紙の本
表題通りの本
2019/07/21 13:17
8人中、2人の方がこのレビューが役に立ったと投票しています。
投稿者:オタク。 - この投稿者のレビュー一覧を見る
著者は「第二次大戦の〈分岐点〉」でナルヴァの戦いを書いているのに、「旧バルト三国」という表現を使っている。ソ連時代ですらバルト三国をソ連を「構成」する「民族共和国」だった事もあるが、「第二次大戦の〈分岐点〉」で「1940年、独ソ不可侵条約に付属する秘密議定書により、エストニアはソ連の勢力圏に入ると認められたスターリンが軍隊を差し向け、併合してしまったのだ」と著者自身が書いているのに、何故こんな表現を使うのか?韓国史で高宗が皇帝になってから韓国併合までの時代を「旧韓国」という表現があるが、これは今の韓国と区別する為だ。
ここで見られるように、ドイツとソ連との間でのイデオロギー戦として書かれているので、それ以外の国々などの記述が希薄な本だ。
国防軍神話に批判的で、その「デマゴーグ」としてパウル・カレルを再三批判しているが、御自身が訳した大甘なフォン・マンシュタイン伝でも触れているライヒェナウ指令すら言及しない。著者が訳したホートの著書の解説で芝健介の「武装SS」に言及されている住民虐殺の命令に触れなかったように、多分、フォン・ライヒェナウが司令官だった第6軍と同じ南方軍集団に所属していた第11軍司令官だったフォン・マンシュタインによるユダヤ人虐殺の命令や第11軍に所属していた第22歩兵師団の連隊長だったディートリヒ・フォン・コルティッツ将軍が述べた「最悪の仕事」に触れたくないのだろう。何しろロードス突撃師団の戦史を取り上げたがユダヤ人をアウシュヴィッツに送った事は触れていない(他にもおかしなところがある)「ラスト・オブ・カンプフグルッペ3」の著者と違って「ヨーロッパ・ユダヤ人の絶滅」を読んでいるので、ロンメル伝でパウル・カレルの「砂漠のキツネ」では言及している後年のロードス突撃師団長ウルリヒ・クレーマンが負傷した時の記述で彼を抹殺しているのだから。
「捕虜となってのち、パウルスは、ヒトラーとナチス批判に傾斜した。ついには、投降した将兵を以て『ドイツ解放軍』を結成するとの案を出した」(164頁)とあるが、文献解題に紹介されているビーヴァーの「スターリングラード」にはヴァルター・フォン・ザイトリッツ-クルツバッハ砲兵大将の提案となっている。また、「ベルリン陥落1945」にはドイツ側が「ザイトリッツ隊」、「ザイトリッツ一派の裏切者」という表現を使ったとある。「スターリングラード」にも書かれているが、クノップの「ヒトラーの戦士たち」にあるようにパウルス元帥がソ連と協力し始めたのは7月20日事件以降だ。何故、フォン・ザイトリッツ-クルツバッハ将軍とパウルス元帥を混同して書くのだろうか?
また「勝利と悲劇」を「著者がレーニンからスターリンにおよぶソ連の指導者に、過度に批判的である事に注意する必要がある」と「批判的」に書いている。しかし、この本はレーニンに対しては「批判的」ではない。ヴォルコゴーノフ将軍の著書でレーニンを「批判的」に書いたのはトロツキー伝からだ。この本の著者は「勝利と悲劇」下巻718頁~721頁に書かれている(トロツキー伝の章風に言えば)「家族の悲劇」を読んでいないのだろう。というより必要な箇所を参照しただけなのだろう。こんな事を書いていたら第三帝国時代に本人や身内などが強制収容所に送られたり死刑になったり亡命を強いられたりしたドイツ人(ユダヤ人や外国人は言うまでもなく)がヒトラーや第三帝国時代の指導者達を「批判的」に書いたら、そう「注意する必要がある」と書くのか?
