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不浄な「首斬人」と蔑まれる生業を継いだ別所龍玄。童子のような姿で喉の皮一枚残す技量と胆力をもつ彼は、武士が屠腹するときの介添役を依頼される。凄惨な生業の傍ら、湯島無縁坂での穏やかな家族との日々。人気作家が放つ、若き凄腕介錯人の矜持。
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切腹(介錯)の場面は少し怖いと感じる程に身に迫ってきました。
理不尽で不条理なこと、その帳尻合わせに弱いものが利用されてしまうのが悲しい。
普段は穏やかな生活を送っているのが子供の成長とともに対比として素敵だと思いました。
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2019/05/31読了。切腹の介錯をする家系に生まれた別所龍玄の物語。稠密に書き込まれた言葉の重みがひしひしと伝わってきて、彫琢もなくキーボードにひたすら打ち込まれただけの頁数ばかりが多い文章とは大きく異なる。四つの物語で構成される連作小説で、そこには古典的な武士道的堅苦しさだけでなく、人情の機微もたっぷり織り込まれているので、胸に響くものが三島由紀夫がある。ふと思ったのは、これは英訳しても海外の読者には通用しないだろうなぁと思いつつも、イギリスの本読み人であれば、この濃密な世界を理解するのではないかという気もする。私の知る範囲では、イギリス知識階級の連中はこういう話が好きです。日経夕刊で高い評価が付いていたので手にしたのだが正解だった。
切腹といえば生麦事件で自らの内臓を投げつけて立ち会ったイギリス人を震え上がらせたこと、それに対して三島由紀夫がチンドン屋みたいな格好のまま首が落とせず何度も切りつけられた無様な最後だったことを想起してしまう。
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介錯人を生業とする主人公の信念の真っすぐさと心の機微を描く時代小説。
介錯人とは切腹する侍の最後に当たり首の皮一枚残して斬首する者のことで、主人公の「斬る者」と「斬られる者」としての命に対しての向き合い方の信念の強さに心打たれる。
また家庭と切腹場の行き来において、心安らぐ場と不浄の場との間の微妙な主人公の心の葛藤では共感も覚える。
物語は様々な出来事や様々な登場人物によって山あり谷ありとして描かれるのだが、そこに居合わせる主人公だけがあまりにもゆっくりと淡々と描かれているように感じられ、一つの物語の中にこれだけ違った時間の流れが描かれていることが印象的だった。
ある意味日常の中の非日常を描いた作品にも感じられ、これはなかなか凄い作品に出会った気がする。
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『社外取締役は経営者の介錯人』
なんて記事を日経新聞で見たが、要は経営陣に詰め腹(退陣)を迫る厳しさを持つ必要があるということ。トドメをさすわけだが、自分では己の退路の見極めがつかない企業トップを、ある意味、”楽にしてやる“ということでもある。
そんなことを思った記事だったけど、同じくその日経の書評で見かけたのだと記憶する。M市図書館に蔵書されてたので借りてみた。
江戸時代(寛政年間)、牢で罪人の首を打つ「首斬人」と蔑まれる不浄な稼業を継いだ若き武士別所龍玄が主人公。
装丁の挿絵のように武骨に見えない優男風に描かれている。その彼が、罪人の気持ちや、いわゆるお家の事情に思いを馳せながら、相手の自裁の場に立ち会い最期の時の介錯を行う。 こんな稼業があったんだねーと驚くが、ここまで研ぎ澄まされた生業ではなかったのだろう。
それを主人公としてのキャラに仕立て上げ、刹那に見せる心情を見事に謳いあげる。
「切場においては、斬る者と斬られる者がいるのみにて、ほかには誰もおりません。罪と正義ではなく、首打役と罪人でもなく、ただ、斬る者と斬られる者が、一瞬の交わりを結ぶと同時に、永遠の別れを遂げます。わたしはそのように、切場に臨みます」
若くしてこの悟りにもにた境地に達した、曇りのないその太刀筋のような生きざまが見事。
本書は、その龍玄の活躍を四話で見せる。タイトル通り武士の介錯や、罪人の死刑執行のほか、剣術道場のかつての先輩と切り結び引導を渡すなど、剣と剣を交える場面も迫力満点に描かれる。そんな各章のクライマックスの前後は、母親と姉さん女房と可愛い娘、召使いとの心温まる日常があり、生と死の対比がいっそう際立つ作りになっている。無縁坂界隈の町の様子も奥ゆかしく、当時の江戸庶民の暮らしぶりが目に浮かぶようだ。
「われら貧乏人には、諸色が下がるのはありがたいが、米の相場が下がっては、わずかな禄を食む身にはつらい。」
諸色とか、須臾の間、木瓜の鍔を鳴らして等々、時代小説でしかお目にしないような表現も勉強になる。たまにゃ時代小説も、いいね♪
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「別所龍玄と申します。江戸小伝馬町の牢屋敷において首打役の手代わり、ならびに試し斬りを行い、刀剣の利鈍の鑑定を生業にしております」
主人公の別所龍玄は、22歳の凄腕介錯人。私生活では、姉さん女房と愛娘、母親と穏やかに暮らしています。
第一話の切腹の描写がすさまじかった。4つの話、どれも内容が濃くて、良かった。
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何でしょう? 不条理と静寂。 事のやるせなさと、家族の静寂と暖かさ。 あまりに辛い話が、家族の「いつもの」空気で淑やかになっていきます。 龍玄のこれからの物語と、龍玄かどうやって今の姿になったのか、これから語られるのでしょう。
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死罪となった罪人の首を切る。
切腹する侍の介錯を仕る。
凄腕の剣客、介錯人。静かな男、別所龍玄。
首を切るもの、切られるものという関係の中切り結ぶ人と人との繋がり。そして、首を切られるに至った経緯などが語られる。
そして仕事を終え、静かな男に戻る龍玄。
なかなかに面白かった。
ただ、装丁に出てる一人の侍の絵。あれはちょっとイメージ違うなあ。
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図書館で続編の『乱菊』と2冊借りて続けて読んだ。タイトルとは裏腹に少しのユーモアとか明るさとか期待してみたがやはり、おどろおどろしくてどんな感動的なエピソードがあったとしても切腹とか介錯で締め括られるのだから重い重い。しかも感動的なエピソードなどなく、誰かの身代わりになってとか、家の体裁を保つ為にとか、身分の違い、、、理不尽な道理で切腹に追い込まれた人達の無念さ。
主人公の別所龍玄の淡々とした振る舞い、剣の技量が『化け物』という誉め言葉で囁かれてちっとも人間味を感じられなくて、こんな主人公のキャラクターでいいのか?と首を傾げながらどうにか最後まで読んだ。母親の静枝や妻の百合、娘の杏、そして下女のお玉たちが出てこなかったら到底最後まで読めなかっただろう。