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物理の話など,素養のない私には理解しにくいものもありましたが,新しい世界が広がるようで,興味深く読みました。
三人寄れば文殊の知恵,アリの社会性の話,宇宙の話が特に印象に残りました。
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新しいエッセイだ。なにが新しいかというと、自然科学が基底にありつつ、人文科学、社会科学もバランス良く含まれているところ。
本の装丁も、挿絵の選択も、文の格調も高い。こういうのを教養というのではないか。
著者が言うようにはけっして気軽には読めない。結構、歯ごたえがある。しかし、それだけ心情的にも知的も得るものがある本である。
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帯には「明晰でわかりやすく、面白くて叙情的」ここにはSF100冊分のネタが詰まっている…とある
確かブクログのランキングで見つけ、即読みたいとピピっ!ときた本
装丁はもちろん、挿絵も美しい
美しいというのか、控えめできらりとセンスが光る
海外の何を売っているのかよくわからないけど、入っただけでテンションが上がってしまうお店…みたいなイメージの本だ(科学って美しいって思うことがよくあるので自分の中のイメージには違和感はないのだが、一般的には意外性が魅力となっている本であろう)
はじめに…の冒頭が以下である
「科学に触れず現代を生きるのは、まるで豊穣な海に面した港町を旅して、魚を食べずに帰るようなものである。科学はしかし秘密の花園である。……通りすがりに簡単に魅力を明かさない。花園の壁に窓をつけることは、それゆえわれわれ科学の責務であろう。」
キザっちゃキザなんだけど、らしくないシャレた感じがなかなか
天空編、原子編、生命編…などに分かれておりまるで「火の鳥」みたいにワクワクする
その各編ごとには素敵な詩がそっと添えられている
各編4〜5個ずつの科学エッセイ的かつ完結する内容
お風呂あがりにぼーっと読んでも良し、内容はもちろん本格的(失礼)な科学であるので、しっかり調べながら学ぶこともできる
個人的にはいつもの如く「へーへー」のオンパレードで楽しめた
科学が得意でなくても、読み物としてわかりやすく楽しめる上、幅広い分野の確認や、知識を増やすきっかけにもなる
また理系の内容という箱に入れないよう気を使っておられるのか(そんなふうに感じた)、歴史や文学も融合されているので、幅広い方に楽しめる気がする
例を挙げてみると…こんな感じ↓
■天空編 「海辺の永遠」
〜1日の長さは1年に0.00017秒ずつ伸びている
月が毎日満ち潮、引き潮を引き起こすとき、海水と海底との間の摩擦が、地球の回転をごく微弱に減速させるからである〜
…と、ここまでは科学的な事実
これにより、500億年ののち。1日の長さは今の45日ほどになる!が、もちろんそんな遠い未来よりはるか以前に太陽が終息するであろう
このことからわれわれの世界には永劫の回帰は存在しないようだ
これにニーチェの「永劫回帰」の解説もあってなかなか文学的な奥深さもある
最後は
〜生誕、成長、生殖、死の限りないサイクルの一瞬一瞬、生命の意識のあらゆる瞬間にこそ、永遠は宿るに違いない〜
と叙情的に締められている
と言った感じだ
他にも興味深いトピックスがたくさんある
■宇宙の中心はどこであろうか
ブラックホールや天の川銀河系の神秘
■付和雷同の社会学
自らの判断がつきにくいことに、多数の他者の意見を参考にして決める習性…について書かれている
これがまさに、ネット社会の暴走の恐怖
■多数決に秘められた力
世論力学というものがあるらしい
ここでは民主主義の多数決選挙について
きちんと自分の意見を持つ「固定票タイプ」と、他人の意見を参考にする「浮動票タイプ」
それぞれの比率がどのくらいになると、全員が賛成派になる…という面白い研究
人は流されやすいのだ そっちのが楽なのだ
こんな浮動票をうまく使用し、それを権力者が操っている世の中だよなぁ
意見を持つことの大切さを各自が自覚すべし!
