投稿元:
レビューを見る
「民主主義とナショナリズムの相互作用という観点から、フランス革命以来の現代民主主義の思想を統一的に把握し、欧州ナショナリズムの歴史の中で、現在見られる様々な現象を理解しようとする試み」と「はじめに」にあるように、近代民主主義論の先駆者であるルソーの議論や「国民」を政治の舞台の中心に置いたシィエスの議論から出発しつつ、民主主義の思想や運動がナショナリズムのそれとどのように結びつき、現実の制度や秩序に影響を及ぼしてきたかを総合的に叙述している。ただし著者の問題意識は、民主主義とナショナリズムの相互作用からなぜ強力な指導者を待望する民主主義論が誕生するのか、というところにあり、そのためヴェーバーの指導者民主政論やC・シュミットの民主主義論の分析に特に力点が置かれているように思われる。それは翻って、現代社会で「ポピュリズム」という概念によって把握されている諸事象――ただし著者はポピュリズム概念を使用しないことを明言している――の根源がどこにあるのか、という問題に対する著者なりの把握を示すことにつながっている。「「指導者」や「決断」の概念が、ドイツ・ナショナリズムの中心的経験、特に1870年の戦勝体験や1919年の敗戦・革命体験に由来することを知るならば、新型ナショナリズムの感染症が突然現れて重症化するのを予防できるのではないかと期待している」(p. 286)という一節は、2020年以来の社会情勢と重ね合わせたレトリックという意味でも、また著者の立場を示す一節という意味でも興味深い。