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【あらすじ】
耳を澄ませていよう。地球の奥底で、大切な何かが静かに降り積もる音に――。不愛想で手際が悪い――。コンビニのベトナム人店員グエンが、就活連敗中の理系大学生、堀川に見せた真の姿とは(「八月の銀の雪」)。会社を辞め、一人旅をしていた辰朗は、凧を揚げる初老の男に出会う。その父親が太平洋戦争に従軍した気象技術者だったことを知り……(「十万年の西風」)。科学の揺るぎない真実が、傷ついた心に希望の灯りをともす全5篇。
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科学ってすごい…と思える短編集です。科学がすごというか、例え日の目を浴びない分野であっても、科学に深く関わっている人がすごい。そんな人になりたいと思ってしまいます。
どの話にも共通するのが「科学」です。この本を読むと、人間が何百年かかっても解き明かせないような無限の世界が広がっていること、そして、ありきたりな言葉ではありますが、人間のちっぽけさを思い知らされます。日々の悩みが「地球レベルで見たらどうでもいい」と感じるレベルです。
最近、YouTubeで生物や地理、宇宙などに関する解説動画をよく見ているのですが、知らないことを知れるってすごく楽しいですし、その分野が好きで日々研鑽している人がこの世のどこかにいると考えるとワクワクしてきます。自分自身も好きなことに対してそうありたいのですが、中途半端で歯痒いです。一生かけても解き明かせない・調べ尽くせないことを追い続ける…人生において、そういう一面があっても良いなと思いました。
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人間の細かく複雑な感情と相反するような科学の世界が、上手く融合して味わい深い作品になっていた。「十万年の西風」の風船爆弾の話は初めて知った。科学の進歩、発見は常に表裏一体であることを痛感した。
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登場人物が悩み立ち止まる所に、自然や科学にきちんと裏付けされたストーリーが織り込まれている。
どの物語も静かで淡々としているけれども、皆んなふとした出会いから、揺るぎないものを得て、堂々と生きてゆく。とても素敵な本だ。
そして駄目なものは駄目だと、原発にも触れている。この作家さん、他にもぜひ読んでみたい。
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とてもとても良質な短編集。
どの話も日常生活と自然と言うテーマがあって、
日々を生きるのに不満や苦しさを感じている人達が、ちょっとした事から地球の核の話や鯨の生態、鳩などから日々を生きる勇気をもらったり救われるきっかけを見つけていく。
言葉にして書くとなんで鳩から人の悩みが救われるんだ!?と思ってバカにされそうだけど、その人と自然の関わり方がもの凄い絶妙なバランスで書き出されていて、読んでいるとどの話もストンと胸に落ちてくる。
鯨の話や鳩の生態なんか生きるのに関わりなんかねーだろ。とか思うところをまるで無理なく自然と短編の話として完成させてるのは凄いとも思った。
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自分には何も取り柄がないと感じている主人公が、自分が偏見で見ていた人から大切な何かを学ぶ物語。心が浄化されるとても素敵な短編集。
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2021年本屋大賞ノミネート作&第164回直木三十五賞候補作で、伊与原新さんによる全5編収録の短編集。すべての話が理系の科学知識の神秘のようなものが題材となっていて、凄くリアリティがある(調べたら伊与原さんは東京大学大学院理学系研究科出身らしく納得)。こういう短編はどれかひとつが飛びぬけて「面白い!」となるのだが、この作品は表題の「八月の銀の雪」「海へ還る日」「アルノーと檸檬」が甲乙つけがたい面白さ、すべての短編が全然テイスト違うという引き出しの多さも凄い。
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あー、「月まで三キロ」の人だ。
本を買ってから気づく。
「科学の揺るぎない真実……」の文句に惹かれて買った。
理系の著者、すごい!
この地球もクジラもハトも珪藻も偏西風も
すごい!
なーーーんにも知らないけど
すごい!
並行して人間を描く、情緒的に。
すごい!
