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2022年1冊目。
前作もデビュー作とは思えない新人離れしたものだったが、その続編となる今作では全てにおいてパワーアップしていると感じた。前作では魞沢のキャラを立たせるためかあえて突飛な言動をさせていた節があるが、今作では続編ということもあるだろうがそういった描写に頼らずとも魞沢の人となりや心情が巧く描けている。
全ての短編が高水準ではあるが「ホタル計画」が意外性も含めてお気に入り。「蝉かえる」や「彼方の甲虫」の切ない読後感もとても良い。
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前作で次作を期待すると書いたが、素晴らしい出来栄えになった。探偵役の魞沢のふわふわした人柄が全編を貫いていて、作品の味わいを決めている。一見ぼうっとしているようでいて、物事の勘所は外さない魞沢。それが作品の深みに繋がっている。表題作の「蝉かえる」や「サブサハラの蠅」などはなかなかの感動作だ。ミステリーではあるが、謎を解明するのが終着ではなく、謎の背景をちゃんと味わせてくれるのだ。
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「サーチライトと誘蛾灯」の続編。
昆虫に詳しい謎の青年・魞沢(えりさわ)がひょっこり現れサクッと事件の謎解きをしていく設定だった前作から少し変化があり、魞沢の感情や想いも盛り込んだ作品となっている。
作家さんによるあとがきによると、これは作家さんの狙いのようだ。
前作の謎めいた魞沢も良かったが、今作の人間的な魞沢も良い。
「蝉かえる」
十六年前、災害ボランティアが見たのは翌日池から引き揚げられた遺体の少女の幽霊だったのか。
「コマチグモ」
交差点での事故とすぐ近くの団地の一室で起きた事故の繋がりは。
「彼方の甲虫」
留学を終え間もなく帰国する予定の中東の青年。ペンション滞在中に転落死した彼は自殺したのか?
「ホタル計画」
サイエンス雑誌のライターとして期待を寄せていた青年か姿を消して五年、読者から青年の行方が分かったと同時に再び行方不明になったことを知らされ、雑誌の編集長は青年の行方を探すが…。
「サブサハラの蠅」
南スーダンでのボランティア活動を終え帰国した医師は、何故蠅のサナギを持ち帰ったのか。
前作同様、そこに至る何があったのか、何故そうなったのかが焦点になっている。
全体的に切なく苦しい話が多いが、最後の最後に救いがあるものもあった。
そして冒頭にも書いたが、魞沢の感情や想いが溢れるシーンも幾つもあった。
『きれいごとのひとつも口にしなければ、こんな世界、生きていけないじゃないですか』
魞沢は自分が友達が少ないというが、それは彼の素直さ率直さ、そして清らかさにあるのかも知れない。
同時にこの作品で彼の原点も少し見えてきた。苦しくても切なくても受け入れる強さもあった。
また昆虫を通して様々な世界の一端を見ることも出来てあれこれ考えさせられた。
さらなる続編があるかどうかは分からないが、今後もこの作家さんに注目したい。
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面白かった。エリ沢(変換出ない)くんのとぼけた優しいキャラクターが良い。エクレア吸って食べるのわかると思った。
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主人公の生い立ちに触れる「ホタル計画」や大学時代の様子が分かる「サブサハラの蝿」連作につながる主人公の優しさが良かった。表題作「蝉かえる」
読み応え良かったです。
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虫好きの魞沢くんが探偵役を務める連作短編集の第二弾です。一作目と同じく、虫をかならずなんらかの意味で関わらせつつ、人間のさまざまな感情が織り成す事件を描き出しています。
探偵役の彼はとてもほのぼのとした人格で、それが話の雰囲気をやわらかく親しみやすくしてくれているのは確かです。それでも描かれているのは主に殺人事件であり、そこに横たわっているのは実に生々しい人々の感情です。ときにエゴスティックな、ときに痛切な純粋な届かない思慕、そういったものが結果的に悲劇を生みだしているので、やりきれなさを含む、切ない読後感を抱かせます。
超然とした人格ではなく、あくまで虫が好きで少し洞察力がある魞沢くんがその事件に立ち会っていく中で、少し落ち込む言葉を呟く描写があるのですが、それもやむなきことだな、と感じました。彼はあくまで、ふつうの青年としてその場にいるのですから。探偵ではなく、正義に燃える人間としてでもなく、その場に立ち会ってしまった不運な渦中の人物として。そのある意味「平凡な」感性こそが彼の良さで、その人の良さを彼にはずっと持っていてほしいと、私は思いました。
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まず、"何が起こったのか"と言うホワットダニット。姑獲鳥みたいな。探偵役の性格付けが好ましく、連作で読みたいと思う昆虫マニア。その柔らかな物腰から紐解かれる謎は力技では無く手堅い。これは掘り出した感が高い。
