紙の本
機密費外交
2021/11/13 15:47
0人中、0人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:雄ヤギ - この投稿者のレビュー一覧を見る
戦前日本において、機密費は本省などで監督する為に領収書などを取っておき、どのような行動をしていたか、なんのためにいくら必要なのかがわかるようになっていた。その大部分は敗戦によって焼却されてしまったが、中国で活動していた外交機密費の使途が一部残っており、そこから戦前の外交活動の一部が推測できる。
著者も書いている通り、これによって何か大きな発見があるわけではないが、少なくとも「機密費」という名前から大掛かりな陰謀を推測する陰謀史観の否定にはつながるのではないか。
投稿元:
レビューを見る
第1章 満州事変下の外交官
第2章 インテリジェンスと接待―ハルビン・上海・奉天
第3章 上海事変と松岡洋右
第4章 リットン調査団をめぐる接待外交
第5章 満州国の理想と現実
第6章 日中外交関係の修復をめざして
第7章 戦争への分岐点
第8章 戦争前夜
著者:井上寿一(1956-、東京都、政治学)
投稿元:
レビューを見る
機密費の内訳で最も多かったのが、対陸軍接待費という所にやるせなさを感じる。もっと他に使い道があるだろうと思いつつも、当時の陸軍の大きさというものを感じて慄然となる。
それと同時に現地居留民に引きずられる外務省と軍部の姿も見えてくる。現地における既得権益を守ろうとして、泥沼にはまっていく姿を。
投稿元:
レビューを見る
日中戦争前夜の、日中関係を巡る日本側の動きを機密費の使用状況から読み解く本書。
陸軍の中国におけるプレゼンスの大きさと、日中関係回復に奔走した外務官僚の動きが、読了後に頭に残った。
筆者は歴史学者として多くの本を世に出していて、それをライフワークの一つとしていることがあとがきでも読み取れる。そうであるからこそ、私のような門外漢にも本の主題がよりよく理解できるような仕掛けをもっと作ってほしかった。例えば登場人物の略歴を巻末にまとめてくれるとか。
投稿元:
レビューを見る
機密費というキャッチーなテーマにとらわれてか、資料も少ない中、接待費やコックの費用など冗長な内容が続く。5章、いきなり良くなる。機密費とはちょっと外れた感はあるが、「日中戦争はなぜ避けられなかったか」を書きたかったから5章で飛ばしてくれる。1935年、幣制改革で中国を立て直そうとしたリース・ロスの来日、日中大使館の設立、休戦協定。しかし親日派唐有任は暗殺され、彼は日本の行動により、親日派が中国政界で立場がなくなったことをなげいていた…。
日中戦争はなぜ避けられなかったかをメインテーマに機密費はサブテーマにすればもっとわかりやすい本になったのでは?1944年に破棄したと思った領収書があったとわかったこと、折しも公文書管理が問題になっている時節柄、どうしても機密費をタイトルにしたかったのだろうか。
投稿元:
レビューを見る
領収書が揃っているという点で機密でもなんでもないのだが、無味乾燥なカネの流れから歴史を推論するという挑戦的な試みに取り組んだ事は評価すべきである。が、結局は新しい発見があったというよりも、これまでの歴史解釈を裏付けるという展開になってしまい、大胆な仮説推論には至らなかったような。これは実証主義的アプローチがメインのアカデミズムの学者の限界なのかもしれない。歴史作家ならもっと面白い推論ができたのかもしれないが。