五編がそれぞれユニークであっという間に読み終わった。
おもしろかったです
≪ この大地 海空鳥の 声を聴く ≫
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これはあれだ。理系のロマンチストが書いたやつだろ。
2/5くらい読んだところで作者のプロフィールを見る。
理工学部。ほら、やっぱりそうだ。
読み進めていくと、人間に最も必要なものは好奇心なんじゃないかと思えてくる。決して明るいばかりの物語ではないけれど、知らないことが次々出てきて単純に楽しい。わくわくする。
人知の及ばないものはあまりにたくさんあるんだ。人知が及ぶ問題なんて、取るに足らない。
何か大きなものに包まれるような安息感。
純粋な好奇心に満ち満ちる、懐の深い、ゆったりとした、広くて大きな小説だ。
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科学が絡んだ5つの短編小説
自然の壮大さ、生物の神秘が人の小さな心を癒してくれるようでした
それぞれ違う分野の科学にまつわる話ですが、どれも面白くもっと詳しく知りたい…!
と理工学部出身の自分としては、理系心をくすぐられました
耳を澄ませていよう。その人の奥深いところで、何かが静かに降り積もる音が、聴き取れるぐらいに_φ(・_・
2021/02/21 ★3.9
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6編の短編で構成されていて、表題作の「八月の銀の雪」がトップバッター。就職活動がうまくいかない大学生と地球の内核を研究するベトナム人留学生が主人公となっていて、最近コンビニに入るたびに外国人労働者が多くなったと感じていたので、初読みの伊予原さんにすんなりととけこんだ。
2作目の「海へ還る日」は子育てに自信が持てないシングルマザーと学術的な資料や研究に使う生物画を描く画家、「アルノーと檸檬」では俳優の道を諦めた男と伝書バトの本を書く元科学記者、「玻璃を拾う」は失恋した女性と珪藻アート作家、「十万年の西風」は原発の下請け会社を辞めた男と気象研究者と、それぞれに登場する主人公たちは現代社会で誰もが抱える悩みを持っている人たち。困った状況で、彼らは科学やサイエンスに触れることでヒントを得て、前向きな気持ちを取り戻していく設定だ。6編を通して登場する主人公たちに心を寄せるというより、会話文で紹介される蘊蓄めいた科学的な理にとても興味をそそられた。
読んだばかりの「少年と犬」と同路線だったからか、2作目の「アルノーと檸檬」が印象深かった。故郷に帰れない主人公と違い、死にものぐるいで家に帰る伝書鳩は読んでいて切ない。まだ通信手段がない時代には新聞社では伝書鳩が飼われ、鳩の飼育係が居た。その飼育係は定年後もアルノーと云う素晴らしい遺伝子を引き継ぐ鳩を飼い続け、遠隔地でアルノーを放つ。ところがアルノーは自分の巣へ戻る途中でアクシデントが起き長年帰ることができない。何とかたどり着くのだがもうすでに飼育者は死んでいた。マンションに建て替えられて巣へ帰れずに隣の古びたアパートのベランダへ降り餌をもらっている。鳩は太陽コンパスと体内時計、地磁気などにより方角を知る能力に優れ帰巣本能が高いらしい。「身近な鳥のすごい事典」で知識を補ったが、人間の勝手さに腹立つ思いがこみ上げる。地球は人間だけのものではないと改めて教えてもらう。シートン動物記の「伝書鳩アルノー」も面白そうだ。
6作目の「十万年の西風」も原発も絡めて改めて頭に入れて置かなければならないテーマだろう。福島県へ続く千葉の海岸で凧を揚げている気象研究者が語る会話に背筋が寒くなった。偏西風を利用してアメリカ西岸へ打ち上げられた風船爆弾などの話は知っていたが、気象学を研究していた人との絡みが何とも悲しい。
すべて6作とも設定はほぼ同じ。起承転結といった物語の展開を望む人向きではないが、ストーリーの中で核となり会話となり語られる蘊蓄(うんちく)は耳を傾ける価値があると思う。学問を究めた結果を知ることで得られる安心感を小説の中で表現できたらと語る著者の思うところだろう。単に学術書を読んで知識を得るのは退屈だが、こういう形で得られるのは有益だ。
