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昨年他界されたマンガ家・矢口高雄氏
の追悼書籍。秋田魁新報で連載されていた「シリーズ時
代を語る」をまとめたものだが、テイストはエッセイ。
どうやら矢口先生が逝く直前まで、ご本人を含めた編纂
が行われていた模様。
幼少期や青年期の思い出話はもちろん、癌を患い72歳で
創作活動を停止した時期のことまでがしっかりと描かれ
ている。文章量はけして多く無いが、エピソードのチョ
イスに過不足を一切感じない。
圧巻なのは表紙と巻頭のカラーグラフ。
表紙の「鮎の群れの中で微笑む三平」というあまりにも
有名なデザインはもちろん、マンガという枠で括ること
すら躊躇してしまうあまりに美しい原画の数々は永久保
存版。これ一冊で「美術作品」としての価値がある。
つくづく残念なのは、釣りキチ三平「天沼の鱗剥ぎ」が
世に出ず、幻の作品となってしまったこと。この本には
その原画の一部と、ストーリーが記されているのだが、
それがあまりに魅力的。もし先生に悔いがあるとすれば、
この作品を完成させることが出来なかったこと、だと思
う。
鱗剥ぎに関しては完成版をあちらで読みたい。どうかあ
ちらでも、精力的に唯一無二の「矢口高雄マンガ」を描
き続けてください・・・。