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投稿者:そら - この投稿者のレビュー一覧を見る
小説や映画に影響されやすくすぐ夢に見てしまう質なのですが、この本の力は殊更に強かった。
一晩中うなされて?いた。
想像力を大きく稼働させられることと、全編を通して付き纏って離れない、空気のような恐怖や不安がそうさせたのではないかと思う。
そして小説の中だけではなく、現代を生きる自分自身も毎日のようになにかしら不安なまま過ごしていることを改めて考えさせられる。
かけ離れた世界の話なのに全くもって他人事ではない、不思議なのに現実的な話。
人間という題材の本質が描かれているからそう感じるのかもしれない。あふれんばかりの人間愛のこわい本でした。
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とても好きな世界でした。面白かったです。
緩やかに滅びていく。
人は、愛することと争うことをやめられないから。自分と違うことを受け入れられなくて排除しようとするから。
なんとか生き延びさせようとしていた「母たち」が、「もうおしまい。」と決めるところは悲しくもありほっとしたところでもありました。
これは遠い遠い話のようで、でも実はすぐ近くのことかもしれない。
でも、それでも…という祈りも感じました。優しい眼差し。
川上さんのお話は時に神話のようです。
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短編集であるけれど、すべての話は一つにつながっている。
章が変わるたびに、ものすごく強い引力に引っ張られ、別世界に連れて行かれる。最初は戸惑いながらも、やがて探究心が芽生えて、もっといろんな世界へ連れて行ってほしいと思ってしまう。それほどにこの本には魅力がある。
「人間が工場で作られる」という、不思議な世界から始まる物語は、まるで絵を描くようにして、近づいたり離れたりしながら全体像に向かっていく。
まるで連作のように、設定は深く、登場人物が多い。そして、読んでいる自分は別世界を俯瞰した気持ちになっていることに、知らず知らずのうちに気づく。
自分が普通だと思っていることは、見る人によってはものすごく異質で、それを受け止められるかどうかも違う。
異質なものに対しては、どちらかといえば興味をもつ自分にとっては、登場人物の行動に時折不可解な感覚を抱くけれども、共感はできる。
この本では、時間という概念が薄く、関係性は明記されても、いつのことだかは全くわからない。
ただここに、明確な意図があり、解釈が許されているように思える。
だから、人類が迎えるかもしれない遠い未来を書いたこの話は、もしかしたらずっと昔にすでに起こったことなのかもしれないと考えてしまう。
この物語の全ての真実を知った今、もう一度読み直してみようと思う。
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最初は純粋SFかと思い、台詞や文章の節々に居る現代とのズレをおもしろがりながら進めていたが、読むにつれて背景と時の流れが進み、最後には最初と繋がっていく。これは紹介通り神話だな、となった。
「わたし」や「母」の存在感が良い味を出している。それぞれの話が細く繋がっており、知っている名前が時を経て何度も出てくると自分もまた彼らをそんなやつだったなと思ったりしてしまうものだった。管理社会であったり人類滅亡したりもあるが、基本は愛のある話だ。かなり好きな部類である。
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タイトルがつけられた14編の短編。
予備知識なしで読み進めると、初めはバラバラの短編集に感じたものが、どうやら連作のようだと気づく。
どうやら、というのは、時間軸も空間軸もあいまいで関係性が簡単には掴めないからだ。
不可思議な社会の中に生きる不思議な彼ら。
やがてこの世界が何を表しているのかが見えてくると、薄っすらとした恐怖が襲ってくる。
いつもの優しいふんわりとした語り口がその恐怖を倍増させるが、登場人物たちの切なくも愛すべきキャラクターに少し救われる。
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人が滅びていく時間。
母なる存在となったITが、その長い時間を見守っていく。
それを哀しいと思うのか、幸いと思うのか。
献灯師を読み終えた時と同じように考えた。
神に救いを求めるには余りに傲慢で、やり直しには遅すぎるのではないか。
そうでないことを切実に願う。
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大きな鳥にさらわれないように(講談社文庫)
著作者:川上弘美
本文中にもあるように歴史は繰り返し人類が何度も同じ過ちをおかすことを象徴しているのかもしれないしむしろ逆にこれは遠い未来の話ではなく今現在自分の生きている世界の遠い遠い過去の話なのかもしれない。
タイムライン
https://booklog.jp/timeline/users/collabo39698