デビュー作の「月まで三キロ」を読んでみたくなった。
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あぁいいな、この本。と思う。
科学のエッセンスが、はらはらと雪のように舞い降りて、そっと包んでくれる。
理系が苦手な方にもスッと寄り添ってくれる短編集。
果てしなく広がる宇宙には想いを馳せても、自分の住む地球のその内側なんて、今まで考えたことがなかった。
知らない知識に触れるたびに、感嘆する。
きっとまだまだ知らない世界が沢山あるのだと思う。
みんな同じくここに生きているけれど、持っている知識はそれぞれで、見えている世界は皆、異なるのだろう。
科学の知識が人の人生と組み重なって、希望を生む。
どんなことも、突き進めれば、景色が開けるその瞬間がある。
この地球で、耳を澄ませ、匂いを嗅いで、目を凝らし、風を感じて、希望を描いて生きていく。
この作品が与えてくれる光が、世界を優しい色に染めていく。
祈りにも似た気持ちで、それを多くの人と分かち合いたいと願う。
あぁいいな、この本。
そう思う。
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高校時代、地学の先生が大好きで(恋愛的な意味合いではなく)、地学部に便乗してフィールドワークに行ったりしたことや、授業内容なんかを思い出した。
毎日生きてても、地殻のことや珪藻土のことなんか意識にないけど存在してるのですよね。伝書鳩のことや風船爆弾のこと、知らないことがなんて沢山あるんだろう。駆け足で読んだけど、ただ面白いでは無く、自分の中に何かを残した本だったように思う。
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全5篇からなる物語。 一番胸に響いたのはタイトルにもなっている『八月の銀の雪』。 就活がうまくいかず、いろんなことに鬱屈としている主人公が、コンビニ店員であり地震の研究をしているグエンと出会い関わりあう内に、人間の中身も層構造のようなものだと気付く。これからは耳を澄ませようと、前向きな姿勢になれたところで物語は終わる。現在の自分の心情に一番近い物語であった。 『アルノーと檸檬』や『玻璃を拾う』なども切なさの果てに一筋の爽やかな風が吹くような読了感が気持ちよかった。 気分が落ち込む時などに読み返したい。
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八月の銀の雪が一番印象に残っている。伊予原さんの本を読まなかったら、地球の中にどんなものがあるのかも知らなかった。科学で習わなかったこと、興味を持たなかったことが、たくさんではきかないくらいある。それを、物語を通じて知ることができる。フィクションだけど、ノンフィクション。「確かなこと」が心地良い。
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社会の行き詰まりを感じて悲観的になっている主人公。
疎遠だったのにビジネス目的ですり寄ってきた知り合い(友達では無い)と出会いながら物語が進んでいきます。
個人的には「鬱陶しい」の一言。
コンビニバイトのグエンさんとのやりとりでは地質学的な話が出てきます。専門的な話もちらほら。
教科書か図鑑で読んだような話、地球の真ん中にドロドロに溶けたモノがあるという。
実際に住んでいる地球の事は謎だらけ。これだけ文明が進んでいると思うのに海底掘り下げてもたかだか12キロとは驚きですね。
タイトルにある「八月の銀の雪」は地球のコアな部分と人の秘めたる気持ちになぞらえているのかなと思いました。
伝書鳩の話も、それまでの人生、これからの人の生き方など個人的には響きましたね。
短編なので繋がりはないように感じましたが、それぞれ読み進めると地球の中心(コア)というものからはじまり、人の信念、他の動物の本能?軸?的なもの、皮肉にも原発事故になぞらえ「核」に繋げて人の生き方を投げかけていたように私は思えました。
風船爆弾の慰霊碑、そんなに遠くでは無い所なので一度行ってみたいと思いました。