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『ペーパーボーイ』から6年後の物語。
大学入学を控えた主人公ヴィクターの、大切な友人スピロさんとの約束を果たすためのメンフィスからニューオリンズまでの一人旅を描く。
前作でも、彼の成長を支え人生に大きな影響を与える人として、隣人スピロさんやお手伝いのマームが登場するけど、今作も道中や目的地でたくさんの出会いがあって、もう、、、その人たちの魅力的なことと言ったら!
それをヴィクター自身がちゃんとわかっているところがすごくいい。
そして今作で、彼は恋をします。
読んでいると、眩しくて切なくて苦しくなるほどの。
「ニュースの伝え手よ、よかれ悪しかれ、今の自分は昔の自分なのだ。」
人生は、旅だ。
10代の人にも、元10代の人にも、迷える人にも迷いのない人にも、ゼッタイ、染みると思います。
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前作『ペーパーボーイ』がとても良かったので、この続編が良いとしても前ほどではないだろうと思いつつ読んだが、同じくらい良かった。
前作は思春期入口の少年を描いていたが、こちらは6年後、大学入学直前の青年期の入口を描いている。
描かれなかった6年間に主人公ヴィクターが成長していたこともわかる。しかしなお吃音に悩み、両親との関係もギクシャクしている。新聞社でのバイト(コピーボーイ)には手応えを感じているが、将来は見通せない。そんな時、前作で彼を導いてくれたスピロさんの訃報が届く。ミシシッピ川がメキシコ湾に注ぐ河口に散骨して欲しいというスピロさんとの約束を果たすため、一人ニューオーリンズへ旅立つ。
そこで出会う人々が生き生きしていて、フィクションの人物とは思えないほど魅力的。
ヴィクターは皆に親切にしてもらえるのだが、彼が誠実で信頼できる人間であることが読者にも伝わるので、全く気にならない。吃音があるため軽口を叩いたり、話を脱線させたりすることが苦手であり、一旦考えてから言葉を選び口に出すので、不用意に人を傷つけたり不快にさせたりすることがない。そこが、他人に好感を持たれる所以である。つまりコンプレックスが魅力と分かちがたく繋がっている。
この本では、ヴィクターは恋をし、両親から距離を置くことで、大人の世界に入っていく。前作でスピロさんに言われたことばの深さがやっと理解できるようになる。そこも、とてもいい。
恋人となったフィルも、美人だけど髪はほったらかしでおしゃれなんかしない。裸足で歩いているので足の裏は革のように硬く、運動神経も船を操るテクニックも男子に負けない。大胆で繊細。読者も恋してしまうような女の子だ。
本当に読んで楽しく(もちろん不快な出来事も起こるし、大変な目にも合うのだが)、後味爽やかだった。
特に印象に残ったのはニューオーリンズの新聞記者(将軍という渾名)の恋人エイドリエンが、吃音を気にするヴィクターに言った言葉。
「これだけは言っておくけど、わたし、あなたとならどんな約束でも安心してできそう、ほんとよ」(P101)
こんなに素晴らしくあたたかい褒め言葉ってある?あなたは信頼できる、とか他にも言い方あると思うけど、この表現が、傷ついた心に本当に沁みただろう。きっとこれからの人生でも落ち込んだ時、何度も思い出すような言葉だと思う。
それから、『老人と海』についての将軍との会話。
あの本はちゃんと読むと、ただ一人の男が一匹の魚を釣り上げるだけの話じゃない、もっと多くのことを語っている、とスピロさんが言っていたとヴィクターが言うと、将軍が
「傑作はみなそうだが、言わんとしていることは、読む者がなにを求めているかで変わってくる」(P107)
本当にそう。何度も読んでも違うことに気づく。読み尽くすということがない。それが本当の傑作。
唯一残念だったのは、前作でヴィクターの精神的母親であった黒人のナニー、マームと再会しなかったところ。マームがどうしているかすごく気になる。まあ、この本だけを読んだら全くそれは気にならないので、欠点ではない。
巻末に作者へのインタビューが載っている。「作家が一定の年齢層を念頭に物語を書きはじめると、読者にむかって「上から」ものを言ってしまう傾向があります。そういう過ちだけは絶対に犯したくありません。」(P296)
YAだから、なんて考えず読んで大丈夫。みんなにおすすめしたい。
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YAというより昔ながらの「青春小説」という言葉がぴったりに思えるさわやかな物語。
前作の6年後、主人公ヴィクターは17歳になって大学進学を目前にひかえている。
前作でヴィクターのかけがえのない友人になったスピロさんは亡くなり、遺灰をミシシッピの河口にまいてほしいという遺言をヴィクターにのこしていた。
ミシシッピの河口というのがどこなのか、それすらわからないまま、ヴィクターは両親の反対をふりきって、ひとり、車でテネシー州メンフィスからルイジアナ州ニューオリンズをめざす。
