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言葉で説明すると、結構暗めでホラーに近いミステリーで伝わるかもしれませんが、東堂さんの繊細で美しい文章・描写で怖さが緩和されたように感じました。
全4章+αの連作短編集です。それぞれ海月館に訪問する死者がなぜ後悔の念に囚われているのか?
主人公・湊が穏やかに解決していきます。
読み進めていくと、湊と何かしら繋がりがある人ばかり登場するのですが、最後の方になると、さすがに繋がりすぎなのではとツッコミを入れたくなってしまいました。
それぐらい多くの人物が登場します。死者達の哀しみや怒り、痛みがヒシヒシと伝わり、切なすぎる気持ちにもなりました。
全体的に哀しくもあり、切なくもあり、残酷な内容でもありました。ただ、不思議と暗めな話ばかりなのにそんなに沈んだ気持ちにはなりませんでした。言葉でなかなか変換しづらいのですが、読み終わった後、ふわっと優しい気持ちになったような感じになりました。
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その町の人は海神様より命をいただき、死して海神様への元へと還る。
そんな信仰がまだ根強く残る港町での死者との交流、と言っていいのか。
未練があって海神様の元へ還れずにいる死者の後悔を晴らす手伝いをしている湊。
ただその晴らす後悔の先には、容赦ない現実があって、なかなか心を抉ってくる。
身内を裏切ってまで愛する人を手に入れたのに、その人は実は……
血まみれの彼女が望んでいたことは、実は……
作中2話は本当に結構容赦がない。
中には、感動系の話もある。
はとこの話は美しい情景描写も相まって、胸打たれる話となっている。
双子の話も、兄の本当の想いを知ると、景色が反転するのが見事。
主人公の湊自身も結構な過去持ち。
何しろ今彼女と同居している相手は、実は……
ただ他の死者たちの話がメインであって、湊と彼との間に何があったのか具体的なエピソードは語られない。
彼らの会話から断片を察することができる程度。
本当のところは主役二人の話もしっかり読みたかったが、敢えて詳細は明かさないというのもありかなと思わせてくれた。
好きに解釈すればいいのだと思う。
好き、だからこそ憎んでいるという彼と。
そんな彼に今こそ殉じようとしている彼女と。
他者がどう解釈しようと正解はきっとない。
なぜなら、それを正しいかどうか決めるのは彼ら自身なのだから。
他人から見れば、死者にすがって生きていると痛ましく思われているのに、それでも幸せだと言い切る彼女なのだから。
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暗くて深い、青い海底。
救いのような、呪いのような、約束。
どんな形をしていても、自分が思うものであるならそれでいい。
この一度きりで良い。
海の底の地獄は、きっと優しい場所。
雨が降るから晴れ空の美しさを知り、
晴れ空があるから、雨の優しさを知る。
春雨の朝のようなお話。