紙の本
拝金主義が行き着いた先
2021/06/23 14:28
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投稿者:ひさ - この投稿者のレビュー一覧を見る
拝金主義が行き着いた先は、資本主義の負の側面の強化であり、陰湿な搾取構造の深化だった。搾取する側は、今や一握りの資本家ではない。一般労働者も搾取する側に回っているという事実を本著では様々なデータを紐解いて解説している。正規と非正規の溝は広がり続け、アンダークラスという社会階層を生み出した。利権にまみれ、アンダークラスに手を差し伸べようとしない政治の責任はもちろんだが、私たち一人ひとりの心の中に寒々とした風景が広がっているのではないか。先の見えない不安から今の自分の立場を死守したいという願望が、この社会にアンダークラス層を生み出したのではないか。
「アンダークラス層がこのまま放置されるなら、日本社会は間違いなく危機的な状況を迎えるだろう」
「失業者・無業者をくわえれば就業可能人口の二割近くにも達する人々が、不安と苦痛に満ちた人生を送るような社会は明らかに病んだ社会であり、それ自体で社会は危機的な状態にあると言わねばならない。」
「アンダークラスの問題は、他人事ではない。なぜなら「新しい階級社会」の構造が今のままである以上、誰かがアンダークラスにならなければならないのであり、誰がアンダークラスに転落しても不思議ではないからである。いま私たちがそうなっていないのは、ただの偶然にすぎない。」
アンダークラスの問題は、どこか遠くの話ではなく、くらしと地続きの問題なのである。
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私の住む地域は他地域に比べかなり豊かだと感じる。この本に書かれた様な方をあまり見かけない。しかし仕事で日本国内を出張すると感じるものがある。目には見えにくいかも知れないが世代を超えて格差を固定させるのかも知れない現実があるとわか。
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多様性が生まれ格差が拡大した労働者階級の中から生まれた「アンダークラス」。
新書のボリュームゆえか元々のスコープゆえか、地方におけるアンダークラスの課題について掘り下げがない点は片手落ちに感じてしまった。
都市部のアンダークラスについては性別、年齢、学歴など様々な観点から詳細に切り取っていただけに惜しく感じる。
それにしてもこれは重大な社会課題で、誰しもがアンダークラスと隣合わせ。さらには失業・無業との距離も遠いわけではない。
個人個人の営みの重要性もさることながら、集団として我々がなすべきことは何なのか考えさせられる。
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なんとも気の重くなる本であるがもう直視せざるを得ない。
「アンダークラス」の現状と真実。身長や体重にまで差が出てきているとはまるで産業革命期のイギリスを彷彿させる。日本はここまで来たのかとため息が出た。
著者は最左派の社会学者だと常々注目していたが、精密なデータを駆使した「アンダークラス」分析は、もはや警鐘というよりも事実確認だ。誰の目にも見えるレベルになったということだろう。
本書では「処方箋」も提示されてはいるが、政策としての実行は極めて困難だろうと思えた。
社会学の本として本書を高く評価するが、同時に真実とは苦いものであるとも痛感した。
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読み終わってみて、普通。この類の内容のものが非常に多くなった最近の状況で、何か新しいものを付け加える難易度は確実に上がっている。そういうところからすると本書に新味はない。
本書のメッセージがあるとすれば、それは、現時点ではまだバラバラな状態にあるアンダークラスと分類される人たちを結集して、それは政治的な意味においてもそうであるが、他の恵まれたグループに立ち向かう力を発揮させることにあるということであろうか。ある種のアナーキーな、大正後期から昭和の初めにかけて一時期存在した無産勢力にも類似する、そういった新しいグループの組織化である。
革命を起こすのか、テロなのか、言いっぱなしの感がある本書には荷が重いだろう。
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一般的に日本は中流家庭が多く、その上下に
少しの特別な家庭が存在すると信じられて
きました。
しかし現実は違います。