無謀なようでいて、周到なヴィクター。両親には置き手紙だけだけど、ちゃんとバイト先の新聞記者に事情を話し、ニューオリンズにいる友人記者に連絡をとってもらって、そこからどんどん人間関係を広げていく。まだ吃音はあるけれど、前作の内向的な少年からは、ずいぶんたくましく成長している。
そしてフィルとの出会いと恋。
ヴィクター自身が、河口にさしかかって、これから大海原へ乗りだしていくんだということが、いろんなエピソードから伝わってくる。
たぶん、旅に出る前よりも、たくさんの課題をかかえて帰ることになるんだろうけど、何事にも正面から向きあう強さを得たヴィクターは、両親(というか、母親)との相克も、大学とバイトのかねあいも、ひとつずつ解決していくんだろう。
前作、『ペーパーボーイ』で両親のことに触れた部分をほとんど忘れていたので、ぱらっと読みかえして、こんなに描かれていたんだなとびっくり。スピロさんのことと、配達先の人間模様、マームのことぐらいしか印象になかった。あっちも読み返すか……。
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ペーパーボーイの6年後。マームとスピロさんとのその後の関係が楽しみで読み始めたが、冒頭はスピロさんの死。マームも新居への引越しと同時に解雇されていた。親子関係がぎこちない中、ヴィクはスピロさんの遺骨をミシシッピ川の河口に撒く…という遺言を決行する。
出かけた先々で出会う人々が、主人公を吃音丸ごと尊重してくれる人たちばかりで、自分を解放して自信をつけて行く様子が本当に素晴らしかった。そしてハリケーンが迫る中でのフィルとの散骨。嫌な予感が的中しつつも、緊張感がMAX。海洋ものの、海へ出るつもりじゃなかった の近代版というべきか。久しぶりに正統派の翻訳小説を読んだ満足感でいっぱいだ。
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前作「ペーパーボーイ」から6年、ヴィクターは大学進学を前に新聞社でコピーボーイ(雑用係?)をやっている。亡くなったスピロさんの遺灰を遺言にしたがってミシシッピー川の河口にまくために、車で向かう。新聞社の信頼できる記者の紹介で、メキシコ湾の港町の船長を紹介され、心配する両親が寝ている間に出発する。同じ頃、メキシコ湾に巨大なハリケーンも向かっていく。
吃音のあるヴィクターは、それだけでも大変なのにルイジアナ南部には、ケイジャンというフランス系の出身者の独特な発音があり、余計話にくくなる。しかし、優しく信頼できる人たちと出会い、スピロさんとの約束を果たすために河口に向かうが…
ベトナム戦争の頃のアメリカ。パソコンも携帯もなかった頃のストーリー。
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どこかしんとした静けさのある爽やかな装画どおりの読後感。舞台が50〜60年代というのも現代の煩雑さが削ぎ落とされてこの読後感に貢献している。作者の自伝的な物語なのでこの時代設定は必然なのだけれど。
ミシシッピ川への旅の道中でのフィルとの出会いなどは少しありきたりな展開に思えたけれど、それも含めて映画化されれば良い感じになりそう。
個人的には前作でのヴィクターとマームの関係性に一番魅力を感じていて、彼女の存在がこの物語に奥行きを生んでいた気がするので、マームのその後が終盤に駆け足で申し訳程度に付け加えられていただけだったのが残念。
もう少し長くなってもよいのでマームについての描写もしっかりと描ききって欲しかった。
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SL 2022.3.29-2022.3.31
ペーパーボーイから6年後。
ヴィンスは17歳になっている。
もともと聡明な少年だったけど、今はすっかり大人になった。
この夏彼は素敵な人たちにたくさん会った。
自分の両親とうまく気持ちが通じ合わなかったのが残念だと思っていたけど、この後両親との関係も変わっていくに違いない。
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新聞社でコピーボーイ(雑用)として働くヴィクターは訃報欄で、恩人スピロさんが亡くなったことを知る
ミシシッピ川と海とが1つになる場所を見つけてそこに遺灰を撒いて欲しいと、生前の約束を果たすために、ニューオーリンズを南下する旅をはじめる
〇物語のすべてを覚えておきたいと思った
ハリケーンの予徴ををはらみながらのロードムービー
吃音があり、家族とも少しギクシャクしている
大学進学を控え、自分のことをきちんとわかってもらえない、伝えきれないもどかしさ
出発から旅路の間に出会ったユニークな大人たち
ボーイ・ミーツ・ガール
ベトナム戦争の頃
スピロさんのような贈り物をだれかにプレゼント出来るだろうか
表紙、一目ぼれ
〇『ペーパーボーイ』を読んでなかった!
