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古『ミライミライ』の登場人物であるDJ産土にミックスされた古川日出男小説の28作品が繋げられた一冊。
年代順でもなく主要な作品のいくつかも収録されていない、そして、ベストオブフルカワヒデオでもない。
だが、古川日出男作品でしかない。
DJがヴァイナルを、音が録音されたそれを楽器として、断片として使いながらリズムを刻むように、小説たちが、書かれた言葉が新しい文脈に、断片として使われることで、知っているのに知らない、知らないのに知っている一冊になっている。
例えば、ここに収録されていない『LOVE』『MUSIC』『ゴッドスター』『ドッグマザー』の東京湾岸と京都にしたそれらが連なる、震災によって描かれなかった五つ目の、おそらく天皇小説として書かれるはじだったそれはDJ産士がミックスしても片鱗しか見いだせない。
書かれたものしか、ミックスのために掘り起こされた単行本未収録作品しか使われない、書かれていないものは鳴らない。
鴉、犬、猫、狐、羆さまざまな動物たちが古川日出男作品には登場する。このミックス作品にも。だから、宮沢賢治が書こうとしたものもここにはある。
古川日出男版『ポータブル・フォークナー』であるこの作品は、同じ場所や登場人物たちが様々な作品にはほぼ出ないのにも関わらずに、異なる28作品、あるいはその断片たちが同じ視線によって、その世界に没入して書かれたことがはっきりとわかる。
境界線を行き来する、幻視したものたち、ミクロとマクロを縦横無尽に動くから、時間は引き伸ばされるし圧縮されることを知る。