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安部公房の現実離れした実験小説といった作品とは一線を画す終わりのない変わらぬ風景の荒野を彷徨う様も夢や妄想の内容においてもリアルで、当面記憶に残りそうな迫力がある。戦争に敗れた日本人のアイデンティティ喪失のようなものを感じた。2023.1.31
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日本を知らない満州生まれの日本人の少年が、両親を失い、戦後日本を目指す。日本の敗走で誰の土地でもなくなった場所で、国府軍、八路軍、そしてロシアが相対する様子は、現代の地域紛争に”代入”しても十分に理解でき、緊張感が伝わる。
でも何より、少年が一人の男と共に町を目指して延々と歩く、荒漠とした風景の描写が震えるほど恐ろしい。もちろん、島国の日本で生まれた戦争を知らない私が読むからだろうが、何もない、人がいない、飢えと低温と狼の恐怖と闘いながら、人がいる場所を目指す、という行程は悪夢だ。
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衝撃のラスト。
全ての景色が主人公の少年の目を通して語られていた。身の丈に合わない言葉で、意味のありそうな警句を主人公に言わせるのは簡単。少年らしい言葉で真理を突き刺していた。
現代的なおもしろさではない。中国の風景描写はすごい。歴史的な価値は高い。
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高は最後の力をふりしぼって、まっすぐ立ちつづけていた。
まっすぐに立つことこそ、人間の尊厳の度合いだというのが、日頃の彼の信念だったのである。
たぶんそれはぜんぜんの間違いではなかっただろう。
彼は直立しているつもりで、実はおかしいほどぐらぐら揺れ続けていた。
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第二次大戦終戦直後の満州を舞台にした物語。
主人公である久木久三少年が、まだ見ぬ日本の地に帰るべく旅をするが、冒険譚のようなワクワクストーリーではない。他の安部公房作品にあるような幻想的要素は鳴りを潜めていて、ひたすらリアルで厳しい。
同胞である日本人や日本軍を頼ることができず、頼る先がアレクサンドロフ中尉や記者の汪というのが何とも皮肉。
かわり映えのしない荒涼とした風景の猫写や、徐々に衰え狂いながらも、なお故郷を目指す者たちの描写が凄まじい。
家族を失い故郷に帰るあてを無くした者の行きつく先は、剥き出しの獣ということなのかと感じた。
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息もつかずにぐいぐいとひきつけられて読んだ。
「希望」と書かれた扉の裏には「絶望」と書かれているかもしれない。そうかもしれないけれど扉を開ける。
結末の感想はどう表現すればいいのだろう。何とも胸が詰まる。