〇『老人と海』を借り受け、一緒に旅して、次の読み手に手渡す
「魂の四分割」である特別な言葉
学ぶ者:Student
学生はあまりにも成績や学位で評価されすぎている。学びに終わりや達成すべき目標、つまり、コップがいっぱいになることなどあってはならない。学ぶことは息をするようなものだ。やめれば魂の一部がしおれてしまう。
尽くす者:Servant
われわれはみな、負債をかかえている身なのだ、ニュースの伝え手よ。他者に手をさしのべることは恵まれた人生を送っている対価なのだ。
商う者:Seller
人は自分の時間を売って世の中をわたっていかねばならないが、自分を売り渡してしまわないよう気をつけなさい。
探し求める者:Seeker
君は自分が今どこへ向かっているかわかっているか?今いる道に至るために、だれかの指示を求めたことはあるだろうか。
人間の力が及ぶ範囲の外にはなにもないふりをすることは、人生に対する欺瞞と独善と軽視の最たる形だ。
二つのIパワー
知力:Intellect
経験と論理的思考の産物
直観:Intuition
感情や未来への思いと関係が深い
「遺灰をまくための旅にぼくを贈りだしてくれたことが、スピロさんのぼくへの贈り物なんだ。この旅はスピロさんの旅じゃない。ぼくの旅だ。」272
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ペーパーボーイの続編。こちらは読点がある。これも、「スピロさんから、コンマも、ぼくがぶつかっていかなきゃならない人生の一部だ、って言われて」ヴィクターが努力した結果かと思うと、尊い。
「スピロさんは、人は書物や絵画や、そして家でさえも、決してほんとうの意味で所有してはいないのだ、と言った。われわれはただ、この世にいるあいだ、そういうものを借りているだけなのだ、と。そして、人がなにかを所有することができるとすれば、それは、さわったり、手にもったりできないものに限られる。たとえば本から得た知識や、友情や、よい思い出がそうだ、と」
何事も経験が大事なのはわかるけど、ヴィクターが頭に大ケガを負う場面はハラハラしすぎて好きじゃない。命あってこそなので、大ケガも経験、とは思えない。
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ペーパーボーイの続編。
「大学進学をひかえ、新聞社でコピーボーイ(雑用係)として働くヴィクターのもとに、年上の友人・スピロさんの訃報が。故人との大切な約束を果たすため、彼はひとりミシシッピの河口を目指す。吃音のコンプレックスと格闘しながら自分の世界を広げていく、17歳の夏のできごと。前作『ペーパーボーイ』の、6年後の物語」
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「耳に痛いことを言ってくれるのはあなたを大事に思っている人だ」
「魂の四分割」である特別な言葉
学ぶ者:Student
尽くす者:Servant
商う者:Seller
探し求める者:Seeker
真摯に生きることが多くの人と深く知り合うことに繋がる。
誠実に生きることが未来に繋がる。
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これは前作「ペーパーボーイ」の六年後の主人公ヴィクターの、さらなる成長を描いた物語。
前作で幼い主人公を導き、手を引いてくれた魅力溢れる人物スピロさんは亡くなってしまった。
スピロさんの遺言通りにミシシッピ川の河口に遺灰を撒こうと車を飛ばして、ルイジアナまでやってきた主人公。でも川の河口といっても、河口のどの辺りに撒くのが一番いいんだろう…?
地元の18歳の少女フィルとその家族たち等らに助けられ、考えながら、主人公はハリケーンという困難に立ち向かっていく。
話が進むにつれて、グイグイ読まされた。
スピロさんの残した魂の四分割の意味は。
遺灰を撒くシーンでは涙がうるっときた。
読んでいてこちらも学びになるし、何より面白い。
なかなかこんな本には巡り会えない。いい出会いをしました。