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成績優秀な中学生の弟と落ちこぼれの兄。親の期待は弟に集中し、兄は何をやっても認められないどころか、弟の分まで父親の暴力を引き受ける役割。
普通なら兄は弟に嫉妬したり憎んだりするだろうに、兄の弟への不思議なほどのフラットな姿勢がその後の運命を決めた。兄の、ある意味無垢とさえ言えそうな性格に弟の突拍子もない計画がまるっと入り込んでしまう。なぜ、そこまで、と思わぬでもないが、それがこの兄、庸一の持って生まれた素質なのであろう。白布が何色にでも染まるように。
中学生が、自分の存在を消す。比喩でもなんでもなく、本当に消す。死んだこととしてその後の人生を生きていくことなんてできるのだろうか。この時代だったからできたことなのか。
そしてその弟の企てに、まんまと乗り切る兄。弟の描く小説を、「私小説」とするために物語の通りに生きていく。いや、そんな、あほな。と思うけど、その通りに生きたほうが居心地がよかったのだろう、そこには弟の、兄への思いがあったからか。
けれど、そんな二つの人生がいつまでも続くわけもなく。悲劇的な展開に眉を顰める。そこまでやるのか。
そして、物語が一気にその景色を変える。これは、なに?なにが、物語なの?どこまでが、真実なの?
めまいがする。頭がくらくらとする。物語に取り込まれたのは、弟か、兄か。いや、私自身なのか。
「文身」は分身であり、文信であり、文進であり、文神でもある。
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私小説作家・須賀庸一。須賀が経験したことが小説に描かれる。小説の内容は極めて暴力的だが、全て私小説ということで人気作家となっていた。しかし、須賀には秘密があった、賢い弟の存在。兄は弟のために生きているのか、弟は兄のために生きているのか。描かれた小説は、それは真実なのか虚構なのか。
兄弟の行く末が最後まで気になる。そして、最後の方は特にどこまでが虚構なのか、分厚い雲の中に漂っている感じだった。庸一が描かれるままに行動するところで、そんな簡単に実行し変わって実行し続けて一生を送れるものかしらと思ったりもしたけれど、そこは目を瞑るとして、兄弟の思いや読み進めるごとの虚構の渦への入り具合、娘に流れる血、後半部分が特に読ませました。
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面白くてどんどん読み進めたけれど、「いやちょっと無理あるだろう」という冷めた気持ちがずっと付き纏っていたのも事実。
文章が読みやすく、テンポも良く、ストレスを全く感じずに読めた。この作家さんの本は好きな気が直感的にするので、他の本も読んでみたい。
インパクトのある、面白い本であることは間違いない!
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最後の文士と呼ばれた作家、須賀庸一。
酒乱。女好き。乱暴者。
庸一が書く作品は私小説。
彼の生活をのぞき見ているような背徳感を抱きつつ
何かに取り憑かれたように一気に読み終えた。
P48〈山ほどある嘘のなかに、たった一つ嘘が混ざるだけや〉
P305〈私小説とは言え、小説である限りは虚構と現実の混ざり物です〉
私は上手く騙されたのか?
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悪徳小説家 (創元推理文庫) に似ている
ゴーストライターの話が主で
私小説とどちらが真実という帯文の引きよりは
小説にどんな物語性を求めらるかって
原題な気がする
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他サイトのレビューを読んで興味を持ち、図書館にリクエストしたがなかなか入らず。2ヶ月以上待たされてようやく読めた。“最後の文士”と呼ばれた私小説作家の打ち明け話(?)だった。だがその実態は、キングの『ダーク・ハーフ』を彷彿させる戦慄の内容で、最後の1行まで目を離せなかった。虚構と現実のどちらが本当のことなのか。小説のために生きる狂気を感じた。すごい作品だった。
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頭のいい弟堅次が飛び降り自殺をしたように見せかけて、嫌な両親の元を離れ、都会暮らしに入る。堅次の目的は小説家。しばらくして主人公須賀庸一も引っ越して工場勤めを始める。なかなか売れないので、堅次は庸一を主人公にした私小説を書き、庸一はそれを真似て生きる。私小説は本当にあったことを書かないのいけないので、これで私小説と銘打てることになる。かなり乱暴で荒んだ生活をすることになる。私小説とはそこまでドキュメント性が求められるものなのか、事実というのは難しい気がするのだが。私小説って今どき流行らないスタイルで、私小説だから売れるということがあるのかどうか。フィクションを後追いして私小説にするという設定あたりが小説のネタのための設定のようで興味を失う。さらに、話は過激になっていき、奥さんを殺すなんてことになる。奥さんは奥さんでそれを了承したりして、何がなんだか。映画づくりに実際に人を殺すという映画があったがそれに近い。そんな反社会的なことが評価されることはなさそうだが。
さらに、弟堅次が書いたというのはウソだったというどんでん返しになる。自殺にみせかけたのではなく、実際に自殺していた。そのことを認めたくない庸一は2つの人格を持ち、書いて演じていた。馬鹿らしい。
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肌を傷つけることにより種々の文様を残す文身。
一度彫られたら二度と消すことができない刺青=文身に、身体も心もかき乱される。
酒乱、女好き、乱暴者とスキャンダルまみれの破天荒な作家。
家族の人生をも狂わすその男は”最後の文士”と世間からもてはやされた。
この物語を読み終えてふと脳裏をよぎる。
この男、結局誰なのか。
