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伊予原さんの紡ぎだすお話は、知的好奇心を満たし、そして人との関わりや出会いが本当に自然で、そして迷い人の背を優しくそっと押してくれて、読み終わった後の心に残るじんわりした温かさみたいなものが毎回心地よい。
個人的に、レースバトをやっている人と知り合い、いろいろ話を聞いたこともあって「アルノーと檸檬」がよかった。新聞社でハトを飼い、その世話をするための職業もあったというのは初めて知った。通信機器の発達とともに消えていく職業の最たるものが鳩飼いだったんじゃないかと思う。
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まずタイトルがいいよね。雪、銀、なのに八月?って。気になる。読む前から気になるよね。
装丁も素敵だ。美しい。
『月まで三キロ』で伊予原新を知った読者には文句なしでお勧め。
科学とか物理とか、理系ってなんとなく「冷たい」イメージがある。優しさとか柔らかさとか温かさとか、そういうのと対極にあるというか。
そういう理系の世界に住む人とひょんなことで接点を持った、いわゆる傷ついた人たち。
あいまいで目に見えない傷って、もしかすると理系の世界の未知の中にその傷をふさぐ何かがあるのか。
やさしさって数字では表せないけど、その数字を扱う人の手でしか癒せないものなのかもしれない、なんて思ったり。
5つの物語の中で一番好きだったのは『玻璃を拾う』。多分、それぞれに心に響くのは違う物語なんじゃないか。それを誰かと語り合うのもいい。
どの物語も自分がいままで知らなかったことばかりで、もっとたくさん知りたい、もっといろんなこと知りたい、って気持ちが湧き上がってくる。
あぁ、早くもっと読みたい。伊予原さん、次、いつ出ますか?
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短編集。ちょっと弱っている人たちがちょっと元気になる話。クジラもレース鳩も珪藻も興味深い。とはいえ鳩は苦情出るでしょ。
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五人の傷ついた心を抱えた人々が、地球や自然、生き物の不思議にふれ、自分の中にある生きる力を見つけなおす、五つの物語。
どれも、とても良かった。
ただただ、何もかもが思うようにならないまま、あわただしくすぎてゆく日々。小さな世界の中でもがく、さらに小さな自分。
そんな主人公たちが出会ったのは、自然の不思議や美しさ、それに真摯に向き合ってきた人々。
その人たちも、やはりままならない日々を、自然の力に励まされて生きてきた人たちだからこそ、静かでやさしい心を持っているのだろう。
中でも、『海へ還る日』が良かった。
何もかもが「人並み以下」の自分の子育てに悩むシングルマザーが、ふとしたきっかけで博物館に勤める女性と出会い、幼い娘の中に明るい未来の輝きを見つける物語。
“わたしは、わたしたちは、何も知らない。
クジラは、わたしたちには思いもよらないような、海の中で一人静かに考え続けているのだ。”
それにしても、このどぎつい色の帯はどうかしている。淡い雪景色に淡い光、銀の雪の結晶が散る表紙が台無し…
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何かしらの過去をもつ登場人物が、理科にまつわる出来事に出会い、そこから得た教訓から、少しでも前に進もうとする物語です。
理系というと、どちらかといえば陰のようなイメージを持つのですが、この作品は理科にまつわる情報と登場人物の傷ついた心が融合して、温かみのある雰囲気にさせてくれます。
シリアスさはあるものの、良い具合に会話の面白さで緩和してくれるので、全体的に冷たさは感じず、程よい優しさを感じました。
全5篇の短編集で、各エピソードには、地球やクジラ、珪素など高校の理科で学んだような知識が登場します。
なんとなく憶えていたような憶えていないような情報でしたが、改めて学ぶと、「なるほど、そうなんだ」と思うようなことばかりでした。難しい知識を柔らかく噛み砕いて説明してくれるので、読みやすかったです。
普段あまり触れることのない自然科学に出会うことで、地球や自然の凄みや素晴らしさを学ぶことができ、普通に勉強になりましたし、興味を湧きさせてくれました。
知識もそうですが、この作品の要は、そこから得る教訓でした。今置かれている登場人物の心の状況と相まって、何かしらに心に響いていきます。
どのエピソードもスーッと心に浸みていくようで、癒されました。
各エピソードに登場する主人公の表情が、最初と最後で変わっていくのが想像できました。
周りの環境は、前と変わらないけれども、自分が変わることで、もしかしたら変わるかもしれない。後ろからポンと優しく背中を押してくれるような作品でした。
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優しく温かい話です。
内定を一つも貰えず詐欺もどきに手を出しかけた就活中の男子学生が、偶然知り合った優秀なベトナム人女子留学生との交流の中で前向きに変わって行く姿を描く表題作など5つの短編。
何といっても伊与原さんの特長は、各編の中にとても興味深い科学技術の話が入っていうことです。地球内核の表面にある銀色の鉄の結晶の森とそこに降り積もる鉄の結晶の雪の幻想的風景。博物館の女性スタッフが割烹着姿で描く鯨のスケッチと鯨たちの歌(国立科学博物館の「世界の鯨」ポスター)。地磁気を見、一度飛べば陸標を記憶し、臭覚や音の地図まで使って帰巣する伝書鳩の能力。1㎜にも満たぬ珪藻のガラスの殻を顕微鏡で並べて作る珪藻アートの美しさ(奥 修[著, 写真]『珪藻美術館』)。第2次大戦中に作られた風船爆弾の元になった気象観測の話など。東大大学院を卒業し地球惑星科学の博士である伊与原新さん、そんな話をとても判り易く、しかも本線である「優しく温かい話」の邪魔をすることなく物語の中に織り込んで行きます。
ただただ「優しく温かい話」を書く人は沢山いますが、理系出身の私にとっては(そして多分そうでない人にとっても)良い作家さんだと思います。
