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「町の写真館」 が軒並み潰れているこの時代に、圧倒的な結果を出している著者の経営者としてのメッセージ。
つまり飲食や小売など様々な業種にも当てはまる。もっと言うと、「変化を恐れ、 昔ながらの方法のままで経営が厳しくなっている全ての経営者」への本と言える。
明確なビジョンを持ち、 PDCAを繰り返し、モノではなく体験を提供する事にフォーカスし、お客様目線になり、 店舗も店員も清潔感を... と他のビジネス書で手垢がついた内容でも、本書なら真新しい。 何故なら、 著者も述べているように写真館の経営者は経営視点よりも職人視点な人が多いからである。
「写真家先生」とされた時代から全く変わってしまった事を認められず、 撮り方を変える事もプライドが邪魔する、 カメラについては語れるのに経営については口を閉ざす、そういう人を私もたくさん見て来た。 (だから 「こうなってはいけない」と常に思っている...。 )
もっと言うと、 「階調が滑らかでライティングが美しい写真」よりも「表情が自然で我が子の可愛らしさが出ている写真」 のほうがお客様にとって価値が高いという事を認められないのではないか。
特に「現代においてカメラマンは接客業である」というのは私や著者にとって常識であり前提であるが、写真家としての (不要な) プライドを持つ職人達に腹落ちして頂くのは難しいと思う。
だからこそ著者は懇切丁寧に実際に行なっている事を話しているのだと思う。
ここ20年で写真館は半数以下に激減した。
代わりに副業でカメラマンをする人が増えた (サンデーカメラマンという呼称がある)。
カメラが特別なモノではなくなり、 撮影が特別なコトではなくなり、 個人の写真が未だかつて無いほど関心を集め消費されていくような 「一億総カメラマン時代」が現代である。
そんな中で、「何十年も前から変わらない背景とライティング法とお決まりのポーズに固い作り笑いの表情」 という、 型物の撮影だけの写真館は当然生き残れない。
別格として結果を出しているスタジオアリスを、著者は称賛しつつきっちり自社を差別化している。
例えばアリスの凄さはファストフード店のそれであると私は思う。 カメラマン (料理人) の腕に左右されず全国展開出来るシステムを構築し、安く済ませる事も、オプションをたくさん付ける事もお客様に選べるようにした。
対して著者が経営するスタジオは、 TDLのようである。 実際「夢の国」 「非日常」と表現しているように、撮影を体験として捉えて入り口や接客態度も徹底的にこだわり、 撮影方法や環境も被写体が自由に動けるよう構築されている。
つまるところ、単に集客のノウハウという表層的な話ではなく「どう在りたいか」 という理念と「どうしたいか」という戦略を鮮明に描く事、 アンテナを張り時代の変化に適応し、 他業界の知識 (或いは他業種の経験) や多角的な視点の必要性などが、メッセージとして伝わって来た。