幼い頃から出来の良い弟と比較された存在感の薄い兄なのか。
そんな兄を自在に操る弟なのか。
虚構と現実をさ迷う小説の”主人公”なのか。
それとも…。
「人間は誰でも虚構のなかに生きてるんや。みんな、誰かの嘘を信じて生きてる」
嘘に嘘を重ね、作家の創った小説という虚構の呪縛に喘いだ結果、最後に残された文身。
消したくても消えない文身を負わされた末路に惑い震えた。
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01月-02。4.0点。
私小説を地で行く、「飲む・打つ・女」の主人公作家。
娘とは絶縁状態だが、作家死亡後に作家から娘にもう一つの私小説が届く。。
珍しい展開の小説。一気読み。終盤に「あっ」と言わせる事実が。
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読み始めてすぐ「あーなんか面白くなさそうー」って思ったけど、なんか止まらなくなって一気に読んでしまった。
出来の悪い兄と優等生の弟。
秀才すぎるが故に世を儚み失踪の道を選んだ弟。
自己実現の為に作家になり、兄の名前で発表する。
弟の存在を知っているのは兄のみ。
弟は本当は生きているのか死んでいるのか。
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これは一体どういう話なのだろうかと思いました。
今まで、こんな小説は読んだことがなかったです。
恐い小説でした。
読み終えたときは凄い小説を読んだと思いました。
時系列にストーリーをたどると、1963年、高校生の須賀庸一は中学生の弟の堅次に誘われて家出の計画を立てます。二人は両親を快く思っていませんでした。
計画を立てたのは、天才の頭脳を持つ弟の堅次です。
堅次は海に飛び降り自殺をしたとみせかけ、先に一人で東京に移り住み、兄の庸一はあとから堅次の家の側の工場に就職して家を出ます。
そして堅次は「自分は小説を書くけれど、自分は死んでいるから、小説家になるのは庸一だ」と言います。
そして書くのは私小説で「庸一は演技が上手いから小説をこれから実体験にして演じてくれれば小説は当たる」とも言います。
庸一はそれを引き受け、見事に堅次の書いた小説は当たります。
好色で酒好き、暴力癖のある作家が庸一のトレードマークとなり、庸一は作家ー文士という肩書で、好きだった高嶺の花の詠子と結婚し、一人娘に恵まれます。
しかし、甘くはなかったのです。そこで堅次は「次は妻を殺して自殺に見せかけた作家を演じろ」と言い出します。そして出だしのシーン。妻に自殺された作家の場面に戻ります。
庸一は本当に愛していた詠子を殺してしまったのか…。
そこには怒涛のストーリー展開がありました。
そこからラストまでは息をもつけぬ展開で物語が進みます。
庸一の人生は何だったのだろう。
そしてもっと不可解なのは、ずっと独り暮らしで小説を書き続けた堅次の人生です。
凄い幕引きでした。
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好色で、酒好きで、暴力癖のある作家・須賀庸一。業界での評判はすこぶる悪いが、それでも依頼が絶えなかったのは、その作品がすべて“私小説”だと宣言されていたからだ。他人の人生をのぞき見する興奮とゴシップ誌的な話題も手伝い、小説は純文学と呼ばれる分野で異例の売れ行きを示していた…。ついには、最後の文士と呼ばれるまでになった庸一、しかしその執筆活動には驚くべき秘密が隠されていた―。真実と虚構の境界はどこに?期待の新鋭が贈る問題長編!
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小説という嘘に、人生が狂わされていく人々の物語。
本が好きな自分は「現実を超える嘘」という存在に浪漫を感じているしそれを肯定するような物語だと思っていたけれど、最後に夫が中村に言った「言葉遊びはやめてください」という叱咤にハッとしてしまった。
言葉には力があるけれど、それは正義とも悪とも言えないものなのかも。浮かれていた熱が冷めたような、気まずい思いを抱きながら、ラスト、言葉の世界に引きずられていく娘を見送った。
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まことさんのレビューで凄く気になっていた作品。
久々に、やられた小説に出会った。
日本海に面した田舎町に生まれた兄、須賀庸一と弟の堅次。大柄な体格とは正反対の気弱な庸一と、神童と呼ばれていた堅次は、廃れた街と両親から逃れる為の計画を立てる。
それは高校受験に嫌気がさし、庸一の目の前で堅次が自殺したことにして、家出するというものだった。計画は見事に成功し、堅次は街から消えた。それから堅次の指示通り、高校卒業した庸一と再会を果たす。
二人で生活しながら、堅次は次の計画を持ちかける。それは自分が書いた小説を兄庸一の名前で出版するというものだった。
小説家になりきる庸一と、ゴーストライターの堅次。作品が売れる度に、堅次の要望は増えていき、いつしか庸一の人生そのものを支配していく。
詠子を連れて実家へ帰省したくだりで、父親が堅次が来たと話している伏線があったのに気づいたのは全てを読み終えてから。
堅次と、私小説として登場する主人公の菅洋市の分身として演じきらなければいけなかった、庸一の人生。
己の分身にして、決して消えることのない刺青。
まさに、タイトルは「文身」しかないと思った。
驚愕のラストに思わず「えっ」と声が出た。
虹の骨を信じていた庸一は、本当はどんな人生だったのだろう....。
数日引きずりそうな感じです。
まことさん、ありがとう。
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放蕩無頼な作家須賀庸一。彼の人生は真実だったのか?
姿を隠し、兄の名で作品を書き続ける弟。彼こそは虚構だったのか?
現実と虚構が渦巻くスパイラルに巻き込まれて、現実を生きることの意味さえ疑ってしまいそうになる。
中盤以降の怒涛の展開はまさに、予想外。