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https://ytkssn.hatenablog.com/entry/2020/03/11/091413
P.2019/8/11
f.2020/3/10
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「独ソ戦」とは何だったのか?その実態を2019年時点で公になっている資料、学説を時系列にまとめた一冊。
ロシアのウクライナ侵攻が長期化する中、かつてドイツからの侵攻に苦しめられたロシア国民がどうして大きな反対運動に発展させることなく受け入れているのか?その背景、構造がどうなっているのか?約4年続いた独ソ戦にそのヒントがあるのでは?という問いを持って読んだ。
結論から言えば、本書からその答えを読み取ることはできなかった。「100分de名著」で観たアレクシエーヴィチ「戦争は女の顔をしていない」に求めてみようと思う。
https://onl.sc/rKVZF3m
本書から「侵攻する側」つまりナチス下のドイツ国民の心情が第3章に描かれていた。他国の併合(ベルギー、デンマーク、フランス、オランダなど)による資源や外貨の収奪、占領民の強制労働により、ドイツ国民への負担を最小限に抑えつつも軍拡と経済成長を両得(本書では「大砲もバターも」と表現)することを了解し、いわば「ナチスと共犯関係」にあったと記されている。
この構造は、現在の日本の会社における非正規労働者と正社員、民主主義国家における大勢の老人と少ない若者にも重なる。「既得権側と搾取側」という建付けは、古代文明から変わらない。
もうひとつ、”学ばなくてはいけない”と痛感したのは、有事の強力なリーダーシップのあり方について。一般的に「有事は強力なリーダーシップを発揮する集団の方が生存確率が上がる」とされる。だから戦時中に独裁制を取るのは理解できる。
問題は泥沼にハマった時だ。
現在のプーチン政権にも言えるかもしれないが、独ソ戦当時のスターリンは「思い込み」や「願望」が強く、また彼の認知バイアスに反論した者も居なかったので(大粛清で処刑されまくっていた)、自国民の死者数を1000万人以上に膨れ上がらせてしまった。ヒトラーも薬物依存の疑いがあり、健康問題が深刻化していた。つまり「判断ミスを重ねてしまっている強力なリーダー」に対して体制変更を窮地の中で行えるのか?という問題。まるで「落下最中の飛行機を乗組員が修理する」みたいな状況だが、故障現場に全リソースを集中させながらその専門家中心の急場しのぎの体制を組み立て直せるかどうか?について調べたくなった。
具体的には「リーダーが判断ミスを重ねている。あるいは問題をより深刻化させている」という判別を客観的に下せる仕組みがあり、速やかに問題を定義する仕組みが発動されて、問題が起きている現場を特定し、責任者を選任し、急場しのぎの体制に移行させること。急場を乗り切った後はまた別の話に移るだろうが、この辺りの論点と手段を知りたいと思った。
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「新しい研究も踏まえながら、特定の事象等を詳しく、同時に誰にでも判るように解説」というのは新書の好さ、面白さなのだと思うが、そういう好さ、面白さが詰まった1冊に出逢った!
「独ソ戦」というのは、よく知られた戦争である他方、“概観”が判り悪いかもしれない…凄惨な戦いが繰り広げられ、とんでもない犠牲が払われたことが知られている。が、何故そのような経過を辿ったのか?軍事、政治、経済と多少幅を拡げ、ドイツ現代史の研究者が判り易く「独ソ戦」を説いてくれている一冊である。
実は独ソ戦での様々な戦闘に関しては、「創作も交わった」というような形で流布しており、近年になってそういった部分が詳しく検証され「誤り」が正される傾向に在るのだそうだ。本書を紐解いてみて判ったことだ。
当時のドイツ軍に在っては、かのヒトラーが細々したことに介入し、色々と不具合が生じていたということは確かに在った。と言って、軍の計画が好かったのでもないということが最近は強く指摘されているようだ。必ずしも合理的ではない計画の下に戦闘に突入している訳である。ドイツ軍は、延び切った補給線という状況下で継戦能力が著しく低い中で行動していた訳だ。
延び切った補給線という状況下で継戦能力が著しく低い中で行動していたが故に、合理的な軍事行動に「収奪」という要素が加わった。「収奪」は往時の経済状況の故に行われた側面も在る。そして「絶滅」というイデオロギーの故に、戦いに惨酷な色彩が加わり、それは時間を経て濃くなった…
こんな戦いが繰り広げられ、外交による和平というような選択肢は潰れてしまった…それが独ソ戦だ。
