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本書では、社会学について、下記のように定義・説明している。
「社会学は、個人と社会との関係というところに根本的な問題関心を有し、最終的には現代の諸問題に関心を寄せる学問である。また、データを用いた議論も行い、政治や経済に限定されずに文化の領域も研究対象としていて、間口の広い学問である。その研究アプローチは多様であり、また社会的弱者への視点も有する学問である。」
個人と関係のある社会現象全てが研究対象となっているように読めるが、実際その通りのようで、日本社会学会では、会員が自らの専門分野を選ぶためのものとして、31もの研究分野リストが示されている。
この本で取り上げられているテーマも多様であり、「時間」「ボランティア」「紛争」「ファッション」「マイノリティ」「ジェンダー」「医療」「サブカルチャー」「マンガ」「情報プラットフォーム(SNSなど)」「観光」「消費」「移民」「国際結婚」「グローバル化」「組織」「労働」等が章立てのテーマとして設定されている。
本書は社会学の入門書である。
社会学の入門書を読んでみようと思ったのは、社会学者の小熊英二の著作を読んでからである。小熊英二の著作は何冊か読んでいるが、特に面白く読んだのは、「日本社会のしくみ」と「平成史」という2冊の本である(「平成史」は複数の執筆者による共著であり、小熊英二は、編者であり、また、全体の取りまとめ部分等を執筆している)。
「平成史」の方を例にとると、小熊英二は、平成時代について下記のようにまとめている。
「平成とは1975年前後に確立した日本型工業社会が機能不全になるなかで、状況認識と価値観の転換を拒み、問題の先延ばしのために補助金と努力を費やしてきた時代である」
日本型工業社会は高度成長を日本にもたらし、非常に大きな成功を収めたが、現在の日本の政治や社会保障や教育といった、いわゆる「社会の仕組み」は、その成功した時代に設計され導入され定着していったものである。ところが、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれるほどの成功を収めた日本型工業社会であるが、オイルショックを経て高度成長時代から安定成長時代に、更にはバブル崩壊を経て低成長、あるいは、経済的にはほとんど衰退の時代に突入する。要するに、日本社会は大きく変化し、成功は過去のものとなった。ところが時代は変化したのに、時代に合わせてつくられた社会の仕組みは変化しなかった、というか、上記の通り「認識すること、変えることを拒否し」、何とか昔の仕組みを維持しようと、補助金等を含め多大な(無駄な)努力を重ねてきた、平成時代というのはそういう時代であったと小熊英二は整理している。
また、「日本社会のしくみ」の方では、現代日本での生き方を「大企業型」「地元型」「残余型」に分けて説明している。「大企業型」は、毎年、賃金が年功序列で上がったいく人たち。「地元型」は、地元にとどまっている人たちで、所得は比較的少ないものの、地域コミュニティを担い、持ち家や田んぼがあったり、人間関係が豊かだったりする。「残余型」は都市部の非正規労働者が一つの象徴で、所得も低く、人間関係も希薄な人たち。2017年時点では、「大企業型���が26%、「地元型」が36%、「残余型」が38%と小熊英二は推定している。「大企業型」の人たちにとっては、平成時代でも安定した職と収入があり、彼らにとっては、大きな変化がなかった時代。マクロで最も大きな変化にさらされたのが、「残余型」の人たちであると分析している。
小熊英二の本の紹介が長くなってしまったが、私は、ここに書かれている、小熊英二の、日本社会の歴史や構造に関しての分析はとてもシャープだと思ったし、読んでいてエキサイティングでもあった。このようなことを研究する社会学とは、どのような学問体系なのかを知りたくて、この入門書を手にとってみたというのが、本書を読んだ動機であった。
上記した、この本の章立てのテーマになっているの中で、私が興味を持って読んだのは、「観光」「移民」「グローバリゼーション」「労働」といったことである。また、小熊英二が書いているのは、「日本社会のしくみ」というテーマとなろう。
結局は当たり前のことなのであろうが、私は、実は、「社会学」という学問体系そのものに興味があったわけではなく、ここに記した個々のテーマに興味を持っていたのであった。