■言葉による認知の影響
フィンランドの労災事故の統計
フィン語話者とスウェーデン語話者で圧倒的に異なる
それはなんと言語の系統によるもの
異なった言語を知ることは、異なった世界の見え方を会得できる
■トロッコ問題の倫理性
有名な、壊れた暴走するトロッコの二手に分かれたレバーの前にいるあなた
さてどちらを救うか…ってやつですね
人々の倫理哲学は、西洋、東洋、南洋で傾向が似通ったり、国により異なったりする
例)東洋の特徴
救える人命の数を重視、合法的な行動をとる人を優先的に救う、老人が尊重され、男女を等しく考える
各国の特徴もあって興味深い
■革命や反乱を起こすアリの世界
これはアリを見る目が変わる(笑)
精緻に組織され、個体が協力し集団で狩猟を行う(われわれと大差ない)
農業も行う(キノコを栽培する!)、戦闘係はもちろん、検査技師までおり、職能はカースト制
他にもアリの祖先は蜂である、奴隷反乱がある…等
(何となくアリ凄さは知っているつもりであったが…)驚きの生態が明らかに!面白い
…と興味深いネタが盛りだくさん
とりあえずゆるゆると楽しんだので、次はしっかり知識として再読したい
何回読んでも楽しめそうだ♪
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純粋に面白かった。こういう科学系のまとめた本は、物凄く薄っぺらくなる印象があり、もうちょっとだけ深く…でも専門家ではないから分かる程度の深さで解説がほしい…という気持ちになることが多い。しかしこの本はとても良い塩梅で解説をしてくれ、一本ずつ読むごとに面白さや感動を感じることができた。何より一つ一つが短くて読みやすいし、まさに「夜話」という感じがしてワクワクした。ジャンルも絞っていないー作者の興味がそのまま表に出されたようなもので、それが良いと思った。
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宇宙から数理、倫理や生命など多岐に渡る科学話をまとめた一冊。一編が10分程度で読めるので、寝る前にベッドで一編ずつ読み進めていくのは楽しかったなぁ。"三人よれば文殊の知恵"という格言が科学的にいかに的確かを解説する話がお気に入りでした。
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池澤夏樹さんの『エデンを遠く離れて』を思い出した。
装幀や使われている図版も美しく、どこから読んでも愉しい。
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とても好き。
数学と物理学の美しくて不思議な世界、その積み重ねられた歴史を、無限の宇宙を、そして小さなひとつの命を味わうひと時が得られます。静かな夜に味わうのが最も良いでしょう。お供にホットミルクのご用意をおすすめします。
以下は私が特に気に入ったお話。
第1夜。月と永遠と一瞬のロマンチックなお話
第4夜。星新一のショートショートの舞台になっていそうなお話
第7夜。人類にとって恐らく最も悲しい発明のお話
第8夜。多世界解釈とボルヘスの「枝分かれする小径の庭園」
第9夜。声の大きい人と隠れたドンが作る多数派のお話
第14夜。思い出せない夢の倫理学
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読みやすい語り口で難解な科学話を面白く語っている本書。夜話という題名通り、宇宙の真ん中で読んでいるような落着きと広がりを感じた。内容は物理、化学、生物、宇宙など多岐にわたり、政治や歴史の話まで織り込まれ教養の深さに魅入った。文系でも読みやすいのでおすすめの本。
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佇まいも文章も、与えてくれる知識まで、美しい科学の本。『ここにはSF100冊のネタが詰まっている』という大森望さんの書評はまさに。繋がってはない、だけどどこか繋がっている科学のエッセイたちが、読み始める前とは違う世界の観方を、抒情な美文とともにそっと授けてくれる。
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8ページ程の科学ものエッセイが22編。
寝る前に1編づつ読めば、ひと月弱楽しめます。
なんですが、図書館で借りて予約待ちの人がいるのでチョット急いで2週間で読みました。
最近読み終わった「脳はすこぶる快楽主義」に出てきたじゃんけんで勝つ方法の話題がここでも出てきた。