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昆虫にまつわるミステリー短編集。
蝉、蜘蛛、フンコロガシ、蛍、蠅と様々な昆虫の生態がストーリーに関係してミステリーを構成する。
フンコロガシが天体を利用して真っ直ぐに巣に帰る事が出来る事などの解説も軽快で分かりやすい。
アフリカに睡眠病がありツェツェ蝿が媒介している事などは興味深かった。
全体的に読みやすく非常に面白かった。シリーズらしいので1作目も読んでみたい。
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前作の「通りすがりの探偵くん」から「実体を持った魞沢くん」になった感じ。おとぼけは少し減ったけど、優しさや朴訥さは変わらず。優しいけど悲しい、悲しいけど優しい作品だと思う。
ハエの話は、実際ありそうで怖いな。
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ミステリ・フロンティアらしい良作。
連作短編集で4作品を読んだ後、梓崎優『叫びと祈り』を思い出していたのだが、ラストが『サブサハラの蝿』で、アフリカ。
これってシンクロニシティですかね。
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20/11/12読了
評判通り、とてもよい短編集。
前作は、それなりによいけれど少し遠いところにいた探偵役エリサワが、ぐっと近くなって、ひとつひとつの話の深みが増した感じ。
ホタル計画、彼方の甲虫が特によかったです。表題作も、もちろん。
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シリーズ1作目未読。エリ沢泉のキャラクターが良い。始めの表題作「蝉かえる」は土着信仰的テイスト、ラストの「サブサハラの蠅」は今のコロナ禍に通づるような感染症に纏わる作品。それぞれカラーの違う作品の中に飄々としたエリ沢泉が溶け込み、それぞれに味わい深いものがあった。
また、あとがきの最後にある筆者の飾らない言葉に胸を打たれた。
櫻田智也さん、また好きな作家さんが増えました。
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全ての話に共通で出てくる昆虫好きのエリサワ泉。主張することなく、スッと出てきてサラッと事件を解決していく。大きな事件があって、探偵が先頭に立ってドーンと解決するという王道とは違った感じ。どの話もとても丁寧に書かれていると感じた。
カバキコマチグモの母親が子グモに自分の身体を食物として差し出すとか、フンコロガシの話とか短編だけど書かれていることは細かく、深い。ほとんど再読はしないが、これは私でも何度も繰り返し読みたいと思える作品。文章力が乏しくうまく伝えれないのが残念!
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虫好き青年 魞沢泉の連作短編集 第2弾。
1作目を読んでいないので、本作が初読みです。
勝手に日常系だと思っていたらよく人が死んでいて驚いた。スティーリー・ダンとツェツェバエといえばジョジョ3部ですね。関係ないけど。
個人的には「ホタル計画」が一番面白かった。最後に少年が花を添えず浪花節が入らなかったらもっと……それがないと最後盛り上がらないし少年の見せ場がなくなるのはわかるのだけど、蛇足に感じてしまった。彼はあそこに眠っているのでは?という匂わせで終わったほうが話としては綺麗だった気がして。
だって、掘ってみないと事実はわからないのに、そうやって当事者抜きの想像だけでさもこれが真実だとでもいうように結論づけてしまう。この流れは1編だけならいいけど、5編中4編に当てはまるので、またか~と。
唯一当てはまらない「サブサハラの蠅」はというと、渾身のホワットダニット一本勝負なので、これが読者の想像を超えてこなかったら後に何も残らない……そう思わせない為には文章力が必要だと思います。まだ未熟さが気になるので今後の作品に期待しています。
■コマチグモ
・刑事さん、ハザードを出す前に速度を落とすのは良くないです。前触れなく減速されると後続車に迷惑だし事故の原因にもなるので。
・[自分のあだ名に重ねるほど毒グモの何がそんなに気に入ったのか理解できないけど]というセリフがあるけれど、単にクモの名前と自分の愛称が一緒だったからそう話したというだけで、なぜ気に入ったことになるのだろうか? よく解らなかった。
・[カーテンがひかれている]としか書かれていないので、レースカーテンなのか、レースとドレープカーテンなのか、レースなしのドレープカーテンのみなのか解らない。レースカーテンならば24時間ひきっぱなしでもおかしくないので、こんな真昼間からカーテンひいておかしいなとは思わないだろう。
・前後関係から、クモに絡めた動機と結論でまとめていたが当てはまってない気がする。母グモと子グモの関係が逆になっているし、“身を投げ出して”いるのも、母のためとかではなく自分のためではないのか?
