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さとうとしおの破滅が描かれる最終巻。けれど、その破滅は周囲の人間にとっての破滅であり本人達にとってはそのままハッピーシュガーライフの始まりであるという点は恐ろしい
火の手とあさひが迫りくる中で思っていたような逃避行ができなくなってしまったさとう達
その中でさとうとあさひはしおを巡って争うのだけど、しおから見ればその様子は両親のDVの場面と被ってしまう描写は印象的
そうなれば、しおの中でさとうは虐められて泣いていた母親とダブりつつ別人と認識できてしまう。しおがさとうから離れる理由が薄くなる。
また、しおはさとうの共犯者になる決意を固めているのだから、さとうの危機には立ち上がるし、さとうの犯罪歴を聞かされても動じない。しおは母親に捨てられた時よりも強く、そして拒絶を強くしているわけだ
そんな中であさひから告げられたのはしおが全く知らなかった、母親が自分を捨てた日に何を思っていたのかという点。これはもしかしたら、しおにはまだ家族のぬくもりを取り戻せる余地があると言える分岐点だったのかもしれない……
それでもしおはさとうを選んでしまうんだねぇ……。心の一部が兄のもとに帰りたがっていると知っても自分の為に、そしてさとうの為に生きると決めてしまうのか……
この巻におけるあさひの最大の失策はしおが既に変質していると気付けなかったことなんだろうな……
逃避行に失敗し、新しいお城も築けず、火の手は迫っているなら、取れる道は限られてくる。だからといってしおの方から「一緒に死のう」なんて言葉が出てくるのは想像の外から来る言葉で有ったけど
飛び降りる中で「大好き」を昇華させた「本当の愛」に目覚めたさとう。「一緒に死のう」というしおの願いを裏切りながらも「ごめんね ありがとう!」
これは愛の言葉であり同時に呪いの言葉であるように感じてしまったよ
最終話で家族の絆を取り戻せるという場面に接しても、「私もう そういうのやめたの」と切り捨てたしお。これは第一話のさとうの発言であり、それを発する中でしおとさとうは重なる
さとうと重なりながらも、しおは何故さとうが自分を生かしたのか判らないと言う。判らないから考えると言う。
それは出口のない問答であり、死者の為に人生を使うと決めた瞬間でも有る
こうなってしまっては他人が理解できる領域を飛び越えてしまう。正直、私にはこの場面のしおがあまりにも超人的すぎてちっとも理解できない。
でも、しおにとっては他人が理解できるかなんて関係なくて、自分と自分の中に居るさとうだけで世の中が完結していればそれで問題ないのだろうね
これにて、他者から隔絶された瓶の中にさとうとしおだけのハッピーシュガーライフは完成し、しおは幸せになってめでたしめでたしか……
ちょっと前の巻から観念的な描写が増えてどこまで作者の意図を読み取れたか確証を持てない部分が多い上に、他者の理解を拒むようなしおだけのハッピーエンドをどう受け取って良いのか判らないのだけれど、それでもさとうとしおの破滅と愛に満ちた物語を読めた���とは良かったのだろうと思う