下流よりもさらに貧困層と言われる人たちが
存在して、その数は増え続けているそうです。
この本では、それを裏付けるデータをいくつ
も提示して現実を突きつけます。
しかも、このままの状態が続くのは社会に
とっても非常に危険なことであることに
警鐘を鳴らします。なぜなら海外の例を
あげるまでもなく貧困層はテロの温床になる
からです。
一方で誰もがアンダークラス
に落ち込む可能性があることも示唆します。
現在の「新しい階級社会」の構造では、
誰がアンダークラスに転落してもおかしく
ないと言えるからです。
現在の社会政策に一石を投じる一冊です。
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アンダークラスを簡単に言うと、経済的に再生産が困難な所得階層のこと。心理的な困難から支持政党にも特徴がある。次世代に影響する観点で、アンダークラスの発生はよくない。
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日本社会を新しく階級分けしてその底辺にある階級がどのような人々で構成されているのかを書いている。
アンダークラスと名付けられている、パート主婦と専門家、年金受給者を除く非正規労働者はそのクラス内においてもいくつかのグループに分けることができるらしい。
労働階級といわれる人たちは、多くが不安定な雇用の中にいると思う。この本の中のアンダークラスという部類に含まれる可能性がほとんどの人にあるように思う。過去にそうであった人もいると思う。特に女性は現代の雇用システム内において脆弱な立場にあり、書かれてもいるように子どものころの家庭環境などからは決定づけられない困難がほぼすべての人にある。
そうかんがえると、このグループを一つの階級としてとらえることができるのかは少し疑問ではある。より流動的な人々からなるある時点での部類としてこのようなカテゴリーを認識する、ということはできると思う。
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togetter: https://togetter.com/li/1345683
資本主義社会の下層階級と言えば労働者階級と決まっていた。しかし不況下で全体の所得水準が低下しているにも関わらず、労働者階級の中の正規雇用者だけは所得が上昇している。非正規雇用者は取り残され、底辺に沈んでいった。新しい下層階級アンダークラスの誕生である。
アンダークラスとは私の造語ではない。階級研究や貧困研究ではかなり以前から使われてきた言葉であり、永続的で脱出困難な貧困状態に置かれた人々を指す。日本では格差の拡大に伴い今や就業人口の15%をも占め、階級構造の重要な要素となるに至ったのである。
社会学者の吉川徹は59歳以下の現役世代を「①大卒か非大卒か」「②生まれた年が1975年以前か以後か」「③男性か女性か」に着目し、2x2x2=8種類のグループに分けると、大卒壮年男性を頂点、非大卒若年男性を底辺とする厳しい序列構造があることを明らかにした。
リクルート社がフリーターという言葉を使い始めたのは1987年である。生みの親である「フロム・エー」編集長・道下裕史は「人生を真剣に考えているからこそ就職しない」「夢の実現のために自由な時間を確保しようと定職に就かず頑張っている人」という意味を込めたと話す。
リクルート社は同年『フリーター』という映画まで制作し、「近頃、社会を自由型で泳ぐ奴らがいる」「バイトも完全就職も超えた今一番新しい究極の仕事人」と華やかで楽観的なイメージを振りまいた。この時期に非正規労働者となった若者をフリーター第一世代と呼べる。
経済学者ミュルダールによれば、技術革新が進み、また高等教育が普及した現代において、労働需要は教育と訓練を受けた人々ばかりに向けられ、そうでない人は失業もしくは賃金が極めて低い不完全雇用者に留まるようになった。彼はこれをアンダークラスと呼び始めた。
ミュルダールは失業や不完全雇用が長引く結果、彼らが無気力や退廃的になる傾向を示すに違いない、と危機感を抱く。アンダークラスには発言力が無く、組織されることもない。健全な民主主義社会ならば特権を持たない人々からの抗議運動があるはずなのに、である。
1960年代から「アンダークラス」という言葉は、ミュルダールによる経済的な側面に注目した定義から、徐々に「自らの嘆かわしい行動によって貧困生活を送るどうしようもない人たち」のようなレッテルに変遷していき、レーガン政権時代の福祉削減の根拠として利用された。