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結局わたしは、わたしという存在は大河の一滴に過ぎないのだなーと、本に書かれてることはまた少し違う感覚を得て楽になる。人類の未来史。
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しばらくは世界観に慣れず、飲み込めず違和感を抱えたまま読み進めた。人間は自分の理解の範疇を超えた光景に感動することもあるけれど、自分の理解できない出来事や生命には悍ましい、気持ち悪い、そして恐怖といった感情を持つ。そして排除しようとする。大昔から今日まで、そしてずっと先の未来まで、人はどうやっても繰り返していく生き物なのかもしれない。人類がどのようにして生き残っていくのか、自然の中にどう影響を与え合っていくのか、気になってきた。作者の想像力や描写には息を飲む。
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「ぼくの死体をよろしくたのむ」以来に川上弘美さんの作品をよんだ。
うーん難しい、どういうこと?という感覚をもちながらも章を読み進めていくと、いつのまにか遠いところまで来てしまった..未来のような、過去のような。リアルなような、嘘のような。小さな集落のはなしをしているようで、いつのまにか、ありえなく壮大な歴史のはなしをしていた。気持ち悪さをかかえながらも、どうしてかとてもなつかしい、とてもいとしく感じてしまった。岸本佐和子さんの解説がとても素敵。解説をこんなにも熟読してしまったのははじめてかもしれない。
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わけも分からず読み進めていて、だんだんとわかりはじめたあたりでほんとうに恐ろしくて、切なくて、それでいてどこまでも優しい。川上さんの書くお話ってよく絶望があらわれているけど、川上さんの絶望ってゆるやかで柔らかくてこんなさみしくない絶望あるんだなって思う。すべて読み終えてからもう一度最初の「形見」というお話を読んだときの感想が、感想ってかたちで文字にできない。それくらいの不思議な空気がある。
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「自分と異なる存在をあなたは受け入れられますか」
人間って人間に近くてでも絶対に理解できないものを一番に恐れませんか。幽霊とかAIとか人でもそう。
人間よりも理性が強くて穏やかな存在からしたら、わたしたち人間だってみんな可愛くみえるかな。わたしたちが猫とか犬を無条件に可愛いと思うのと同じに。
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優しくゆったりした文体で描かれるゴリゴリのSFディストピアもの。
とかくSFというと、あっと言わせるどんでん返しがあったり、
壮大な伏線の回収があったり、
ハラハラするアクションがあったりというイメージが強いですが、
事によると凄まじく詩的で哲学的な領域も持っていて、
久々にそういうSFを読みました。
「世界の中心で愛を叫んだけもの」とか。
若い時に読んで全く意味がわからず、
この人はさっきからずっと何を言ってるんだろう?と混乱したものですが。
種としての限界をとうに迎え、人が人でなくなっていく中にあって、
それでも人が元来持つなにがしかの業が、人を人たらしめていて、
それが愚かでもあり、愛おしくもあり。
フィクションによって本質を描き出すSFの魅力をしっかりと持っている、
全編を通して終末のさみしさが漂う良作。
遠い未来の話なのだけど、神話でもある。
というよくできた構造。
どんでん返しはないけれど、
最初から一貫してそれが語られていたことに
だんだん気づいていくのが面白い読書体験でした。
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小説でしか描けない世界だと思う。
都度変わる語り手はどんな時代のどんな街に住み、どんな姿をしているのか、断片的に語られる情報をつなぎあわせてその世界を想像する、そういう小説独自の良さが凝縮された作品だった。
進化を求めながらも変化を受容できずに、自分基準の普通から外れた人間を排斥しながら同じ運命をめぐりつづけ、ゆるやかに衰退するおろかな人類の本質が、さまざまな語り手を通してどこか客観的に、ありありと描かれている。
工場で作られた人間、たくさん存在する「わたし」、造形の不明瞭な「母たち」と「大きな母」、見慣れない数字の名前に、当たり前のように何百年と生きる人、クローンと人工知能。
描かれる世界が私にとって異質だと思ったとき、ああ私もまたおろかな人類のひとりなのだと自覚し、この世界の行く末をただひたすら読み進めていくうち、ああ私はこの物語の「見守り」なのだと錯覚する。
全編を通してアイデンティティとか、多様性とか、愛とか神とか、運命とか、さまざまなテーマが緻密な計算のうえに構成されていて、だからこそ「作者はなぜこれを表題作にしたのか」が気になった。掘り下げ甲斐のある作品なので論文一本くらいは書けそうな気がする。
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なんの予備知識もなく読み始めた。
むむむ…。
再読の余地あり。っていうか、再読しないと元は取れないか⁉︎