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人生の醍醐味
著:曽野 綾子
本書は、2015年から、2017年まで産経新聞に連載していたエッセイである
と同時に、夫である、三浦朱門が入院し、そして亡くなった時期に重なる
まえがきには、夫が息を引き取ったその夜も作家を仕事をしていたこと、
そして、最終章は、三浦朱門がある日の朝に苦しまずに、亡くなったことを記している
90代の老夫婦の過ごした3年間の日々を、夫の思い出とともに語っているのが本書であると見ました
気になったのは以下です。
・認知症になりたくなければ、指先を動かせ
・要は自分で自立した生活をできるだけ続けることが、人間の暮らしの基本であり、健康法なのだ
・どんなろくでもないことでも、目的は目的だ。人間は目的があれば、生き生きと暮らせる
・現実に大勢のユダヤ人たちを殺し、大量の死体の始末をするという任務にはナチの党員ですら、神経的に耐えきれなかった。それを救うために死と接触する部分をできるだけ減らそうとして、死の瞬間を見なくて済むガス室だの、死体の始末をできるだけ簡単に行える焼却炉の改造の研究などが、熱心に行われた
・老年まで生きた人のほとんどが、人生の幸福は学校のランクや成績の優劣とは無関係だということを知っている。それより、人があまりしたい勉強や道楽を生涯し続けた方がいい
・内容を全く考えないでマニュアル通りオウムのように繰り返す人は、実は危険な存在なのだ
・私たち日本人に現在もっともかけているのは、自分で自分を守る感覚であり、知恵である
・役所が何とかしてくれるだろう、と思うより、役所のことなど一切当てにするな、信じるな、という法が多くの場合役に立つ
・それにアフリカの極貧の暮らしを見てから、食べ物を残すことなどもったいなくてできなくなった
・聖書の中には、しばしば、小さい者という表現があり、その存在はほとんど神と同一視されている。小さい者というのは、権力、財産、学歴、健康、社会的支援者などと無縁な人をいう
・避けて通りたい現実だが、困難や災難や、時には病気が、人間の心を育てるのを、私も幼い時から見て多くなった
・不運も不幸もまた、一種の魂の財産だ
・誰でもが必ずなれる「人生の成功者」:人生で一人も人を殺さず、自分も自殺しなければ、それだけで大成功だ、ということである
・人間は生きている限り、できるだけ働いて当然だ
・責任ある地位に就くということは、私的生活を犠牲にすることだ
・「人のお金」というものに関して、世間は考えが甘すぎる
・高齢者の活動は、時間との闘いなのである
・私は、差別語に限らず、あらゆる言葉を自由に伝える社会を支持する。理由ははっきりしている。私たち作家は、善も書くが、悪も書く必然を持っている
・最近の若者の中には、民主主義というのは、全員の意見が一致することだ、と思っている人がいる。民主主義は、51%の人が賛成したら、残りの49%は泣くことなのだというと、びっくりしたような顔をする
・日本は容易ならぬ状態に追い込まれている。老人の面倒を見る人手がなくなっているのだ。足りないのは金でも物でもない。人手なのである
・捨てられるところだったものを生かすという道楽は、この世に尽きない。お金もほとんどかからないのに、腕の見せ所は無限にある
・日本の人口をふやすための二つの方法
①日本で人口を増やそうとするなら、まず電気のない日を作ればいい。娯楽が多いと、セックスなどという原始的なものへの魅力は減じてしまう
②人間は食料不足で栄養状態が悪くなると、逆に受胎能力が上がる、というのである。粗食をすすめるといいのだ
・レビ記は、「穀物を収穫するときは、畑の隅まで買い尽くしてはならない。収穫後の落穂を拾い集めてはならない。ぶどうも、摘み尽くしてはならない。ぶどう畑の落ちた実を拾いあつめてはならない」
麦の穂も、ぶどうも、わざと取り残し、置き忘れたようにしておくから、貧しい人たちが遠慮せずに取れる。求めなくても与えられるもっとも秘やかな優しさの姿である
・悪は善と同じように、真っ向から突き付け、見せて、学ばせなければならない
・人の世には常に美点と欠点があり私はその双方から学んでいた。反面教師という力は有効だった
・悪いことも予想できなければ、あらゆる危険に対処できない。防災も、探検も、実験も、国防も、金融も、老人対策も、交通事故防止も、何一つできない
目次
まえがき
1 求められる「才覚」と「優しさ」
2「人間の基本」を鍛える
3「働ける」という幸福
4「幼児的大人」がもたらすもの
5 現実を正視する「勇気」
6「不足」があるから生きられる
7「日本に生まれた幸せ」
8 人生の善し悪しをわきまえる
ISBN:9784594082178
出版社:扶桑社
判型:新書
ページ数:262ページ
定価:860円(本体)
2019年05月01日初版第1刷