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良い本にまた巡り合った。
それが読了直後の感想である。
自分にとって、良い古典というのは、ただ面白いだけでは終わらない。
強烈な毒を残す。
今回もまた壮絶なクライマックスに唸り鳥肌が立ってしまった。
永遠平和への人類の永遠の願い。
武器を捨てようといっても、強烈な利権が横行している。
死なないことの引き換えであっても、戦争を放棄することはできないのか。
人類の歴史は戦争の歴史であり、戦争の歴史は男の歴史である。
男は戦争が得意だ。
そんな男に女はいう。
「私は望むけどね、平和を」
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チャペックらしい皮肉がきいた小説。彼の人間理解の深さを改めて痛感した。
この本には白い病の罹患で線引きされたことを契機に日頃の恨みまでもが顕在化してきた世代間対立、弱者救済への温度差など様々な比較軸がある。そしてプレイヤーをみても独裁者(=元帥、とその恩恵を受ける軍産複合体)と絶対平和主義者(=ガレーン博士)、そしてその中間で冷静に時にファナティックに行動する一般市民がいる。
いずれも絵が思い浮かぶようで、最後のシーンなんて切なくなった。でもあれが人間なのだ。
以下印象に残った箇所。
白い病に怯える親の前で娘が発した言葉
「だって、今の若者にはチャンスがないの、この世の中に十分な場所がないの。だから、私たち若者がどうにか暮らして、家族をもてるようになるには、何かが起きないとだめなの!」
チャペックの解説
戯曲が存在するのは、世界が良いとか悪いとかを示すためではない。おそらく、戯曲を通して、私たちが戦慄を感じ、公正さの必要性を感じるために戯曲というものが存在するのだろう
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チェコの作家カレルチャペックによる戯曲。
軍国主義の国に致死性の伝染病「白い病」が流行する。対症療法しか為す術がなく多くの人が命を落とす中、ガレーン博士という町医者が特効薬を見つける。しかし、彼は貧しい人しか治療せず、お金持ちや権力を持つ人は、戦争を止めると約束しなければ治療しないと宣言する。
「人が亡くなるのを放っておくのですか?」と問われた博士は、「では、人々が殺し合いをするのを、あなたは放っておくのか?」と切り返す。「これは医師としての務めなのです、戦争を防ぐことが!」
この本は、『「その他の外国文学」の翻訳者たち』で紹介されていたのをきっかけに読んだ。チェコの作者の本を読んだのはおそらく初めて。
巻末にある、訳者の阿部賢一氏による解説が良かった。読んでいる間はあまりチェコの文学ということを意識することはなかったが(物語の舞台自体は架空の国ということになっている)、解説には作者のことや時代背景についての紹介があり、作品が生まれた背景を知ることができた。
本作は既訳があるとのことだが、新型コロナウイルスのパンデミックが始まったことをきっかけに新訳を出そうということで、2020年に阿部氏が翻訳を開始し5月には訳し終わっていたらしい。すさまじいスピード感…。2022年の今よむと、感染症と戦争というテーマがより現実にリンクして感じられる。
作中に出てくる家族の父親が、「中世でもあるまいし、病気でこんなにたくさん人が死ぬなんてありえない」みたいなことを言っていたのが印象的だった。コロナ前は現代でも多くの人がそう思っていたよね。。。
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あっという間に読める。話も面白い。皮肉が効いている。コロナ禍やSNS、ロシアウクライナ戦争等、現代の実社会にも充分通じる内容で驚いた。もちろん架空の国のお話ではあるのだけれど、基本が同じという感じがした。カレル・チャペック氏がこの作品を書いた頃からずっと人類のやり方は変わっていないのだなと、半ば悲しい気持ちにもなった。
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怖かった。
あまりにも現代と酷似していて、ぞっとした。
平和は来ない、恒久の平和は人間には来ないのだ。
誰かに読ませたい、と感じたのは実に久々。
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面白かった。
1937年に発表された作品だけど、そのまま現代に通ずるのはなんとも悲しい。
初めは枢密顧問官や軍事会社の社長、元帥など、支配者に対する批判の色が強い作品なのかと思ったが、読んでいくと彼らはかなり理性的で、主張も(ある程度)一貫しているように感じた。
むしろ第二幕で登場する「父」が代表するように、メディアを通して情報を得て、自身に都合よく意見をころころ変える群衆こそ、平和の敵であり、批判の対象なのだと思う。
狂乱状態の群衆が指導者の手に負えなくなるのは、様々な国家や宗教で実証済みだし、最終的にはその群衆たちが、己を破滅へと導いてしまうのも示唆的でよかった。
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チャペック1937年作の戯曲。中国発の未知の病が世界中でパンデミックを引き起こすというあまりにも予言的な物語。
疫病は世界中に深刻なパニックを引き起こし、50歳前後以上の人のみが感染し死に至る疫病は世代間の軋轢をも生む。特効薬を発見したガレーン博士は永久平和を国家に要求し貧乏人以外への薬の提供を拒む。
国家元帥もクリューク男爵も間違いなく偉大な人物である。国家と自身の信念にとっては。元帥の台詞「...この若者は有能だ、だが分別がありすぎる。偉大なことはなし得んだろう...」は本当に大事なことは「偉大さ」でなく「分別」だと語っている。
