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本作には『ジョン・ソーンダイクの事件記録』と『歌う骨』という、2つの短編集に収められた短編が完全収録。
どちらもクイーンの定員に選出されている、ソーンダイク博士が探偵として活躍する名短編集です。
この全集には、これまで(英米両国でも)単行本収録時に割愛されがちだった、初出雑誌掲載時に挿入された写真、図版、挿絵が原則としてすべて収録されています。
特に興味深いのは顕微鏡写真。
神経細胞、髪の毛、綿埃(ほこり)、植物などのヴィジュアルな手がかり写真があることで、作者フリーマンの豊かなストーリー・テリングに花を添えています。
付録として、ソーンダイク博士の「探偵略歴」や、フリーマンによるソーンダイク博士の紹介文「ソーンダイク博士をご紹介」がついており、ワクワク感が止まりません。
短編集『ジョン・ソーンダイクの事件記録』では、フリーマンが法医学の手法を推理小説に採り入れ、科学的捜査の重要性を説いています。
収録短編が一冊にまとまったのは、本作が初めて。
少し長めの短編「鋲底靴の男」は、戦前に「謎の靴跡」というタイトルで翻訳されて以来の翻訳です。
「よそ者の鍵」は(商業誌では)本邦初訳です。
「博識な人類学者」は、巻末の解説にもあるように、シャーロック・ホームズ物語のある短編を思い出させます。
意外性では「青いスパンコール」。私はこれが一番好きかもしれません。
「モアブ語の暗号」も、実は…と、ひとひねり加えられているところが面白いです。
「清の高官の真珠」は、清の高官の亡霊のエピソードがやや冗長なのが欠点ですが、訳者の渕上さんのお気に入り作者でもあるヘレン・マクロイが書いていそうなプロットのように思えました。
密室物の「アルミニウムの短剣」は、カーター・ディクスンの某長編に影響を与えたと考えられているそうです。
「深海からのメッセージ」は、本短編集のラストを飾るにふさわしい作品でした。
短編集『歌う骨』は、従来『歌う白骨』というタイトルで知られていたもので、世界で最初の倒叙推理小説「オスカー・ブロドスキー事件」などを収めた粒ぞろいの作品集。
なお、収録作品のうち、1作品は倒叙小説ではありません。それがどれかはすぐに分かりますが、ここでは一応触れずにおきましょう。
『歌う骨』収録作品の中で、私の好きな作品は「ろくでなしのロマンス」。
ただ、タイトルにもあるように内容がセンチメンタルなためか、この作品だけ<ピアスンズ・マガジン>には掲載されず、同じピアスンズ社が刊行するパルプ雑誌に掲載されたとのこと。挿絵もありません。
しかし、長編の『オシリスの眼』を読んだときも思ったのですが、フリーマンの描く古色蒼然としたセンチメンタルな描写は、現代の私たちが読むと逆に新鮮で愛おしく思われるのですが、いかがでしょうか。
https://yuseum-tm.com/qq-042/
https://yuseum-tm.com/qq-052/