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昔読んだことがあると思っていたけど、全然知らない話だった。よくよく思い出してみたら同じ白髪鬼でも岡本綺堂のだった。
なんと言っても表紙の銅版画がカッコイイ!
ベックリンのペストみたい。
うちにある乱歩本のほとんどは春陽堂文庫だ。多賀新という方がどんな方か存じあげないが、乱歩の猟奇的な世界観を見事に表現している。
この表紙絵に従ってストーリーを解説すると、死神は墓場から蘇る主人公。鎌を持って、自分を地獄に突き落とした敵に復讐を企てる。乗ってる猛禽は鳶かな? 太平洋を正面にした地球の上で羽を広げている。皇国史観の戦前戦中は地球に乗った金鵄の記念碑なんか各地にあったみたいだから、主人公が小さいとはいえ大名家の出身という身分の高さと財力の象徴なのかも。皇族じゃないから違うでしょ、って言われたら、それもその通り。まぁ、そんじょそこらの死神じゃねえぞ、との箔付け程度で考えればいい。
復讐するにあたり、実家の財産はもう期待できない(死んだことになってるから)主人公は、支那の海賊の宝を手に入れる。だからこの猛禽の翼の下に広がるのは海。この表紙では白髪鬼のタイトルの下に隠れてしまっているが、自宅にある多賀新作品集で確認したら、小さくて不鮮明だが、左舷に櫂をニョキニョキ生やした古代エジプトの船みたいなものが描かれている。木の葉に擬態した昆虫が溺れているとは思えないので、たぶん海賊船。
翼に描かれた目はエジプトのホルスの目とは関係なく主人公の目。主人公は目で敵を追い込んでいくのでその象徴。
一見意味不明のような表紙だけど、ちゃんと考えて描かれている。素晴らしい。
(自分がこういうふうに解釈して楽しんだだけなので、もちろん正解ということではない)
ストーリーは他の作家の書いた作品の乱歩流焼き直しらしいけど、この陰湿さ、猟奇的嗜好、乱歩じゃなきゃ書けない。マジックランタン(幻燈機)を使って怖がらせるトリックは、今の感覚からだと笑えてしまうのだが、ラストの敵の狂態は本当に背筋が寒くなった。さすがは乱歩だ。