紙の本
自分の未来は自分で選ぶしかない
2019/12/25 23:32
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投稿者:なお - この投稿者のレビュー一覧を見る
主人公の「わたし」は、自分の道とエリックとの未来、どちらを選ぶのか。 博士号取得を目指すような彼女なら、未来を自分自身で切り開くべきなのだろうが、それはなかなか容易ではない。当然考えることは好きな人と結婚して、安定した未来を築くことも選択肢としてあげられる。
この本がいろいろな賞を受賞しているということは、たくさんの読者が共感するポイントがちりばめられているはずである。
この話の設定はアメリカということではあるが、日本においても大学院を出ても、その後となると、みなさんが思い描いた場所で自分自身を生かしているといえばそうとは限らないのが現実である。
主人公になりきって、こういった場合にどちらを選ぶのかまたは他の道を模索するのかといったことを想像しながら読み進めていけば、より現実味が湧いてくる作品である。
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読む前から期待していたんだけど、期待どおりのおもしろさだった。こういうの大好きだ。とにかく、一人称の語り口が軽妙でユーモアがあって、でもどこか醒めた感じで、すごく好み。するすると読めて、いつまでも読んでいたかった。読み終わったのが寂しい。
中国からの移民の両親をもつ主人公は、アメリカの大学院で化学の博士号をとろうとしているけれどうまくいっていない。研究室で知り合って同棲中の、優しくて非の打ちどころのない白人の彼からプロポーズされているけれど、イエスと答えることができないでいる…、って話で。いわゆるチックリットなんだけども、移民、親子関係、ルーツ、自立、結婚、愛情、夢と現実、みたいないろいろな要素が含まれていて、共感したり、身につまされたり、とにかくすごくおもしろかった。
主人公の両親が、親族と遠く離れて、お金もなくて、お父さんは必死で、お母さんは自分の夢をあきらめて、英語もうまくなくて、孤独で、そうやってものすごく苦労してやっと成功して。そうしたら自分の娘には、同じような苦労はしないように、医者か博士になれ、って迫るのもわかる。娘も両親の苦労をわかっているから、どうしても期待に応えなくては、って思うのもすごくわかる。頭では、親の言うなりになるなとはわかっていても。
でも主人公の彼エリックみたいに、そんな苦労がなくて、子どもは自立した人生をっていうアメリカで育ったような人たちには理解してもらえないのかも……。
主人公は化学がすごく好きで、新しい発見をして論文書いて博士号をとりたいんだけど、そこまで才能がないらしく、あきらめて他のことをするか迷う。(わたし、研究って、好きなら続けられるのかとなんとなく思っていたけど、やっぱり成果をあげなければクビになるんだなとあらためて気づいた)どんなに好きでも努力しても、どうにもならないことはある……となんだかすごく胸が痛んだ。主人公の語りには、光とか色とか音とか金属とか化学物質とか、そういう科学の話が出てくるんだけど、なんだかすごく詩的で科学への愛を感じた。
主人公には、結婚しても自分の両親みたいに不仲になるんじゃないかっていう不安もあるんだろうし、仕事も決まった、化学者として才能のある彼と結婚して彼について行ったら、自分はなににもなれないっていう不安もあるんだろうなと。けっこういろいろな不安をこじらせていて精神的に危うく、カウンセリングに通っている。カウンセラーとのやとりもいろいろ胸をうたれた。たとえば、
怖いものなしって不安がないってことですか、それとも不安と互角あるいはそれにまさる勇気があるってことですか
勇気のほうですね
わたしはどこで勇気を見つけられるんでしょう?
とか。
ロマコメ映画みたいなハッピーエンドではないけど、希望をうかがわせるラストもよかった。
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中国系アメリカ人作家のデビュー長編。“こじらせリケジョの煩悶”を独特のスタイルで描いている。正直なところ、小説という枠からは外れていて、読みにくいことこの上ない。数ページ読んでは中断し……というのを繰り返し、読了は無理かもとまで思った。が、第2部に入った頃から、それまでの脈絡のない散文から少しだけ変化した(劇的なものではない)のでなんとか読み切った。慣れれば面白いかもとは思うが、再読はないなあ。
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ボストンの大学院で化学を学ぶ主人公は、中国からの移民の両親のもと理系の才女として育ってきた。でも、大学院では彼女は普通の人、優秀な女性は沢山いる。博士号取得に行き詰まっているが、優秀で優しい恋人エリックのプロポーズを受けることもできないでいる。ケンカの絶えなかった両親のようになるなではないか、一緒に暮らしていても結婚には踏み切れないでいる。
エリックの新しい大学での仕事に一緒に行けない。親友が赤ちゃんを連れてやってくる。彼女の夫が浮気をしたのだ。ますます結婚は難しく感じてしまう。
やがて親友は夫の元へ戻る。主人公もエリックとやり直せるかもと感じ始める。
自分の生い立ちをトラウマとして抱える主人公、愛しくもじれったい。化学の知識を散りばめながら、自分の両親と今の自分を交互に綴る。
彼女とエリックが良い方向に行きそうな予感で終わる。
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移民と研究とロマンス、好きなものが三つ揃ってしまった!大満足だ!(研究はうまく行きませんでしたが...そういうこともある)(ロマンスというほど楽観的な感じでもないな...まあいいや笑)
移民二世(1.5世にもつながる)の文脈に関してひとこと:最近のアメリカ人のアジア系ユーチューバーを見ていると大体20台半ばくらいで家庭の厳格さをはじめとして出自を振り返ってみんな納得する、みたいなビデオを上げている。その場の流行りもあるかもしれないけど、やっぱり2文化の間で変に板挟みになる傾向はあると思われる。ではずっとそれに悩まされるのかというと、最近のPOC表象の広がりの中で自分の生い立ちを受け入れやすくなってきているような気がしていい方向に来ている気がする。そういう意味でアメリカの移民二世、特に東アジア系は「ちょっと」生きやすくなっていると思う。いいこといいこと!
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中国系アメリカ人で、化学を専攻する博士課程に在籍する女性の一人語り。
「普通に完ぺきな」彼氏エリックへの劣等感、中国からアメリカへ渡った両親に対する、表向き反感でも心の底にある敬愛と尊敬、随所に現れる物理や化学の知識を交えたユーモア。
根底に流れる「自分が何者であるか」が、自明ではないことによる苦労が、その軽快な文章によって逆に際立っていた。
他方、日本語に翻訳した際に:(コロン)を多用する書き方に、少し読みづらさが感じられた。
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ケミストリー、恋愛、学問、両親、様々な触媒によって生じる大学院生の中国人女性科学者の心の化学反応が描かれる。献身的な恋人からのプロポーズを素直に受け入れられず、科学者への道も閉じられようとしている。大学院をやめたいと相談した母親からは「あんた自分を何様だと思ってるの? 学位がなければ、あんたなんかあたしにとっては無価値よ。」と罵られる。母の支援で米国で博士号を取得し職を得た父は家族を蔑ろにする。恋人や両親の期待に応えられず、迷い悩んだ時、壁の前に立ちすくみどこへも踏み出せない主人公の姿が痛々しく綴られる。