グー、チョキ、パーを出す確率と負けた時に次にどれを出す確率が高いかというデータに基づいている。
本書は、今年発行と新しいためか、人工知能の話題もあって楽しめた。
有名なトロッコ問題で、「あなたならどうする?」ではなく「自動運転のAIにどう判断させる?」という問いかけをしている。
老若男女の誰を大事だと思っているか、人数の大小をどれだけ優先するか、国ごとの文化風土で違いが出る。
10人のじいさんを助けるか、若い女性と赤ちゃんの2人を助けるか、どちらかを選ばねばならない問題だ。
自動運転のAIでは、このような突発的な非常事態をどのように回避するかを実装しなくてはならず、対応方法の正解はない。
結局は国によって判断を変える、ということを考慮して自動運転車の開発を進めることになる。
実際はそこにこだわるまで開発が進んではいないでしょうけど。
ヒトの脳には10億のニューロンがあるらしいが、アリの脳のニューロンは人の1000分の1しかない。
とは言え、100万ものニューロンがあるとは意外と多いと思う。
現在の人工知能はまだ数万だそうだから、アリに追いつくのもまだまだ先だ。
アリって凄い頭脳を持っているのだ。
理系の人には少し物足りないかもしれませんが、気軽に気楽に科学のおもしろさに触れることができるいい本だと思います。
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内容もさることながら、章タイトルやページに現れる挿絵が素晴らしい。
自分は昼休みに少しずつと。
言葉の認知のところはおもしろかったなぁ。
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「数理社会編」の確率や多数決の理論、「生命編」の反乱を起こす奴隷蟻、世代を継いで長旅をするモナーク蝶等々…知的好奇心を刺激するネタばかりで面白かった。各章が短くサクッと読めるのが良い。
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本書は科学に纏わる色々なお話をエッセイ形式でまとめたものです。お話は全部で22話あり、宇宙の深淵を俯瞰的に捉えるものからアリの生態に迫るものまで、ミクロマクロ問わず多岐に渡って描かれています。
この本が素晴らしいのは、科学本でありながら数式が一切登場しないことです。まったくの文系人間でも科学の世界を直感的に理解できるように、情緒たっぷりの表現を交えて分かりやすく書かれています。
本書の中でも私が特に印象に残ったのは、「第15夜 言葉と世界の見え方」です。そこでは異なる母語における認知の差異についてのお話が描かれています。
――フィンランド国内にはフィン語話者とスウェーデン語話者の2つの話者がいる。フィンランドにおける労災事故を比較したとき、スウェーデン語話者はフィン語話者よりも事故率が4割ほど低かった。これはどういうことか?
フィン語は、たくさんの事象があるとき、それらの間の時間順序が曖昧になる傾向がある。対して、スウェーデン語では前置詞後置詞がはっきりとしており、日常会話でも事象の時間関係は常に明確である。そのため、危険を伴う複雑な作業のとき、時間的順序をしっかり把握できるスウェーデン語のほうが事故率が低くなるのだ。
社会の規範によりその成員の思考がある程度方向づけられることは、実感として何となく理解できますが、言語の構造そのものが人の認知に直接的影響を与える、という結果にはかなり驚きでした。
思ってみれば、日本語も日本人に大きな影響を与えています。日本語は会話の中で主語を省略することが多く、かつ語順がバラバラでも成立するため、論理的な言語よりも感覚的な言語だと言われていますが、これがまさに日本人を日本人たらしめている要因(個人の主体性を出さずに感覚的に空気を読む国民性)なのかと実感しました。
以下、自分が面白いと思ったお話のメモになります。
【宇宙】
銀河の中心には、太陽の400万倍の質量のブラックホールが鎮座している。すべての星星がそのブラックホールのまわりを回っているのだ。
銀河には活動期と休眠期があって、中心のブラックホールの周囲に多くの物質が集まり、それらが吸収されると銀河核は活動期に入る。飲み込み尽くすと休眠期に入る。
天の川銀河は今休眠期にあり、次の活動期がいつ始まるのかは予想できていない。
宇宙空間において地球と月の重力が釣り合って安定する場所…ラグランジュ点
ここにホテルを置くことで億万長者になれるかも?
