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紀記とまとめて考えられがちな古代の話を、古事記、日本書紀、出雲風土記など様々な一次資料を個別に参照し、先行研究によって凝り固まってしまった考え方を説き解しながら、出雲にまつわる神話を順を追って浮かび上がらせている。
面白いと思ったのは、考古学の発見も参照しているところ。文献だけでは得難い実感を伴って読むことができた。博物館で観た大量の銅剣や出雲大社の柱の基礎などが想起されて、神話と現実を行ったり来たりするような不思議な感覚。
読み進めるにつれ、万葉集や物部など歴史として知る単語が出てくるのも同様。
ついに次は古事記自体を読んでみようかと思います。いろんな神社にも行ってみたい。
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「口語訳古事記」がベストセラーとなった著者の古事記研究
の集大成とも言える大著。「記紀神話」として日本書紀と
まとめて語られることに異議を唱え、考古学の成果も取り
入れつつ、出雲神話をまとめていく。独断的な仮定や前後の
参照の頻出なども少なくはないが、この手の本にありがちな
固有名詞の表記で困惑することはほぼ無く、そのボリューム
では考えられないくらい読み易かったし、私は著者の主張に
ついてその正誤を語る資格を持ち合わせてはいないのだが、
読んでいて実に楽しかった。もっともそれは、松江で生まれ
育った人間にとってなじみのある地名や神社が次々に出て
きたせいなのかもしれないが。松江にあった古志原(こし
ばら)という地名は新潟(越(こし))とつながりがある
のだろうか。
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長年にわたって『古事記』を中心とする日本古代文学の研究をおこなってきた著者の、出雲神話についての見解がまとめられている本です。
出雲神話をめぐる従来の解釈を批判し、考古学上の研究成果も参照しながら、ヤマト王権に敗北した出雲の側の「語り」を、『古事記』や『風土記』のうちに読みとろうとする試みがなされています。著者は、高天原からタケミカヅチが使者として遣わされ、タケミナカタとの力くらべを経て「国譲り」がおこなわれたという解釈は、ヤマト王権による出雲の「制圧」として理解されなければならないと主張しています。また、カミムスヒについても、出雲とかかわりの深い神であったという考えが提出され、『古事記』や『日本書紀』においてタカミムスヒと並列する神として位置づけられることで、そうした実態が見うしわれていったことを主張するとともに、そのような考えを著者に先だって提出していた先行研究の発掘をおこなっています。
著者は、古老の語りという形式をとった『古事記』の現代語訳を刊行し、『古事記』の入門書も多く執筆していますが、本書はそれらの解説でも語られていた、出雲神話についての著者の考察の集大成となっています。600ページを越えるヴォリュームの本で、重厚な内容を予想していたのですが、たしかに既存の学説についての紹介などはやや難解に感じられるところはあったものの、おおむね読みやすい説明となっており、また著者の主張そのものが展開されていく叙述の流れもたいへん興味深いので、読みはじめると一気に読むことができました。