物語はハッピーエンドには終わらない。今現在の世界も永久平和は全く成し遂げられていない。
「前書き」「作者による解題」「解説」も秀逸。
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新型コロナ、そしてロシアの侵攻で世界が揺れ続ける中、こんな作品があったのか、と少し恐ろしくもなる作品でした。
突然白い斑点が体中に現れ、死に至る疫病の流行する世界。そして舞台となる国家は戦争を推し進める総統によって支配されている。
この二点が現実と合致してしまうことに恐ろしさとやりきれなさを思います。
戯曲ということで最低限の登場人物の動作以外は、会話のみで話は進んで行きます。その分、想像力が必要とされるかもしれないけれど、セリフだけのため非常に早く読めました。
それでいて内容は濃い。示唆的な部分、寓意的な部分と色々あって、考えさせられる部分もあり、登場人物の葛藤もセリフだけのためか、表情や言葉に表れない心理などを想像させられました。
白い病が50歳以上の人間にだけ発病することで生まれる世代間の対立。
権力者や富のあるものと貧困にあえぐ人たちという、階級間の対立。
本来なら権力者や富のある人が病の治療薬の恩恵を真っ先に受けられそうなのに、それがこの作品に登場する医師の信念によって、階級や富による有利不利が全く逆転してしまう。
そこから持つもの、持たざるものの差や責任みたいなものも考えさせられる。
白い病の場合は発症する者、しない者という点で世代間対立が生まれたけど、現実を見ても、政治への影響力や資産の面で世代間対立というものが鮮明になっていて、そういうところすらも予見していたのかと思ってしまう。
さらに治療薬や戦争による武器産業をめぐって、自分の富や名誉を高めようとする人間が出てくるなど、物語で描かれる人間の欲望はどこまでも現実と地続きに描かれています。
様々な面から著者のカレル・チャペックの視点の鋭さを思わされます。
権力者や金持ちに治療薬を処方する条件として、医師は今すぐ戦争をやめるよう、総統に条件を出します。一方でその条件を呑もうとしない総統。さらに激化する民衆の戦争への熱狂。その行き着く先は……
疫病と戦争。大きな要素を自然に物語世界に取り込み、人間の欲望や悪、愚かさを痛烈に描ききった名作だったと思います。
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コロナと戦争が同時並行で起きている現世において非常に示唆的な内容であり、結局人間の本質というのは変わっていないのではと思えた作品。自身の作り出した幻想に踊らされる国民によって、結果的に破滅に導かれる独裁者と、さらに附随する国民の混乱が文章のあとにも無限に想像できて恐ろしい。
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カレル・チャペックの戯曲「白い病」を一気に読みました。
作家のチャペックはナチス・ドイツを痛烈に批判したチェコの国民的作家です。
また、ロボット という言葉を初めて使ったことでも知られています。
まず、この戯曲を読んで、すぐ頭に浮かんだのがナチス・ドイツまもとより、
スターリン時代のソ連、軍事政権下の日本でした。
戦争・侵略を目指したこれらの国々では、軍事拡大を強力に推し進め、
自国民の優秀さを強調し、敵国を倒すためには一致団結しなければならない
という全体主義的な考え方を洗脳化してきました。
この戯曲はそうした状況の下にあるある国で
「白い病」という疫病が蔓延すというパンデミックが襲ってきました。
体の一部に白い斑点が出来、やがて身体を深く冒し死に至らしめるという
感染力の強い、未知の伝染病が蔓延してきたのです。
しかし特効薬を発見したという町医者が現れ、
特効薬も用いて下層階級の人びとを救いはじめました。
軍部では彼に協力を求めますが、
彼はその条件としてある事を条件として要求しました。
チャペックはこの作品を発表した翌年、肺炎のためこの世を去っている。
チェコスロヴァキアという国もナチス・ドイツの保護領となりました。
所で、コロナ過はまだ続いておりますが、
1918年から1920年にかけ全世界的に大流行したスペイン風邪は
1億人を超えていたと推定されており、
人類史上最も死者を出したパンデミックのひとつとされています。
しかし、日本の歴史の教科書(山川出版)にはその記載がありません。
当時、日本では人口5500万人に対し約2380万人(人口比:約43%)が感染、
約39万人が死亡したとされるにもかかわらずです。
1914年から1918年まで続いた第一次世界大戦で
日本軍が大陸に出兵したことは載っているのですが…
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「ロボット」という言葉を小説で最初に著した著者。序盤の病気の発生源からして、まるで現代の状況を予言していたかのようで驚かされます。
内容は、パンデミックと戦争の両方とも解決しようとする、平和を希求して妥協を知らない医師の孤独な闘い。はたして彼は、国家を動かすことができるのかというお話し。最後の終わり方が、何かを暗示しているようで、考えさせられます。
この戯曲が書かれたのが1937年。第一次世界大戦、スペイン風邪、世界恐慌などを経験。スペイン内戦が起きて、まさにナチスが台頭し始めた頃のこと。このような混沌とした世の中で、二度と戦争を起こして欲しくないと平和を願って書かれたと思います。しかし、そんな彼も翌年には、ミュンヘン会談で故郷がナチスに割譲されて、人類は二度目の大戦に突入していきます…著者の心情を思うと、なんだかやりきれない気持ちになります。