【確率の錯誤】
2つの確率を組み合わせて正しい確率を判断しなければならないとき、その過程が複雑になると判断停止となり、出された確率に近そうな一方を答えにしてしまう。これを「基準率錯誤」という。
例えば、PCR検査のように精度の粗い捜査を行うとなると、偽陽性が大量に出て病院が溢れかえってしまう危険性があるが、それでも多数のPCR検査が合理的だと考えるのは、この錯誤によるもの。
【ペイジランク――グーグルの検索ランキングのアルゴリズム】
A、B、C、D、Eの5人��、「誰が優れているか」を投票する。持ち点は1人1点だが、誰にも投票しなくてもいいし、複数人に投票してもいい。複数人に投票した場合は1点を投票人数で割った点が1人辺りの獲得点になる。
ここでA-Eがそれぞれ2.5点、2点、1点、0.5点、0点を得たとする。しかし、投票をより正確にするためには、1番評価の高いAが投票した人物にウエイトをつけるべきではないだろうか?
こうして単純点とウエイト点を考慮した計算を行い、更にその結果にウエイトをつけ…を結果が収斂するまで行っていく。これがグーグルのウェブ検索結果のアルゴリズムだ。
【ガラム世論力学】
多数決で賛成と反対を決める。このとき、全ての個人が2つのタイプのいずれかに属すると考える。
1 既に定まった意見があって、常に賛成か反対かの意見を持ち続ける「固定票タイプ」
2 他人の意見を絶えず参考勘案して賛成反対を決める「浮動票タイプ」
この人達を集めて、集団全体の賛否の比率が安定になるまで意見を調整する。すると次のような結果になる。
1 浮動票だけの世界では、最終的には全員賛成か全員反対かなる。どちらになるかは、最初の意見の分布でどちらが5割を超えているかで決定する。
2 「常に賛成」の固定票タイプが5%混じっただけで、たとえ最初に70%が反対であっても、意見の調整を続けると全員賛成になる。
3 常に賛成の固定票タイプが17%以上いれば、残りの浮動票が全員反対でも、時とともに全員賛成になる。
こうしてみると、「熟議民主主義」という、専門家を交えた少数の集まりによる議論の積み重ねを集団の意思決定の場で活用する動きは、全体の意見を恣意的なコントロールに置く試みのようにも見えてくる。
より分かりやすいのは商品のレビューサイトだ。見識のあるプロの比率が17%以上なら本物の価値を持つものが売れ、17%以下なら価値を誇大広告する粗悪品が売れるということだ。
【言葉と認知】
フィンランド国内にはフィン語話者とスウェーデン語話者の2つの話者がいる。フィンランドにおける労災事故を比較したとき、スウェーデン語話者はフィン語話者よりも事故率が4割ほど低かった。これはどういうことか?
フィン語は、たくさんの事象があるとき、それらの間の時間順序が曖昧になる傾向がある。対して、スウェーデン語では前置詞後置詞がはっきりとしており、日常会話でも事象の時間関係は常に明確である。そのため、危険を伴う複雑な作業のとき、時間的順序をしっかり把握できるスウェーデン語のほうが事故率が低くなるのだ。
言語の構造が人の認知に直接的構造を持つのだ。
【アリの世界】
アリの特徴はその特異な賢さである。
個体が協力して狩猟を行い、農業を行い、高度に組織化された社会の中で暮らしている。アリの社会は分業制であり、運搬職、園芸職、世話係、軍隊などの役割が、遺伝子的に決定されて生まれてくる。全ての個体は社会全体の利益のために奉仕する超個体である。ここまで高度な社会を作れるのは人間とアリだけだ。
中には巣を襲撃して奴隷を作るアリもいれば、その奴隷主に反乱を起こすアリもいる。