■ホタル計画
・男性に「〇〇子」というペンネームをつけるセンスは厭だ……名付けた本人は満足していたけど付けられた方はどうだったんだろう。
・魞沢の年齢から逆算すると、今から20年ちょい前ぐらいの話なのかな。なら黒電話はもうどこの家庭からも姿を消して久しい時代だから、自分なら黒電話だ!懐かしい!!って興奮するけど編集長は全然気にしてなかったな。
・畑での奇蹟。美しい偶然。こういうの嫌いじゃないです。
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「ブラウン神父」は未読なのだが、泡坂妻夫さんの「亜愛一郎」シリーズは、読んだことがありまして、探偵役の「魞沢泉(えりさわせん)」や、サブキャラクターのちょっとクセのある人物像や、独特なネーミングセンスは、似ていると思いました。あと、時代背景は今なんだろうけど、昭和チックな雰囲気とか。
推理ものとしては、出掛けた先々で巡り会う日常の謎が多く、こんなところも亜愛一郎と似ています。また、一見、何と言うことのない話のように見せといて、いきなり深い核心に切り込む展開もそうだし、推理ものとしては、実は緻密に考えられた構成になっているところもそうです。ホワイダニットが多い渋さだけど、推理ものの醍醐味は十二分に楽しめると思いますし、真相が明らかになることによって紡がれる、やるせなさや哀愁漂う物語も素晴らしいです。後半の書き下ろし三編は、特におすすめです。
以下、ネタバレ含みますのでご注意を。
ただ、連作集の順番には、大きな意味がある気がして、探偵役の泉については、「コマチグモ」までは、亜愛一郎のような本音の読めない、やや食えない人物だと思っていたのですが、その後の書き下ろし三編を読むことで、その印象は変わり、彼の人間性に次第に惹かれていくようになりました。
率直に書くと、これだけ無垢な優しさを持った探偵っていたかなと思うくらいの、イノセントな純情さが彼にはあり、それが真相解明の時には、飄々としているようで実は彼を悩ませ、苦しめている。
なんといっても、一日会っただけの「アサル」から友人と言われたことを忘れずにいて、その後、彼の故郷のエジプトまで出掛け、家族に弔いの言葉をかけに行く行動には敬服させられたし、愛する人を自ら死なせてしまったと思っている大学時代の友人に対しては、
「きれいごとのひとつも口にしなければ、こんな世界生きていけないじゃないですか」
なんて、すごくセンチメンタルな台詞を口にする。探偵っぽくないと思ったが、読んでいる私からすれば、まさかこんな台詞が出てくるとは思わなかったので、「えっ、泉ってこんなこと思っているような熱い人なんだ」という意外性が、私の目頭を少々熱くさせました。
でも、少しもきれいごとじゃないと、私は思う。
なぜなら、
「記憶から消え去ったとき、人はほんとうの死を迎える。(略) あなたが死ねば、ぼくの一部も消えてしまう。あの頃のぼくたちを・・勝手に殺さないでほしい」
人に優しく出来る人は、まず自分自身に優しく出来る人だというのは、どこかで聞いた言葉だった気がする。