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ドイツで同時期に開発された人類初の巡航ミサイルV1及び弾道ミサイルV2の特集。
V1の発射サイトは『英仏海峡の空戦』に出てくる。大陸反攻作戦に先立ち徹底的に攻撃するが、重装備の対空火器と分厚いコンクリートにより破壊が困難だったという。
それでもフランス国内は上陸作戦後ほぼほぼ潰せる。しかし、ベルギーの攻撃にも使われ進出した連合軍を悩ますことになる。V1の音は独特なので頭上を飛んでいくのはすぐ分かる。そのまま通り過ぎれば問題ない。音がやむと近くに落ちてきて1tクラスの炸薬でとんでもない被害が出るという。V1の音が消える瞬間が恐怖だとのこと。
V2については戦中戦後に語られる機会が少なく、発射した兵士の声はつい最近明らかになったという。一方で米国に渡ったフォン・ブラウンは良くも悪くも「素質ある」リーダー。己のロケット開発のためならドイツもアメリカも利用し尽くすその人間像の記事は、優れたリーダーに不可欠とも言えるサイコパス気質を存分に描いている。
全般によくできた本だが、佐竹画伯の表紙でV1に補助翼があるのはちょっとしたミス。実際には無人のV1は補助翼がない。
その観点から機体を見ると、機体の横安定はエンジンも含めた大きめの垂直尾翼の上半角効果によっている。ラダーを動かすと機体の横滑りがロールを生じさせ、それで旋回できるようだ。模型飛行機でも使われる操縦手法。
この機体レイアウトは秀逸で、ハインケルから移ったルッサ―のエンジニアとしての才気を感じさせる。
どうもパルスジェットは他のエンジンに比べて恐ろしく軽いらしい。このため、あの位置にエンジンがあってもトップヘビーにはならない。エンジンを後ろ上方に置けばカタパルト発射の邪魔にならない。エンジンと尾翼で大きい垂直尾翼を構成すれば、十分な横安定が得られて主翼に上反角は不要となる。となれば、主翼はまっすぐなパイプを胴体に通し、そこに取り付ければいい。上反角があったらこうはいかない。
V1もV2もアルミを使わない簡素な機体構造をしている。このため、ノルトハウゼンの収容所に隣接する洞窟で収容者を使役して製造が行われた。
無差別攻撃で多くの無辜の市民を殺したV1とV2だが、これは英軍の夜間爆撃と対比できる。しかし、多くの無辜の収容者の命を削りながら製造された事実は米英に釣り合う事項がない。強制収容所にはナチスの真の姿が色濃く浮かぶ。