【海峡を渡る蝶】
北米に生息するモナーク蝶は、カナダからメキシコまでを渡って生きる。北の大地に生まれた蝶は晩夏になる4000キロもの道を南下し、生涯の殆どを飛行に費やす。逆に、メキシコで生まれた蝶は春の訪れとともに北上し、途中で産卵をし子孫に使命を受け継ぎながら、実に3世代をかけてカナダに戻ってくる。
この世代を超えた飛行行動は人間にも当てはまるだろう。人間が知性を得たのは、彼らの誕生した小さな生息圏から、次なる生息圏を目指して命を広げるためである。人間は地球全てに自らの生息圏を広げ、宇宙にも進出している。一番近い星でも400年、銀河の端から端までは200万年かかる。しかし、知性を持った生命が、遠い生息圏への移動欲求を本能的に持っていると考えれば、莫大な時間と虚空の壁に怯むとは思われない。
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物理学者による、科学エッセイ22編。
題材の選定から、タイトルや装丁を含めて、マーケティングの勝利だなぁと思いました。
解説本かストーリーものになりがちな科学の分野において、「美しさ」を前面に出して、読んだ先にある理解や感動と言うよりも、読む時間そのものの価値を高めてくれる本という印象。
ある意味、暖炉のある山荘で、スコッチでも飲みながら読むような贅沢な時間だと「錯覚」できるような不思議な本です。実際には、自分は都会の狭い自宅にいて、お供は缶ビールだったりするのですが(笑
このジャンル、もっと花開いたら面白いですね。
ちなみに、個人的には序盤は少々読みづらかったので、後ろの「生命編」あたりから読むと良いのではと思いました。
総論としては以上で、あとは細かいツッコミです。
まず、通常挿絵の脇に何らかの解説がついているものですが、本著は無いものの方が多いくらい。概ね文脈で理解できるものの、一部は「わざわざこの絵を入れる理由は何?」となるものも。
(例えば、ラグランジュ点の末尾についている"North American Hotel"のブローシャ-らしきもの(関係ないですが、これってスティーブン・フォスターが亡くなったホテル?))
個人的には「まぁ理解しなくて良いから気楽に読んで」だと解釈しましたが、ちょっとモヤモヤする人もいるかも。
あと、意図的に漢字を多くしているようにも思える文章はちょっと読みづらいです。「在る」「何処」「亘って」等々、コレを漢字で書いても偏差値は上がらないと思うのですが、マーケティング上の理由でしょうか。
続巻はもちろん期待したいところですが、このジャンルに色々な著者が参加してくると、もっと面白くなりそうです。
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われわれが生きるのはただ発見するがためであり、
他のすべては一種の待機である。
ーハリル・ジブラン(オスマン帝国時代末期のレバノン出身の詩人、画家、彫刻家)
明けましておめでとうございます。
今年も本を通しての交流、新たな本を教えていただきたいです。
みなさま今年もよろしくお願いします。
令和三年、2021年読書初めは科学者の科学エッセイ。
冒頭の著者の言葉「科学に触れず現代を生きるのは、まるで豊穣な海に面した港町を旅して、魚を食べずに帰るようなものである」から始まる。
私には理論的なところは理解できず(+_+)ではあるが、芸術と科学が交差し、倫理とデータが重なるという目線と静かだが力強い言葉で語る科学の面白さと壮大さは十分に味わった。
ー永遠とは?