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短編5部構成。科学的雑学が身につく。
お話は科学と絡めて進んでいき、主人公が抱える心理的不安を解消していく様なストーリーが多かったかな。就活生と地殻、シングルマザーとクジラ、不動産屋とハト、ある女性会社員と珪藻、原発に関わる仕事をしている家庭持ちの男性と凧と言ったふうに。
八月の銀の雪(就活生と地殻)が個人的に一番刺さった。自分、理系大学院生で目下就活中なので…。
あと雑学についてはクジラの話と戦争で使われた風船爆弾が面白かったかな。
個人的に本屋大賞ノミネート作で一番期待していただけに、他作品と比べ物語が淡々としていた割には舌を巻く様な表現も散見はしていたが少なかったので星4。
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前作に比べると、サイエンスの面は抑え気味で少し物足りないが、人間味は増して心温まる。不器用だからこそ、じっと耳を傾けてみる。新しいことが見つかったり、心が癒されたりする。そんなことを感じた作品。まだ二冊しか読んでないけど、好きな作家になった。
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科学的主題を核におきながら、(例えば東野圭吾のように)理性で割り切らず、感覚的、情緒的にとらえなおし、それにまつわる人間の物語を紡ぐ。
人間の営みと科学とが混然一体となり、読後には深い余韻が残る。
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伊与原さんの紡ぐ、科学と人間を絡ませた物語にはいつも癒やされる。
母なる大地・地球。
5つの短編を読みながら自然に浮かんでくるこの言葉の意味を、読了した今、しみじみ噛みしめる。
そして地球上に棲む全ての生き物を愛しく思えた。
地球上の自然を全身で感じ取り、自然と対峙することは本当に素晴らしい。
数多いる地球上の生き物の中で、何故人間だけが些細なことに惑わされるのか。
何故もっとおおらかにシンプルに生きられないのか。
ちっぽけなことに悩む人間たちをそっと優しく包み込んでくれる母なる大地。
私も静かに耳を澄ませ、大地の声を聴いてみたくなった。
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面白かった!
描かれている世界が地球規模で大きなものから極小さなものまで、それぞれに味わいが違ってどれも面白かったなぁ。
特に好きなのは、
*「八月の銀の雪」
*「玻璃を拾う」
全部が私にとって新しい世界。
読みながらずっとワクワクしっぱなしでした!扱う題材も興味深かったし1話1話のストーリーも面白かった。
本作で知ったことをこの本だけの楽しみで終わらせるのはもったいないなくなる。
「シートン動物記」も読みたいし、色々な微生物を顕微鏡で見てみたい。専門家や研究者の話も聞いてみたいな~♪
壮大なロマンを感じる1冊です。
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空はなぜ青いとか、クジラはとても大きくてすごいとか、子どものころに感じた自然に対する純粋な疑問や驚きは、大人になるとただの知識になっていた。知識は、ほかに何かを得るための手段で、それ自体は面白くもなんともない。
自然科学の醍醐味は、知らないことを知って知識にすることではなくて、知らないことを「知らなかった」と知る瞬間だと思う。
主人公たちはみな、腹にいちもつを抱えている人たちだ。自分の人生に苛立っていたり、諦めを感じたりしている。でも、「知らなかった」何かに出会うことで、世界の見え方が変わり、彼らの人生の捉え方も変わっていきそうな予感で毎話幕を閉じる。
人はこうして、人以外の自然からパワーをもらうこともあるんだな、と思った。
また読み直したい。人生に寄り添ってくれる一冊になる気がする。
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「月まで三キロ」を読んでから一年半になりますが、伊与原新さんの暖かく優しい作品に再度接することができてとても満足です。
小説という形式をとってはいますが、自然科学の話題はノンフィクションなので、ついストーリーを度外視してのめり込んでしまいます。
「海へ還る日」に登場する国立自然史博物館で83種のクジラのポスターを描いた宮下さん。
これは国立科学博物館の渡辺芳美さんのことだと認識し読み終えると、あとがきにちゃんと書いてありました。
「宮下和恵」の経歴やプロフィールは「渡辺芳美」氏とはいっさい関係ないという断り書きが必要だと思ったのでしょう。
「アルノーと檸檬」に出てくる伝書バト『毎日353号』もしかり、「十万年の西風」に出てくる風船爆弾の放球基地の場所も全て事実です。
伊与原新さんは地磁気の研究をしていたので、地球の内部構造に詳しいのは当然で本書のタイトルにもなっている「八月の銀の雪」で地球の殻がテーマになっているのは不思議ではありません。
そして伝書バトやクジラがテーマになったのも、地磁気を利用している生物である渡り鳥やクジラに興味があったからなんですね。
自然科学に関係する話は分かり易くて、文系・理系の区別なしに面白いのではないかと思います。
伊与原新さんの小説は、実話のように思えてしまいます。
「八月の銀の雪」のグエンさんも、実在する誰かがモデルになっているのかも知れません。
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どの物語も静かで美しかった。科学は堅苦しい冷たいものではなく温かいものなのだ。帯にあった『希望の灯りをともす』という言葉の通りの、前に進めそうな気持ちになる5篇だった。
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『月まで三キロ』が凄く良かったので、今回も期待して読みました。サイエンスの部分がとても面白く興味を惹かれ、そして人間の物語が交差するところ。とても良かった。『月まで三キロ』が良かったと感じた方には読んで欲しいですね。