何れにしても、独ソ戦に様々な形で携わった先人達の辛苦は忘れてはならない。そして変な経過を辿って惨酷な戦争がその度合いを増し続けたという材料も忘れるべきではない…
「この一冊で概観を知る」というような目的…十分に達成出来ていると思った。
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独ソ戦の概略がよく表しているが、初学者には軍事用語や地名がわかりづらく、やや読みづらい。巻末に簡単な用語集が掲載されているが、読書途中まで気が付かなかった。今なお解釈が揺れ続けている史実に興味を掻き立てられた。ジャック・ヒギンズなどの冒険小説を読む際の背景として、勉強になる。
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戦争には、
通常戦争、
略奪戦争、
絶滅戦争(世界観戦争)がある。
略奪戦争は、自国及び自国民の利益のために他国の富、資産を略奪することを目的とする戦争。
絶滅戦争は、敵を根絶やしにするための戦争、なぜ根絶やしにするかといえばイデオロギーの違いによる。
独ソ戦は、この3つの種類の戦争が混じってはじまり、最終的には、絶滅戦争がすべてを包含した。
独ソ戦を含む第二次世界大戦におけるドイツの蛮行は、親衛隊の犯罪であり、国防軍は無実だったとか、
ヒトラーの独断専行によって国防軍の反対を押し切って独ソ戦が始まったとか、要はヒトラーが悪でアホだから、ドイツは蛮行の上に敗戦した、と戦後言われていた。
しかし、これらは、偽りであったことが最近の研究でわかってきた。しかし、日本ではそれはなかなか伝わってこなかった。本書はこれらについて明らかにしている。
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書店を訪問するといつも新書コーナーに立ち寄ります。
新書はパフォーマンスが良いんですよね。1冊が2時間そこらで読めてしまうので、流行をとらえるのに時間がかからない。サクッと呼んで興味のわいた分野があればより厚めな専門書にあたる、というアプローチが取れます。
ある日いつものように新書コーナーに立ち寄ったら信じられない光景が目に飛び込みました。
独ソ戦をテーマにした新書の帯に「新書大賞 第1位」と書かれている。「おいおい誰だよ、別の本の帯を巻いた奴は。」と思いましたが、よくよく見ると本当にこの本が第1位を取った模様。
いったい何が起こったのか理解できませんでした。独ソ戦てのはマニアだけしか目を向けない、血生臭くともニッチの極みともいえるテーマです。
何か民放で独ソ戦を扱ったドラマだか映画が製作されて、ジャニーズや人気若手俳優が出演したんだろうか、と現実離れした考えが思わず頭に浮かびました。
よくよく調べると有名な書評サイトで本書が激賞された模様。ああ、そういうこと。
第二次世界大戦の欧州戦役は普通の人よりも「少しは知っている」と自認していました。
パウル・カレルの書籍はどれも読んだし、マンシュタインの書籍にもあたりました。学研社の「歴史群像シリーズ」は挿絵が豊富でおっさんでもワクワクしながら読めますし、E・クライネのティーガー戦記は戦車乗りの過酷さを生々しく表現しています。
それなのに改めて本書を購入したのは大木さんの著書だから。
「砂漠の狐、ロンメル」では正確な事実にもとづいて歴史を描写する姿勢と、枢軸軍と連合軍を分け隔てなく(なんだか変な表現ですが)公平に評価する姿勢に感心しました。「この人の著書なら損はしないかな」と思わせてくれます。
読んでみた感想はやはり損をしない内容でした。
本書で感じた読みどころは大きく2つで、一つは正確な史実の提示。
本書の骨子となっている戦局推移はすでに知った内容ですが、ディテールを見ると「えっ、そうだったの!?」を感じる事実が豊富に紹介されています。
なまじ独ソ戦に関する情報を玉石混交な形で仕込んでいただけに、それが実は事実に反する、あるいは異常に脚色されたものと知った時の衝撃はなかなかのものでした。
「私は独ソ戦について知っている」というのは思い込みにすぎず、『坂の上の雲』を読んで「私は日露戦争を知っている」と吹聴しているに等しい行為だったと思い知らされました。ああ、恥ずかしい。
(ただ、クルスク戦役であれほど手に汗握って読んだプロホロフカ大戦車戦が史実に反すると聞かされたときの残念さと言ったら。。。「ケンプフはよっ!」と焦れていた私はいったい何だったのか・・・。)
もう一つの読みどころは独ソ両陣営のイデオロギー構成の説明。ある意味これが本書の主要テーマなのですが、一般の戦史本とは違う趣を醸し出しています。この戦いが何ゆえに凄惨な殺し合いに発展したのか、理解の端緒になると思います。