死と静止とが永遠ではない。
潮の満ち引き、昼夜の交代、月の満ち欠け、絶えずめぐり繰り返すもの、周回して永劫に回帰する運動の中にこそ、永遠が見える。
しかしその潮の満ち引き、一日の時間や一年の日数さえ長い長い年月で変化している。
それなら世界があることを確証するには、それを認知する意識を持つものが必要だ。
永劫回帰、永遠を予感させるには、生まれてから死ぬまでの日々を繰り返し、世界に意味を与えて人の世を動かす生命の意思があるからこそだろう。
ー流星群がもたらした生命
地球の重力に囚われた流星は、大気圏で燃え尽きることが多いが、大きすぎて隕石として落ちてくることもある。
6600万年前に堕ちてきた巨大流星は巨大地震と津波と噴煙を巻き起こして、その時代の生命であった恐竜をほぼ絶滅させ、その後の哺乳類の世界となった。
だが流星は破壊と生態系交代だけでなく、生命そのものを運んでくるという学説もある。
水や有機物を含んだ彗星が地球と衝突したとこで、地球に生命体をもたらしたというのだ。
彗星には、太陽系の果までゆき一周をかくのに数千年かかるものもある。まさに宇宙の使者のようなものなのだ。
ー芸術と現実世界
芸術が現実世界を模倣するのか、現実が芸術を模倣しているのか。
オーソン・ウェルズはウラニウムによる核兵器と、それによる戦争被害を超えて世界規模での政府と平和の樹立を書いている。だがその後にできたウラニウム核兵器は戦争に使われることまでは小説をたどっているが、その後の平和は訪れる様子もない。
ー分岐して無限に広がる
電子機器から原子力発電までに使われる量子学だが、「不定であった粒子の方向が、観測した瞬間にでたらめに決まる」という道理の通らない原理を持っている。
選択肢は増え続けて平行世界を作ってゆき、分岐して増殖してゆく。
これも科学者の理論の前に文芸作品が出ている。
ボルヘスの「八岐の園(枝分かれする小径の庭園)」。八岐の園とは一つの本で一つの庭で一つの迷宮。時間とは均一で絶対的なものではなく、増殖し分岐し交錯する無限の編目であるとしている。
無限に広がった平行世界であっても、どこでも出会うべき必然を感じ���こともある。
ー多数決を動かす数
多数決においては、固定派と流動派がある。
この固定派が17%いれば周りに影響を与えて最終的な多数を占めることになる。
ものごとに通じたものが17%いるか、流言飛語に惑されるものが17%いるかで社会決定は全く変わる。
ー言語と思考
言語で示すことにより、しっかりと心に浮かべることができる。言葉の構造が人の認知に直接的影響を持つのだ。
日本語やマヤ語には助数詞(一台、一本、一匹)があるが英語にはない。
英語にはものを表す名詞が形の情報を含むが、マヤ語はそれを含まない。
フィン語は名詞には時間序列が曖昧になっている、スウェーデン語は日常会話でも事象の時間関係が明確になっている。
異なった言語により思考も全く変わる。
そして同一言語であっても、社会階層によってはまた変わる。言語の違いは認知機能の違いにも繋がっている。
ートロッコ問題から見る世界の優先順位
「トロッコ問題」は、このまま5人を死なせるか、自分が介入して1人を死なせるかの選択だが、そこに彼らの年齢、立場、性別などが含まれたら人はなにを一番助けようとするのか。
この先の社会であれば、切替器を操作するのはAIとなる。それならどのようにプログラムしておくべきなのだろうか。
そこで全世界でのアンケートを取ったところ、地球上の地域ごとにおける倫理の違いが見えるようになった。
その結果全世界の傾向は、欧州と北米の「西洋」、巨億等と南アジアと東南アジアの「東洋」、南米の「南洋」に分かれるものだった。
「東洋」は救える人数を重視せず、合法的な人たちを優先する老人を尊重し、男女は区別しない。
「南洋」は、社会的地位の高い人、若者と女性、そして健康な人が尊重される。人数や合法かどうかは重視されない。
「西洋」は、特に何を重視すると言うよりもバランスよく考える傾向がある。自体への介入を避けて、なりゆきを尊重する。
しかし地理的な所属から離れる国もある。フランスやチェコ、ハンガリーは西洋ではなく「南洋」の傾向、ベトナム、バングラディッシュ、スリランカ、そしてブラジルは南洋や東海で把握て「西洋」だった。
この傾向は法整備にも使えるのではないか。
しかしデータの本当の活用は、どのようにして未来を良いものにできるのか、ということだろう。
ー学んだのだから
渡りを忘れた絶滅種の渡り鳥を保護する動物学者と、グライダーで先導するパイロットがいる。
人間は鳥から飛行を学んだのだから、飛べなくなった鳥に飛行を教えるのは我々の義務ナノではないかと感じたんです。
古代アメリカの伝説によると、太陽が毎朝登ってくるためには、人間の気高い行いの奉納が必要なのだという。小さな恩返しの繰り返しが地球が回り続け生物の世を継続させているのかもしれない。