適格がどうかの検査をすべきだ。
・精神病理の専門家は社会が危機に陥る事態に直面した時、その危機を除去するために立ち上がるべきだ。
ということである。キューバ危機時の大統領が彼だったなら、世界は今どうなっていたのか(収録された一論考では当時のケネディの姿勢も描かれる)。
翻って日本に思い至る。嘘をつく(隠す)、自分勝手、相手を見下す。本書のキーとなるナルシシズムと共感性の欠如はどうだろう。家族との関係性(父親へのコンプレックス、兄との距離感)にも共通点があるのが面白い。そして、彼も自分の成果に甚くご執心だ(本書にたびたび出てくる通り、それは自分自身の「欠落」の裏返しなのだけど)。