ガルブレイスによれば、現代の米国は「満ち足りた多数派」が支配する社会である。彼らの生活を支えているのは家事使用人、道路清掃、ゴミ回収、守衛などの退屈で屈辱的な仕事を担う貧困層である。ガルブレイスはこのことを「機能的に不可欠なアンダークラス」と呼んだ。
アンダークラス男性の現状は絶望的だが、彼らは日本の現状を変える社会勢力の中心になりうる可能性を秘めている。日本の資本家階級や新中間階級は格差を認めたがらない一方で、アンダークラス男性ははっきりと格差が大きすぎることを認めている。
アンダークラス男性は現代日本の貧困層について、「貧困に陥ったのは自分のせ���だ」という自己責任論に与することなく、「貧困に陥ったのは社会の仕組みに問題があるからだ」と認める。対して資本家階級と旧中間階級は、貧困が社会の仕組みに由来することを認めない。
アンダークラス女性は、学校を卒業して社会に出た段階では、多くの人が正規雇用の職を持っていた。ところが結婚を機に退職したことから経済的な基盤を失い、夫との離別・死別を機に非正規の仕事に就いてアンダークラスに流入するというパターンが多い。
男性はアンダークラス以外の階級では格差を認めたがらない傾向にあるが、一方で女性は階級に関わらず格差が大きすぎると認める傾向にある。貧困は社会の仕組みの問題だと考える点でも同様だ。しかし再分配や貧困者への支援についてはアンダークラス男性より消極的である。
アンダークラス女性のうち子どもと同居している無職女性の家計を調べると、家計貢献度が100%、つまり無職の母親の年金等の収入が家計収入の全てであるケースはなんと20.6%に上る。失業者或いはアンダークラスの子どもを母親が支えているケースがかなり含まれるのだろう。
アンダークラス女性の中には、学校教育から排除され、或いは就職に失敗して未婚のままアンダークラスに流れ着く者と、普通に就職・結婚して平凡な主婦として生活したものの、離別・死別を経てアンダークラスに辿り着く者と、大きく分けて2つのタイプがいる。
伝統的な左派もしくはリベラル派は、所得再分配と環境保護、平和主義といった主張を当然のように並置してきた。しかし所得再分配への賛否と九条改正への賛否を階級別に見ると、それらをひとまとまりの主張と考える根拠がかなりの程度失われていることが分かる。
新旧中間階級および専業主婦では所得再分配に賛成する人ほど九条改正に反対する傾向がある。ところが正規労働者では九条改正に賛成する人ほどむしろ所得再分配を支持している。そしてアンダークラスでは、九条改正への支持と所得再分配への支持は全く無関係である。
環境保護や平和主義の主張はアンダークラスには届きにくい。彼らは所得再分配を求めているが、それは自分たちの困窮状態からくる要求であり、左翼イデオロギーとは無縁のものである。彼らが所得再分配を支持するからといって平和主義等も支持すると勘違いしてはいけない。
経済学者の松尾匡によると、右翼は世の中をウチ・ソトに分け、ウチ=日本人を守るが、左翼は世の中を上下に分け、下=労働者や庶民を守る。しかし戦後日本の左翼は戦争への反省からウチ・ソトに分けたソトと経済的平等や反戦という普遍的な価値の共有を目指してきた。
日本の戦後左翼は経済的な平等と反戦平和を一体のものとして要求してきたが、この考え方を引き継ぐ限りアンダークラスを支持基盤とすることはできない。左派政党を支持するためには平和主義や環境保護といった「余計なもの」を受け入れなければならないからである。
格差の縮小と貧困の解消だけを旗印に、アンダークラスを中心とする「下」の人々を支持基盤にすると明確に宣言する新しい政治勢力が必要だ。このような政策を掲げる以上、自民党とは相容れない。他の野党とは所得再分配や関連する労働政策などにお���てのみ共闘する。/橋本健二『アンダークラス』
論理的には小池百合子都知事を中心に結成された希望の党のように、九条改正・排外主義と同時に所得再分配を掲げる政党もこの勢力の共闘対象になる。左翼またはリベラル派の良心的な人々からすれば不真面目で視野の狭い姿勢に見えるかもしれないが、これ以外に方法は無い。
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おそらく、500年に一度くらい格差が縮小して全体が上昇する数十年くらいの時期というのが国ごとにあって、それが昭和中期に起きて、終わったということだろう。アンダークラスがあるのはどこの国にでもあることで、日本の素晴らしいところは、アンダークラスがあることを問題にできることだ。とはいえ、対策は必要だし、認識しないのは明らかにまずい。