(個人的にはその説明に物足りなさを感じましたが、あとがきにも書かれているように、独ソ戦に興味を持った方の入門書的な位置づけとしては十分だと思います。)
大木さんの歴史本は平明な表現と構成なのでとても読みやすく、それに加えて正しい史実の理解につながるのでどれも良書です。
本書もその一つと言えるのではないでしょうか。
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独ソ戦は世界史の教科書ではさらっと流れてしまうので、この本は大変勉強になった。
ドイツが遂行しようとしていた対ソ戦は、戦争目的を達成したら講和で終わる19世紀的戦争ではなく、世界観(絶滅)戦争であるということが重要なポイント。
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ソ連にとってナチスとの戦いは「大祖国戦争」と呼ぶくらい、ナショナルアイデンティティのひとつになっていたそうだ。ロシアの専門家からそんな話を聞き「そういえば、独ソ戦のことよく知らないなあ」と思っていたら、この本が出た。
とにかく悲惨すぎた。死者数が、合わせて二千数百万人だよ。そんな悲惨な戦争になった理由が「大量殺戮兵器の進歩」等ではなく、そもそもの「戦争の目的」である点が興味深い。
著者は、戦争を「通常戦争」「収奪戦争」「世界観戦争(絶滅戦争)」に分類し、最終的に独ソ戦が「世界観戦争(絶滅戦争)」になっていったと解説する。相手の世界観を根絶するなんて、そもそもゴールに無理がある。結果、非合理な決断がたびたび行われ、犠牲者は増えていく。
ナチスドイツとソ連という、人類史上極めてアレな思想をもつ2国間の、特異で悲惨な戦争。第二次世界大戦がトラウマとなっている日本でも、もっと独ソ戦のことが知られていいはずだ。
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ヒトラーか不可侵条約を一方的にブチ破って開戦、華々しく進撃するも、そもそもユーゴでの反乱鎮圧に手間取って予定より開戦が遅れたこともあり、冬までにモスクワを落とすという目標には届かず→ナポレオンも負けた冬将軍の前に戦況逆転→ズルズル後退して最後はベルリン陥落、間にレニングラードとかスターリングラードの包囲戦、くらいの知識で読んでみました。まぁ大筋間違ってはないんやけど、もちろんその間にいろいろある訳で…そのいろいろがめちゃくちゃオモロい。岩波新書だけあって抑えた文章ではあるんやけどそれでもオモロい。
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「独ソ戦」勉強になった!
ドイツと日本の状況は似ていた
1936年外貨の急減 財政の逼迫 原材料の払底
→対外進出を不可避とした
国家を豊かにするために、
植民地 労働力と資源を求めて拡大戦略
ソ連を攻めたのは中国を攻めたのに似て泥沼化
戦略目的もバラバラ
ただし絶滅戦争という信念は犠牲者の数を一桁多くし、
戦争の悲惨さ激化させた
「ソ連侵攻の短期決戦構想」は挫折
出口なき長期戦を強いることになった
日本の対中・対米戦争と同じ
今また、アベノミクスで同じ過ちを犯し、
国家崩壊の危機にある
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大平洋戦争におけるどこかの国と重なるところが多くて、興味深かったです。
戦後70年以上経っているのにまだその影響はたくさん残っていて、たった70年しか経っていないと認識させられました。
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独ソ戦の概説書。最新の論を紹介しつつ、独ソ戦の発生からベルリン陥落までを時系列で述べている図書。わかりやすかった。
ヒトラーにとって独ソ戦は、人種を絶滅させるような絶滅戦争とドイツの物資不足による収奪戦争を含んでいた。そのため、通常戦争よりも恐ろしい悲劇を生み出したという点がわかりやすかった。
各国の当時のプロパガンダや歴史修正主義に惑わされることなく。戦争史を紐解いていきたい。
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分量の割にはえらい時間がかかった。専門書ではもちろんないが、これにより独ソ戦の概要が掴めたかというと怪しい。読んでもイメージが喚起されない。
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最新の知見で知識をアップデートすると、色々話が変わってくる。まあ、冷戦中には「国防軍務謬論の虚実」は都合が良すぎて積極的に暴かれなかったというのは、まあねぇ…
ドイツもソ連もどっちも酷いのだけれど、それでも、先に手を出したのはドイツだからねえ。