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女性たちの、情熱が、狂気が、深い湖の底で静かに漂っているような印象をいつも持ちます。読むたびに何度もどういうことだろうそしてどうなったのだろう、という疑問がやってくるのですが、その謎を探りたいという気持ちより、ひとつひとつの物語に登場する女性たちの心の底に触れたような、そして同じような感情を自分の中に見つけたような思いになる。薄暗くて孤独で、でもたまに日が射すような、いつも不思議な読後感を味わうことのできる皆川先生のすてきな作品群です。
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一枚のイラストをもとに書かれたたった一ページの掌編。冒頭に配された表題作が私の息を止めた。2編目のお話ですでに私は夢と現のはざまにいる。なんて素敵なひと時。最後の一文にまで細やかに気を配り、視点が変わると物語の見え方や真実までも変えてしまう。人のしぐさや気持ちの描写が涙が出るほど美しく、少しホラーだったり幻想だったりする置いてけぼり感がさらに私を虜にする。勿体なくて少しずつ読み進めた数日。本当に幸せな時間だった。どれも色が違って素晴らしいが、特にお気に入りは「夜、囚われて...」「笛塚」「新吉、おまえの」
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すごいなあ。幻想小説を書ける人の感受性ってどうなってるんだろう……設定が明らかにされずに、何のことかよく分からないお話も多くて、それでも独特の雰囲気は保たれていて、実際に目にしたら気持ち悪かったり怖かったりする風景も、この文章で綴られると綺麗だと思ってしまう。でも凄みは決して消えていない。そのまま。
表題作『夜のリフレーン』と、『青い扉』が特に好きだった。皆川先生のミステリ系のお話も読みたいな。
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装丁に惹かれて手に取ってみた。
白地にエレガントな蔦模様があしらわれ、差し色は気品のあるペールブルー。バレンタインにデパ地下で売られているチョコレートみたいな装丁だ。一見して老舗の品物とわかる高級感のあるパッケージ。見た目は満点、肝心のお味の方は…と紅茶を片手にページをめくってみる。
皆川博子が1978〜2016年に雑誌に発表した掌編および短編のうち、2018年時点で単行本未収録だった24編が収録されている。いちおう幻想小説縛りではあるが、ミステリ風味あり、近未来SF風味あり、耽美派風味もあれば無頼派風味もあって、一冊で色んな味が楽しめるアソートだ。
以下、特に印象に残った作品。
◉夜のリフレーン(怖っ)
◉スペシャル・メニュー(せめてプラセンタ止まりにして…)
◉恋人形(憧れとは魂がさまよい出るという意味だとか)
◉踊り場(階段箪笥の上には…)
◉七谷屋形(眼のない雛人形の怪)
◉赤い鞋("貴女のために"は要注意)
◉新吉、おまえの(白雪姫の母は実母だったといいますね)
◉そ、そら、そらそら、兎のダンス(ラブリー♡)
◉そこは、わたしの人形の(鳥居の先はどこに通じていたのだろう)
…うん、どれも美味しい。
皆川博子since1930、ブランド名は伊達じゃなかった。ただ中身はミルクチョコじゃなくて、カカオ80%のビターチョコ、それにウィスキーのたっぷり入ったボンボンといった風情。「子供の食べるものじゃなくてよ」という作者の声が聞こえてくる気がした。
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随分と久しぶりな気がする皆川さんの短編集。長編はなんぼでもストックがあるんだけど、横文字の名前に手が伸びにくい。
集められた短編は主に幻想的なもの。70年代から10年代と、年代の幅が大変なことになっている。新しいものほど、より幻想的―個人的には理解できないもの増えた―だ。
『スペシャル・メニュー』『妖瞳』『七谷屋方』が特によい。
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どのお話の地下でもマグマのような情念がふつふつと、静かに湧いている。ふとした拍子に窯の蓋が開いて、瘴気が足元を立ち昇ってくる感じがする。読み進めていくと急に引き倒されてぐるりと視界が回るような、ストーリーの美しいからくりがある。
読み始めればすぐに濃密な世界に引き込まれていく強い強い引力を感じて、皆川さんの本は本当にすごいな、と思う。
私が特に好きなのは「妖瞳」。
ひとの愛情が妄執へと、夕暮れが闇に沈むように染まっていく、そのあわいで苦しみもがいている人たち。歌舞伎の筋書きと、祭りの長い伝統の中で現れては消えていった青年と少年との思いと、光次郎の抱えるいきさつとがオーバーラップして、海のみぎわでなにかが現れる。
「笛塚」や「青い扉」もそうだけど、一種の狂気の中にあってようやく当人たちは救われていく、その儚く光差す感じがとても良い。
今のところ短編集しか読んでいないけど長編も読みたいし、とにかくもっとたくさん読みたくなる。皆川さんの本、少しずつ揃えたい。
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皆川さんの初期の頃から近年の作品まで集めた短編集。此処に収められた24編はどれも幻想的かつミステリアスで、ひとつひとつは短い作品であるのにまるで長編作品を読んだかのような深い充足感があります。現実の世界からいつの間にか非日常の世界へスライドし、紛れ込む。人形作家である中川多里さんとのコラボレーションもとても素敵。皆川さんの作品は夜が良く似合う。暗夜のヴェールのその向こうに、闇の奥に展開される物語達は月光を受けて時折、煌めいては姿を消す。手が届きそうで届かない幻想の方に揺曳する世界は見るものを蠱惑してやまない。装丁も美しい本。
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どのはなしもすぐに引き込まれてしまうところはさすが。
「赤い鞋」
纏足は良くない風習だ、という欧米人と、それを大切にしてきたひとたちとの埋められない溝。うーん難しい…精緻な刺繍をほどこした小さな赤い鞋が印象的。
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どの短編も秀逸、としか。ふわふわとした淡い幻想というよりも、薄闇の静けさの中にあるような雰囲気。それが皆川博子の幻想の世界の魅力だと勝手に思ってる。虹、陽射し、紡ぎ歌、恋人形のような毒気のある話もよかったし、島のような寂寥感でいっぱいになる話もよかった。妖瞳のような蠱惑的な人物が出てくる話や、少しコミカルなスペシャル・メニューも面白かった。こくのある文章だなとつくづく思う。