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紙面の殆どを統計数値の解説に割いていて、何故にアンダークラスが発生しているのかの遠因を全く掘り下げていない駄書だと思う。
最終章で秋葉原の加藤智大に触れているが、彼は毒親からの歪んだ教育の成れの果てなのに、さも非正規雇用の反乱かの如き論旨の飛躍を起こしており、全くの期待外れの書であった。
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社会階層についての著書が多い橋本先生による、統計から見た「アンダークラス」の説明本。
SSM調査を中心とした各種統計から、非正規労働者の置かれている境遇を分析し、いろいろな角度から解説を試みている。
ところが、誠実に分析した結果、「アンダークラス」とひとくくりにするのは難しい、というのが現時点での総括になってしまう。
かろうじて、誰しも「アンダークラス」に転落するかもしれない、という論理でつなぎとめるが、当然それだけで一つの結論を導くわけにもいかず筆も拡散気味。
そこで、首都圏に住む「アンダークラス」層のエスノグラフィー8例の記述を挟み、所属階層と政治態度の関連についての分析から、新たな政治勢力の台頭の可能性についての話で終える。
「アンダークラス」について、広義の定義と狭義の定義で分けて、狭義のそれを「都市部に住む若年層の非正規労働者」あたりにして、そこに限定して進めたほうが、内容は繋がりやすかったと思うが、それは先生の学問的態度とはずれる、ということなのだろう。
ただ、こちらとしては統計の解説本にしては政治的言説の臭いが濃い、という感想を持ってしまう。
社会的分断をこれ以上進ませないためにも、所得再分配を全面に出しアンダークラスを支持基盤にする政治勢力の形成を、という話だが、これは暗に山本太郎を念頭に置いているような気がする。
そういう意味で、他国と比べて、他の時代と比べて、本当に社会的な分断があるのか、と言った指摘は的はずれなのだろう。
ところで、彼の演説は年々うまくなっていて、凄みが出てきた。
初期の衆院選のころの演説だと、どこに行っても同じセリフまわし。
一通り反原発をぶち上げ、最後にTPPについて言葉だけ触れるという感じで、セリフ覚えは良い、そうか彼は役者だったな、と感じる程度のものだったが、参院選当選後の6年でだいぶパワーアップしている。
相当勉強したんだろう。
言うことはより極端になってきたが、演説にも余裕が感じられ、アドリブでヤジを受け流す度量も出てきた。
昭和恐慌とか青年将校のテロとかそういう歴史の一ページを想起しつつ、より過激な主張が受け入れられやすい土壌は整いつつあるのだな、と。
野党再編が、連合の意向で左右されることからもわかるように、非正規労働者の意見を掬い上げる政治勢力というのは、これまで無かったのは事実で、その受け皿としての山本太郎という構図は別におかしくないのだと再確認。
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現代の階層社会における「アンダークラス」と呼ばれる人たちがどんな人達か解説している内容。この手の書籍はみんなそうだが、「データ」を羅列しているだけで、そういう人たちが実在するかのリアリティが全く無い。しかもデータの分母が少なすぎてあまり信頼性が感じられなかった。
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928.7万人のアンダークラスを年齢と性別で4グループに分けて分析。データからの引用が多く、読みづらいが、その分客観的な重さはある。失業者・無業者が283万人、合わせて日本の人口の1割程度か。普通に暮らしていると気づかないだろうが、仕事柄良く目にする人々ではある。うなづける部分もあれば、腑に落ちない部分もあった。
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秋葉原で通り魔殺傷事件を起こした加藤智大の掲示板には、誰にも相手にされない孤立感、派遣労働者である自分の境遇からくる劣等感、そして将来への絶望が、赤裸々に綴られていた。雇用は不安定で、職場は固定せず、しかも仕事内容は常に単純労働の繰り返し。書き込みからは製造業派遣で働く若者の寒々とした心象風景が鮮明に浮かび上がってくる。インターネット上には、加藤を非正規労働者の代表として賞賛する書き込みが多数出現している。その後、通り魔殺傷事件は、何度も起きている。いま日本は危機的状況にある。アンダークラスの問題はいつ身に降りかかるか分からない問題。他人事と等閑視はできない。格差を縮小し貧困をなくすことは喫緊の課題となっている。